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ブラインドマン その調律は暗殺の調べ /
À l'aveugle /
Blind Man

Xavier Palud

2012 94 Min. 劇映画

出演者

Jacques Gamblin
(Philippe Lassalle - 殺人事件を追うベテラン刑事)

Lambert Wilson
(Gabriel Narvik - 連続殺人犯)

Raphaëlle Agogué
(Héloïse - 若手刑事)

Arnaud Cosson (Vermulen)

Antoine Levannier (Simon)

Frédéric Kontogom (Briand)

David Capelle (Marchand)

Marie Vincent
(Rochambeau - フィリップの上司)

Nicolas Grandhomme
(Cossiga - 警察内の調査官)

Nathalie Vignes
(ロシャンボーの秘書)

Pascal Demolon
(Warnas - 最初の被害者の元夫、麻薬中毒)

Moïse Santamaria
(Fred - ワルナスの同居人)

Elsa Kikoine
(Isabelle Royer - 1人目の被害者)

Daniel Lobé (最初の犠牲者の護衛)

François Lescurat (Priseur)

Miglen Mirtchev
(Sergueï Constantin - 2人目の被害者、金持ち)

François Lescurat
(Priseur - 警察官)

Agnès Delachair (売春婦)

見た時期:201年1月

要注意: タイトルからしてネタばれ!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ リュック・ベソン

おもしろいと思ったら制作にリュック・ベソンが関わっていました。ファンタに来てもおかしくない犯罪映画ですが、作られた時期と合わなかったのか、来ていません。監督のパリューはまだ作品数の少ない新人。父親も映画界で活躍する人。ぽっと出て来ましたが、手堅い作品を作っています。

★ タイトル

オリジナルや英語のタイトルは、主人公の1人が盲目だということだけを示しており、大きなネタバレになっていません。邦題はネタバレ。調律と暗殺という言葉が入ってしまうと、前半を見ることなくウィルソンが犯人だと分かってしまいますし、暗殺という言葉で犯行動機がばれてしまい、最後になってようやく犯行動機が分かって観客も納得という楽しみが見る前から殺がれてしまいます。

何も知らずに見ると前半は精神異常者の猟奇殺人の様相を呈しており、中盤では色々なバリエーションで捜査をかく乱する特殊な殺し屋かと思え、実はきちんと指令を受けた暗殺だったとはっきり分かるのはかなり後の方。それがタイトルで先にばれてしまいます。

同じウィルソン主演の作品でも迷宮の女では、主人公の頭の中が迷宮になっている事が早々分かっても、終わりぎりぎりのところまで隠してある伏線があり、アッと驚く・・・という、内容をほとんどバラしていないタイトルになっていました。

ブラインドマン その調律は暗殺の調べは、《その調律は暗殺の調べ》という部分は止めて置いた方が良かったと思います。

★ 主演

2人の中年男の対決で、1人は悪漢のランベール・ウィルソン、もう1人はフランス版アル・パシーのといったよれよれの出で立ちの刑事ジャック・ガンブラン。ウイルソンはマトリックスや、ファンタの作品でお馴染み。問題ありのキャラクターを貰うと輝く俳優です。フランス人としてはかなり大柄の191センチ。カメラのアングルのせいか、大男という感じはしません。私の見た作品では極端で、一方では物凄いダンディーな出で立ち、他方では無精髭を生やしたむさ苦しい男も演じます。

ブラインドマン その調律は暗殺の調べではずっとよれよれの無精髭男で出て来て、ショーダウン間際に自分に残された最後の誇りを立派な制服姿で表現します。ウィルソンはそこでは非常にダンディーで、国に忠実だった男の悲劇を強調しています。

ジャック・ガンブランもフランスではスターで日本の作品にオランダ人の役で出演したこともあります。ブラインドマン その調律は暗殺の調べではランベール・ウィルソンと負けず劣らずよれよれ、くたくた男の役を演じていますが、普段は明るい感じの人のようです。

ブラインドマン その調律は暗殺の調べではウィルソンは悩むことなく目的に向かって盲目的に進む男、ガンブランは色々な悩みを抱えながら、仕事に専念して妻の死を忘れようとする男を演じます。2人とももっとややこしい役を与えても軽くこなしそうな印象です。

★ あらすじ

サイコパスではないかと思えるような残虐な連続殺人が起き、中堅ベテラン刑事フィリップが若い女刑事エロイーズと協力しながら捜査をするという枠になっています。

☆ 1人目の犠牲者

冒頭殺されるのは若い女性で、細いワイヤーのような物で首を絞められ、その後体をバラバラに刻まれてしまいます。すでに犯人のめどがつくような伏線が張られていて、かなり最初の段階で犯人が盲目だということが分かります。この女性には護衛がついていて、家の中をチェックするのですが、屋根裏部屋の電気がつかず、暗闇の中に人が潜んでいるはずは無いと勝手に考え、護衛はそれ以上その部屋を調べません。

女性は護衛がアパートを去り、まだエレベーターに乗っている頃、まずピアノ線かと思えるような細いワイヤーで吊り上げられてしまい、恐らくはそのワイヤーが首を切ってしまうので声を出す間も無く死んだと思われます。犯人は自由業のピアノの調律師ガブリエルです。

女性の死体はほとんど原型をとどめておらず、肉のぶつ切りのような形で発見されます。映った犯行現場は高級なアパートの台所で、調理台の上に血と肉の一部が映り、それで他がどうなっているかを想像するような演出です。美しい女性だったので、観客には鮮明な印象を残します。

☆ 2人目の犠牲者

次に殺されるのは大富豪。特別な型のスポーツカーが競売に出され、犯人と競い合いになります。大富豪はパーティーの会場で直接競りに参加し、犯人は電話で匿名参加。犯人が購入を諦め、富豪が競り勝ちます。犯人が富豪に電話で祝いの言葉を言い、ちょっと車に乗ってみてくれと話しかけ、富豪が車のキーを回したとたんに大爆発。体は木っ端微塵。

犯人は実は会場の近くに陣取っていて、爆発を確認した後姿を消します。

☆ 3人目の犠牲者

3人目の犠牲者は傭兵で、事件は偶然起きたように見えます。盲目のガブリエルが道に出たところ後ろからその男に跡をつけられ、襲われそうになります。ガブリエルは男に気づき大格闘になります。翌日死体が発見され通報されますが、被害者の顔は跡形もないほど殴られています。

最初の2つの事件はピアノの調理津師という共通項があったため、ガブリエルは警察に呼ばれ質問を受けますが、これと言った証拠が挙がらず、無罪放免。3つ目の事件は別な話だろうと思われており、フィリップが1人で担当します。

間もなく被害者が3人とも国のエージェントだった事が判明。捜査はフィリップとコンビを組んでいる若い女性刑事エロイーズが引き続き担当します。

フィリップは2年ほど前に妻を亡くし、その後生活が破綻しそうになっていて、精神状態が非常に不安定。エロイーズはフィリップに好感を持っていて、しきりになだめようとします。そんな2人が国のタブーに触れてしまい、捜査がやりにくくなります。単純に殺人事件だから犯人を捕まえようという2人と、国の恥部に触れてもらいたくない勢力の間に2人には分からないうちに対立関係ができて行きます。

フィリップはガブリエルが犯人だと直感しますが、直感だけでは逮捕するわけにも行かず、かつ、動機が不明。犠牲者が国家公務員だったとしても、犯人の私怨かも知れないし、誰かがヒットマンを送って来た可能性も捨て置けません。その場合はガブリエルはただの手段で、後ろに命令を出す犯人がいるでしょうし、ガブリエル以外に犯人が何人いるか、今後犠牲者が何人出るかも分かりません。

最初の事件では被害者の女性は肉片と化し、精神異常者の犯行と考えていいぐらいの有様。2人目は衆人監視の中爆弾でふっ飛ばします。3人目は体はそのまま残っていて、顔だけがめちゃめちゃに破壊されています。手口がそれぞれ違い、殺人オタクの執着タイプとは違います。パターンという物が無く、盲目の者にそこまでできるかも疑問。ただ、CSI が丁寧に検査すれば現場に毛髪などが残っているかもしれず、DNA が出て来るかも知れないので、その部分はこの作品のプロットに少し穴が見えます。

捜査の方向を変え、フィリップはガブリエルの身元調査を始めます。ガブリエルは孤児で修道院で育ち、やがてパイロットになっていましたが、事故で死亡。誰かがガブリエルのアイデンティティーを盗んだところまで突き止めると、上司が口を出して来ます。

調律師の本名はルイと言い、アフガニスタンの戦争で目を負傷するまでは優秀な兵士だったことが分かります。仕事の都合上身元を隠して保護する必要が生じたため、国から秘密裏に、しかし公式にガブリエルのアイデンティティーを与えられていました。

国から公認でアイデンティティー変更。立派な軍歴があり、サイコパスの話は立ち消えになりそう。恐らくは傷痍軍人としてきっちり年金も出ていることでしょう。

★ 国の絡んだ怪しいビジネス - ネタバレ

中盤までにガブリエルの事情も分かり、観客にはガブリエルが人殺しをやっている事も分かっているので、残るは動機。

実は軍人でガブリエルの上司に当たる人間がガブリエルに殺しを依頼していたのです。上司の説明によると殺された者たちはテロリスト系。ガブリエルは秘密指令を受けて悪人を退治しているつもりでした。なので行動は冷静で、殺人を楽しむ精神異常者などではありません。単に退役後も上司のためにプロフェッショナルな仕事を重ねているだけ。

ところがこの上司がとんでもない武器ビジネスをやっていました。都合の悪い人間をガブリエルに消させていたのです。フィリップはそこまで突き止め、ガブリエルを捕まえに行きます。警察内では彼の精神状態が不安定な事もあり、停職になるところだったのですが、上司が片目をつぶり、同僚のエロイーズが下手な芝居を打ってフィリップを外に出したため、かろうじて捜査を続けることができます。

ガブリエルの所に乗り込んで行ったフィリップは、ガブリエルが利用されていた事を説明。ガブリエルはフィリップに心情的に近かった事もあり、フィリップの話信じます。しかし自分はもう後戻りできないところまで来てしまったと感じ、自殺する道を選びます。

★ 悲しみのショーダウン

この種のショーダウンは時たま映画に出て来ます。ガブリエルは彼を騙した上司を退治。無駄に死んだ仲間の事も考え5発撃ちます。リボルバーでないため、まだ2つか3つほど弾が残っているのかなと思いながら見ていると、フィリップとガブリエルは銃を向け合い、対決になります。フィリップは説得してガブリエルを生きたまま逮捕しようと試みます。

ガブリエルは自分にはこの世に誰も残っていないから死ぬ、フィリップはまだこの世に残るべきと考え、マガジンを抜いた銃をフィリップに向けます。同時に撃ったように見えますが、ガブリエルの銃からは弾が出ません。そういう形の自殺でした。リボルバーを使わなかった理由はそのため。リボルバーですと弾を抜くところが丸見えになってしまいますし、フィリップに見られずにこっそりそんな事はできません。マガジンですと話をしている間にそっと抜き取ることができます。

後半の後半、ガブリエルは大きなパーティーで上司に会うため、髭を剃り立派な制服姿。その姿で上司を殺し、自分はフィリップに撃たれます。孤独で国に尽くすことを最後の希望として生きていたガブリエルの最後の誇りが制服に表われており、登場時間は少ないながら忠実なガブリエルを悪い事に使った上司の悪漢ぶりが際立つように演出されています。

落ち着いて考えると前半監督が観客を連続猟奇殺人に誘導しようとした痕跡が見えます。中盤からはガブリエルの身元と、被害者の身元が割れ、政治問題化します。プレスに発表できない事情がどんどん出て来ます。そして最後は自殺に見えない形の自殺で事件解決。

フィリップには家族もおり、犬も飼っていて、エロイーズからは好意を持たれているので、今後は上手く行くのではないかという終わり方。ガブリエルの方は目も見えず、友人は何人も死亡。間違った人を殺してしまっており、忠誠を誓っていた上司は国を裏切っていたという全て裏目状態。それで死を選びます。

★ ちょっと無理もある

ウィルソンは迷宮の女に続き改めて精神的に追い詰められた男を上手に演じています。ただ、私は冒頭から彼がいつから盲目になったのだろうと考え続けていました。生まれた時からとか、子供の頃から目の見えない人は、早々と点字を覚え、記憶力が発達し、目でできない事を他の方法で補う事を覚えます。

ぶっ飛んでしまったのは、彼がちょっと前まで有能な兵士としてアフガニスタンで従軍していたと聞いた時。そんなにすぐ調律師になれるものなのか、それとも機械を使った調音をするのかなどと疑ってしまいました。

ドイツにはバンドのメンバーやクラシックの演奏家でも音感の悪い人が多く、私は時たまロックやパンクのバンドに「音が合っていない」とアドバイスした事があります。バンドを見ていると、中に1人ぐらい多少ましな人がいて、自分のギターをその人に調音させている場面を見たことがあります。4分の1音ぐらい外れていても気づかない人がいるのでびっくりする事があります。音を外す事を恥と思っている人もおり、そういう人は自分では分からないらしく、機械を使って調音します。ただ、バンドのように複数の人が一緒に演奏する時は、ただ機械で合わせればいいというものではなく、機械でほぼ正確に合わせた後最後は自分の耳に頼らなければきれいなハーモニーは出ません。しかしそこまで考える人はほとんどおらず、かなりいい加減です。また、 クラシックの人は滅茶苦茶音を外す人がいます。歌の人に特に多いです。

・・・とまあ、目が見えているとこんな状態。しかし目が見えない人はそこの感覚が良く訓練されていて、実際にきちんと合わせるかはともかく、違いにはよく気づくようです。しかし元々音楽などに深く関わっていないとちょっと前まで兵士だった人が急にピアノの調律師というのは無茶な設定だと思います。

成人して職業に就き、昨日まで見えていた人が急に視力を完全に失う場合、まずはその生活に慣れるのが大変。けっ躓いたりしないように家の中で物を置く方法も変えなければなりませんし、冷蔵庫の物が腐っていないかを確かめる方法も考えなければなりません。買い物も大変。人とコンタクトを取らず、助けも求めず生きて行くのは非常に困難。コンピューターは近年文字を音声出力にする方法があり、障害を持っている人は国からプログラムの補助も受けられるので、インターネットを使う事は可能です。しかし日常生活の困難は大きく、そんな中証拠も残さず人殺しをして回れるとはとても思えません。

この点がプロットの大穴と思えますが、そんな事は気にせずどんどん作ってしまった作品です。乗りが良ければ強引に通せるといういい例。

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