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トータル・リコール /
Total Recall /
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O Vingador do Futuro /
El vengador del futuro /
Total Recall - memoires programmees /
Total Recall - Atto di forza

Len Wiseman

USA/Kanada 2012 118 Min. 劇映画

出演者

Colin Farrell
(Douglas Quaid - 工場労働者 / Carl Hauser - レジスタンス)

Steve Byers
(Henry Reed - ハウザーの別な姿)

Leo Guiyab
(ハウザーの別な姿)

Nykeem Provo
(ハウザーの別な姿)

Ethan Hawke
(ハウザーの本当の姿)

Kate Beckinsale
(Lori Quaid - ダグラスの妻 / 政府のエージェント)

Bokeem Woodbine
(Harry - ダグラスの親友)

Bill Nighy
(Matthias Lair - レジスタンスのボス)

Jessica Biel
(Melina - 夢に登場するレジスタンス、元ハウザーの恋人)

Milton Barnes (レジスタンス)

Dylan Smith
(Hammond - ダグラスのレジスタンス仲間)

Bryan Cranston
(Vilos Cohaagen - 首相)

John Cho
(Bob McClane - リコール社の従業員)

Mishael Morgan
(リコール社の受付)

Will Yun Lee
(Marek - リコール社を紹介する男)

Andrew Moodie
(ダグラスの働く工場の工場長)

Michael Therriault (銀行員)

見た時期:2013年1月

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

原作はファンタでお馴染みのフィリップ・K・ディックが書いた短編《追憶売ります》。1990年にアーノルド・シュヴァルツェンエッガーで映画化され大成功しています。 以前から見ようと思っていたのですが、機会が無く、先にリメイクを見ることになりました。

★ SF が得意な人たち

リメイクはそれだけを見ても作った甲斐があったと思える力作。原作者が共通している事を知らないとパクリだらけと誤解するかも知れません。

フィリップ・K・ディックの作品をベースにしている映画は
 ・ ディックが53歳という若さで亡くなった年に制作されたブレードランナー(《アンドロイドは電気羊の夢を見るか?》)に始まり、
 ・ 最初の トータル・リコール(《追憶売ります》)、
 ・ フランス製のバルジョーでいこう!(《戦争が終り、世界の終りが始まった》)、
 ・  スクリーマーズ(《変種第二号 人間狩り》)、
 ・ ゲイリー・シニーズのクローン
 ・ トム・クルーズのマイノリティ・リポート
 ・ ベン・アフレックのペイチェック 消された記憶
 ・ キアヌ・リーヴス、ロバート・ダウニー・ジュニア、ウディー・ハレルソンの絶妙コンビの スキャナー・ダークリー(アニメ)、
 ・ ニコラス・ケイジの Next ネクスト(《ゴールデン・マン》)、
 ・ マット・デイモンのアジャストメント(《調整班》)
などがあります。この他にダイレクターズ・カットとテレビがあるのでかなりの数になります。

ディックは草葉の陰から喜んではいると思いますが、できればもう少し長生きして、彼の世界が映像化されたのを見てもらいたかったです。彼の描いた技術のかなりの部分がその後実用化されていることもあり、現代版ジュール・ヴェルヌといった印象です。

ディックは元々は政府の役人で、一時期ドイツ語も勉強していた人です。役所は部署によっては色々な情報が入るので、頭のいい人だと将来の世界を簡単に予想できるのかも知れません。純文学を目指したようですが売れず、SF の世界では大歓迎。ただ、当時 SF は文学界ではカス扱い。SF で生活を立てて行くのは難しかったようです。ディックは普通の生活もままならず、全く考え方の違う有名な SF 作家が経済的な援助を申し出たほど。

リメイク版トータル・リコールの仕上がりは非常にいいです。もう少し後で公開されていたら、先日プレゼントされた映画館のクーポン券を使って映画館で見たと思います。

主人公の鬼嫁を演じているケイト・ベッキンセールは監督レン・ワイズマンの嫁。2人はアンダーワールド一筋で、数作に関わっています。その他にワイズマンで有名な作品はダイ・ハード4.0

カート・ウィマー、ドイツ式に読むとクルト・ヴィンマー - 君はドイツ人か - はリクルートでコリン・ファレルと一緒に仕事をしたことがあります。リベリオンウルトラヴァイオレットを作っており、SF は守備範囲です。

★ ミスマッチのビール

脚本、監督、セット、共演者とも良いハーモニーを作る中、1人浮いてしまったのがジェシカ・ビール。彼女は2012年が仕事と私生活の当たり年のようですが、メジャー系の作品にドーンと飛び出したのがこのトータル・リコール。普段はインディー系の地味な仕事をしています。その地味さが彼女には良く合っていて、このまま行くかと思っていたらトータル・リコールの主演の1人に抜擢されています。

同じ年の作品で、先日ご紹介したトールマンは主演でも派手さを抑えてあり、彼女の良さが出ていました。ところがトータル・リコールでは役に上手く乗っていません。

主人公コリン・ファレルの鬼嫁でしつこく追って来る悪役のベッキンセールはよくがんばっていて、悪役ではあるもののアンダーワールドより好感が持てます。アクロバット的なアクションもアンダーワールド・シリーズで経験を積んだためか非常に良くこなしています。アンダーワールドの最初の頃は拒食症すれすれの細身の彼女にあんなきつい運動をさせたら骨が折れてしまうのではないかと余計な心配をしたぐらいです。トータル・リコールでは顔もキリリとしていて、目的に向かってどんどん迫って来る表情が決まっています。

対するファレルのレジスタンス仲間のジェシカ・ビールはやや太め。カメラが人の体を何パーセントか太く映すので実際に会うとちょうどいいぐらいの体型なのでしょうが、画面では非常に細身で優雅に動くベッキンセールに負けています。太いなら太いでドーンと構えた強い女性を演じればいいのですが、そういう演技にしようという気持ちは無かった様子。顔の表情も身近な友達だったらきつ過ぎずいい感じなのだと思いますが、映画の画面で主人公の1人、そして抵抗運動の戦士となるとややぼやけています。トールマンの時はその普通さが北米の田舎の看護婦という役に良く合っています。要するに適材適所がビールの場合上手く行かなかったということでしょう。アクションもベッキンセールには負けており、サーフィンに例えると波に上手く乗り切っていません。

★ そして他は良かった・・・

他の俳優は上に書いたベッキンセール、主人公のコリン・ファレル、年配のナイ、クランストンのみならず、ちょい役で出て来る人に至るまで調和が取れています。

非常に感心するのはセット・デザイン。ハリソン・フォードのブレードランナーにそっくりですが、規模が大きくなっており、見ているだけで感心します。似ているのは原作者が同じなので当然。パクリではないと思いますし、もしパクったとしても、ブレードランナーと整合性が取れているので、却って良かったと思います。このコーナーでディックの作品の映画化は何度も取り上げていますが、その中でも「映画化してよかった」と思える作品です。

原作は《追憶売ります》という短編で、マイノリティ・リポートスキャナー・ダークリーと同じく、よくそんな短い話から2時間近い劇場映画を作り上げたものだと感心します。町の様子はスコットのブレードランナーをグレードアップした感じで、是非大きな映画館で見たいと思わせます。車のシーンはマイノリティ・リポートの延長で、舞台がロサンジェルスか、ニューヨークかと思えるような大都市なので規模が大きくなっていて、マグネットを使っていると思われる高速道路と車のドライブシーンはマイノリティ・リポート制作後の映画界の技術的な発展に合わせて非常に迫力があります。そう言えばファレルはマイノリティ・リポートにも出ていました。

スキャナー・ダークリー を思わせる他人の顔のイメージを拝借するシーンがあります。聞くところによるとオリジナル版でこのシーンに出た人が、リメイクでも同じシーンに登場したそうです。

他人の記憶に手を加える部分はペイチェック 消された記憶の路線で、いずれトラブルが起きる事を予想してあらかじめメッセージを用意しておく主人公の行動も似ています。

もしワイズマンがこれまでのディックの映画化作品を見て整合性を重んじたとすればそれは成功しています。

★ 見ていないオリジナルとの違い

私が見たリメイクの舞台はオーストラリアと英国。英国が全世界を支配していて、オーストラリアが植民地。それ以外の土地は化学兵器を使い過ぎて全く使い物にならなくなっています。時は2084年。

オリジナルでは火星が植民地。そして色々な出来事のきっかけになる記憶を売り買いする話は列車の広告から始まるそうです。

・・・とまあいくらか差があるようですが、話全体は似たような展開になるそうです。

★ あらすじ

英国と連邦に住むのは勝ち組、オーストラリアに住むのは負け組で、オーストラリアの住民は英国人のために奴隷のように働くという設定になっています。人種はごちゃ混ぜ。差別は人種間ではなく階級間で起きています。両国の間を行き来するために馬鹿でかいエレベーターが作られていて、地球の中心のマグマも何のその。たったの17分で地球の反対側に到着します。エレベーターは重力で反対側に向けて落っこちて行くらしく、フォールと呼ばれています。

突っ込みを入れると、何も毎日労働者がオーストラリアから英国に行かなくても、オーストラリアに工場を作り、そこで作ったり修理したロボットを英国に送ればいいじゃないかと思ったのですが、ま、そこは片目をつぶりましょう。

主人公のダグラスは労働者の1人で、既婚。唯一の心配事は彼がいつも変な夢を見ること。彼の仕事は英国のロボット工場で警官ロボットを作る事。ある日同僚から「記憶を買ってみたら」と勧められます。毎日のつまらない仕事や未来の開けない世界では自分の頭の中に夢の世界を作るのが格好の憂さ晴らしになるというのです。ダグラスは店で勧められ、「シークレット・エージェントになる」という冒険話に乗ります。「夢中毒になって危険だ」と反対する友達もいましたが、決心してアジア系の男がやっている店に入ります。

リコールという名前の会社は非合法で胡散臭いのですが、準備万端整えていざと言う時に手違いが起き、夢を貰う作業は中断。警官が何人も、警察ロボット共に乗り込んで来て銃を撃ちまくります。ダグラスはとっさに反応し、警官相手に戦います。

リコール社の係員が警官に殺される前にダグラスと揉めた理由は記憶の内容。夢を見たい人は現実と違う物を望まないと行けないらしいのですが、係員はダグラスが過去に本当にシークレット・エージェントだった事に気づき怒ったのです。その直後に警官が乗り込んで来て銃を撃ちまくったため、男は死亡。ダグラスは事情を問いただす時間もありませんでした。

私はこの時、ダグラスがもう夢の一部に入っていて、のっけから望んでいた冒険をやっているのかと思いました。しかし帰宅すると彼の私生活が根底から崩れていて、やはりこれは夢ではないのかと思ったりして、最後までどっちつかずの気持ちでした。

命からがら家に戻って来て彼は妻に事情を説明しようとしますが、話が上手くかみ合いません。妻は「2人はまだ2ヶ月も一緒におらず、自分はダグラスを調査するためのアンダーカバーだ」って言うじゃない・・・。結婚7年、幸せに暮らしていると思い込んでいた彼に、妻は「ただの工場労働者にこんな妻がいるはずないじゃないの」と冷たい一言。そして彼を襲って来るのは警官だけではなく、妻。

この展開に当惑しながらも自分の命を救うために戦わざるを得ず、ダグラスは自分の戦闘能力に自分でびっくり。さらに驚いた事にダグラスの手には電話が埋め込まれていて、仲間だという男から電話が入ります。

「ある銀行の貸金庫に何かがあるから行け、電話は追跡の時に場所を知られる可能性があるからすぐ破棄しろ」って言うじゃない・・・。確かに鬼嫁は電話を手がかりにして追跡をしていたので、ぎりぎりで破棄してダグラスはまた逃げます。

銀行に行って見るとジェイソン・ボーンのように色々な身分証明書などと、記憶が変更される前の自分からその後の自分に当てたビデオ・メッセージが出て来ます。ジェイソン・ボーンのように「ある場所にアパートがあるから行け」という話が録画されていました。道中警察にしつこく追われますが、助けてくれたのが夢に出て来た女性。

アパートでさらにビデオ・メッセージを発見。彼の本当のアイデンティティーはカール・ハウザーというドイツ人のような名前の男で、職業は首相付きの腕利きシークレット・エージェント。なるほど、リコール社の男が文句を言うはずです。

首相は植民地を見捨てて英国と連邦だけで国を統一しようと計画中。賛成できなかったらしいのがハウザー。所属先を政府からレジスタンスに変えたとたんとっ捕まり、植民地の労働者に格下げ。変な事を考えないように記憶も労働者に変更。その彼を見張るために鬼嫁をあてがわれたらしいのです。

シークレット・エージェントだった頃知った秘密があり、彼はレジスタンスのボスに会いに行くことにします。途中夢に出て来た女性メリーナと話していると、彼女は転向後のハウザーの恋人で、ハウザーと手を合わせているところを撃たれて2人とも手に傷跡があるなどという話が出ます。

2人はレジスタンスのボスに会いに行く道中、建物の中で警官などに囲まれてしまいます。ダグラスの仕事仲間が交渉に出て来て、「今経験している事は全て夢だから目を覚ましてメリーナを殺し、こちら側に戻って来い」と説得します。どちらの話が本当か分からず迷うダグラス。夢なら別にメリーナを殺す必要も無いはずなのですが・・・。

よく考えた結果最近現われた恋人と称する女性を取り、長年の仕事仲間と称する友達を射殺。2人は命からがらレジスタンスの隠れ家に到着。ボスに会い、ダグラスが記憶していた秘密をコンピューターで解析しようとします。ところがそれは首相の側の罠で、そのプログラムが起動すると首相側にレジスタンスのボスの居所が分かってしまいます。

追って来た政府側の警官や兵士に撃ち殺されるレジスタンス。ダグラスとメリーナは生け捕り。首相はダグラスの記憶を元に戻し、忠実な部下に作り直そうとしますが、レジスタンス側から首相側に入り込んでいたスパイに助けられ、助かったダグラスはメリーナを取り戻しに行きます。

派手なドンパチの後今度は首相と格闘になり、何とも古臭い武器、ナイフでダグラスは首相を倒します。自分も重症。

一件落着したらしく、ダグラスはメリーナに付き添われて救急車の中。ところがメリーナの手に傷がありません。偽者だと気づいたダグラスは戦闘モード。本当のメリーナと再会してハッピーエンド・・・か?

観客にどこまでが夢なのかを迷わせる意図があったのだとしたらそこはあまり成功していません。しかし立派なセット、おもしろい未来社会の風景、派手なアクションという点では大成功。一見の価値があります。できれば設備のいい大きな映画館でご覧下さい。

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