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マイノリティ・リポート /
Minority Report

Steven Spielberg

2002 USA 145 Min. 劇映画

出演者

Tom Cruise
(John Anderton - 警察のティームのチーフ)

Kathryn Morris
(Lara Anderton - ジョンの前妻)

Max von Sydow
(Lamar Burgess - プロジェクトの生みの親)

Colin Farrell
(Danny Witwer - FBI)

Lois Smith
(Iris Hineman - プロジェクトに深く関与している遺伝子学者)

Samantha Morton
(Agatha - 3人のプリコグの中で一番強力な女性)

Peter Stormare
(Solomon - もぐりの外科医)

Mike Binder
(Leo Crow - アンダートンの息子を殺したと思われる男)

Daniel London
(Wally - 水に浮んでいるプリコグの世話をする男)

見た時期:2002年10月

要注意: ネタばれあり!

犯人などをばらします。

スピールバーグは「これからは自分が楽しいと思う映画しか作らない」とこの映画に関する雑誌のインタビューで答えています。とするとこういう陰険な話が楽しいのか、と嫌な気分になります。この作品についてはドイツの批評の得点(白丸や星の数)は高いのですが、コメントを聞くと(読むと)辛い点がついています。ある有名な批評家はラジオではっきり正面切って批判しています。それを聞いたのであまり行く気にはならなかったのですが、映画の日にさらに半額という映画館があったので、行って来ました。

映画館で働いているトルコ人の若者に半額のクーポンを渡して、映画の日なのにさらに安くするのか恐々聞いてみたら、大丈夫とのこと。しかもいい席を取ってくれました。それで1番大きいホールへ。試写などに行くと宣伝も予告もなしにいきなり始まります。私は予告やCMも楽しみにしているので、この日は全部見られると思って楽しみにしていたのですが、SF 風な作品の予告が大部分で、「2003年公開」とか文字が出るだけ。俳優の顔も見られません。がっかり。(例えばターミネーター 3 だと T3 という文字が出るだけ。)

でもまあ本編が始まったので文句は引っ込めて。

最初はトム・クルーズ演じるコップの出動シーンから。これが何ともチンケで笑いたくなるような演出、演技。JM でキアヌ・リーヴスが演じていたような体の動きをするのですが、トム・クルーズは嘘臭くて行けません。アホらしい役でもそれらしく見せるのが俳優の仕事。でないと、スター・ウォーズスタートレックは撮れません。のっけから躓いてしまいます。

話がちょっと進むとバートン版の猿の惑星のパクリのような空を飛ぶ警察の乗り物が出て来ます。パクリついでにフィフス・エレメントのパクリのような町の交通事情、そして AI のパクリのようなカメラ。AI ではやり足りなかったと見え、全編 AI と同じような光の加減、似たようなシーンの連続。ま、これは同じ監督が撮っているのだからパクリと呼ぶのは止め、彼お気に入りのスタイルと言い直します。ついでに未来世紀ブラジル風のグロテスクなジョーク。つぎはぎのパッチワーク映画です。

私は「スタイルに真似があっても全体の話に説得力があれば」とか「話をパクっても表現方法に独自性があれば」とか、適当に屁理屈つけて出来上がりが良ければ細かい事はいい、要は楽しく語られているとか、見て損したという気分にならなければいいんだと考えるちゃらんぽらんな人間ですが、この作品の場合はどうでしょう。

ストーリーはまあまあ。多少推理小説的な部分があったので完全に退屈というわけではありませんが、長過ぎます。お金のある人は好きな事やっていいということですか。100分を切る映画でも引き締まったいい作品が多いので、ちょっと不満が残ります。ドイツの批評家が言っているのも1つ1つのエピソードが詳し過ぎて、多過ぎるのに対して、映画の焦点が散漫になっていたという点です。同感。見終わって頭に来る人も出ると思います。クルーズとスピールバーグはこの映画の公開に先だってローマで会見をして、ブッシュの政治を全面的に支持すると発言しており、ドイツではこの映画と結びつけて後味の悪い思いをする人が出たようです。

筋はばらしてしまいましょう。あと50年ぐらい先の米国はワシントンDC。交通機関はすっかり未来風に変わっていて前後左右だけでなく上下にも走る高速の小型自動車が使われています。遺伝子の研究もかなり進んでいます。犯罪発生率は相変わらず高く、ワシントンDCはテストケースとしてプリコグと呼ばれるプロジェクトをスタートしました。それが6年ほど前。

このプロジェクトは犯罪を未然に防ごうという目的で作られ、ワシントンDCの犯罪発生率の高さから言うとこの町が選ばれたのも納得が行きます。プロジェクトを率いるのはバージェス。遺伝学者が、ドラッグ漬けの中毒患者から生まれた子供たちの中に優れた予知能力を持つ子供がいることに気付きます。過激なドラッグを常用したため胎内の子供に突然変異が起き、それが超能力になるという設定です。これまではドラッグをやると子供に障害が出るというような悪影響の話ばかり聞いていましたから、この発想の転換はおもしろいです。でも、じゃドラッグをやりましょうと短絡に決めない方がいいです。こういう子供たちはたいてい無残にも早死にします。中に3人特別に能力があり、現在も生きている人たちがいます。それがアガサと双子。3人とも四六時中プールの中に浮かべられていて、ウォリーという医者が世話をしています。マトリックスのネオではありませんが、四六時中水の中に浮んでいて、ドラッグを注射されて微睡んでいると、本当は筋肉が退化して、歩けるはずはないのです。まあその辺は深く追求しないことにしておきましょう。プリコグと呼ばれる3人とプロジェクトは「前もって気付く」というところから名付けられています。

この3人が水に浮んで微睡みながら頭に浮べるのは殺人の現場。どういうわけか普通の強盗や自殺などは除かれ、殺人だけに絞られています。3人一致した夢を見る場合もあれば1人だけ違う夢を見る場合もあります。そういう時はその少数派の夢は採用されず、記録から消されてしまいます。この少数派のレポートがタイトルのマイノリティー・レポートです。全員一致で殺人の夢を見ると、2つのボールに犠牲者と犯人の名前が刻まれ下に転がって来ます。それに従ってトム・クルーズのティーム、スワットに似たような特殊部隊の出動です。

このボールが出るシーンが変です。ドイツには宝くじに似たような公に許されている賭け事があり、毎週末当選番号が発表されます。透明なプラスティックの入れ物に入った番号つきのボールの中から、選ばれたボールが筒の中を転がって下に出て来ます。それとそっくりなので、まるで犯罪者と犠牲者も宝くじで選ばれるようなイメージを持ってしまいます。これはまあドイツの事情なのでスピールバーグのせいではありませんが、それにしてもこのシーンにはまず笑ってしまいました。しかし後で考えてみると、逮捕を宝くじで決められたのではかなわないなと背筋が冷え冷え。

さてここで当選すると、ティム・バートンのヘアー・ドライヤー型のロケットの塗装料金を節約したような乗り物に乗って、数人のスワット・チームが現場に駆けつけます。事件発生までの時間が正確に知らされ、その寸前に駆けつけて事件を未然に防ぐというのがティームの目的です。出動してからも常に犯罪防止センターと連絡を取り、現場をみつけやすくするための資料が送られて来ます。そしてぎりぎりのところで犯人をみつけると、「あなたはこれから行なおうとしている殺人の容疑で捕縛されます」という暴挙の宣言があって逮捕。頭にヘッドフォーンのようなものをつけさせ、意識不明にして刑務所に収容。これを6年間行った結果ワシントンDCは殺人がほとんどゼロになります。

これだけでも背筋が寒くなるような物語ですが、これはただの前提条件。このプロジェクトが成功した結果、ワシントンDCだけでなく全国で採用するという案が出されます。そのためにこれまでと違う省庁が乗り出して、管理しようとします。現在のスタッフの中にはそれを喜ばない者もいます。

クルーズ演じるところのジョンは有能なコップですが、家庭は滅茶苦茶。以前は結婚していて息子がおり、楽しく暮らしていましたが、ある日突然息子が消えます。それから生活が荒れ、夫人とは別れ、自分は警官でありながらドラッグを闇で買っています。家に帰れば息子の3Dビデオを見てため息をつく毎日。

役所は激しい権力争いの様相を呈して来ます。野心満々の FBI 男 Witwer(どういうわけかドイツ語の未亡人 Witwe の男性形の言葉 Witwer が名前になっています)とジョンは対立し、Witwer はジョンの弱みを探り始めます。ジョンは時々信頼するバージェスと相談しながら行動します。

ところがある日よりによってジョンが人を殺すところがイメージされ、ボールには犯人としてジョンの名前が刻まれます。危機一髪で役所を逃げ出しますが、それ以降リチャード・キンブルになってしまいます。世の中はキャッシュレス時代。電車に乗るにも買い物をするにも瞳孔の記録が身分証明になり、それで自動支払いという時代に入っています。ですからジョンが駅に来ると、そこでキャッチされ、店に行くとそこでキャッチされというわけで、あっという間にスワットが飛んで来ます。マトリックスほどではありませんが、住民はがっちり当局に監視されています。さすがパラノイア作家フィリップ・ディック。

逃げる方法はあまりありませんが、目を取り換えるということができる時代になっています。あと50年でこんな事ができるのか、と思いますが、The Eye / 見鬼 (井上さんのHPへのリンク、写真もあります。下3分の1ぐらいまでスクロールして下さい)のような例もあるので、まあこれは「できる」ということにしておきましょう(エレ・ドライバーさんには吉報です)。ここで登場するのがもぐりの医者ペーター・ストルマーレ未来世紀ブラジルブレード・ランナーをパクったようなシーン。無事に違う目を手に入れたジョンは逃げるのを止めて追跡に乗り出します。出かけて行く先は犯罪防止センター。そこからプレコグの1人アガサを掻っ攫って逃げます。筋肉ふにゃふにゃのはずのアガサが意外としっかり歩くので驚きますが、それは深く追求せず横っちょへ。彼女を連れてジョンが殺人を犯すとされている現場に向かいます。プレコグの記録では4人の人間が登場することになっています。1人は人でなく、外の看板。残りの3人のうち1人はジョン、1人は被害者とされるクロウ、そして3人目はアガサでした。

後記: この作品を見てから数年のうちに事故、原因不明の目の疾患が4つ(2人前)の目のうち3つに起きたりして、大病院で移植、貼り付け手術や微妙な検査を経験しました。その結果今日の医学でもかなりな事ができると知りました。その時は完全に SF の世界のように感じましたが、SFじゃないんだ、凄い。(2010年夏)

ここでは予想外の事も起きますが、結局ジョンはクロウを殺してしまう羽目に。そしてまた逃亡。別居中の妻ララの所に逃げ込みますが、結局は捕まってしまいます。これでジョンの問題は決着。アガサはプールに戻り、ジョンはムショ送り、ジョンとはかねてから別居状態だったララは諦めの境地でバージェスからジョンの持ち物を受け取り、バージェスはプロジェクト成功を祝うセレモニーに出席します。

ここに至るまでに抜けていたエピソードがあります。ジョンを敵のように追い掛け回していた Witwer ですが、この時点では殺されています。ところがこの殺人はプリコグには記録されません。犯人はバージェス。犯行の凶器はジョンのピストル。嫌な奴 Witwer は頭のいい男で、ジョンが逮捕されるきっかけになった男クロウの件を信じていません。クロウはペドフェリー男で、ジョンの息子も攫って殺したと思われています。部屋にはその男の集めた子供の写真が山ほど置いてあります。Witwer は犯人がわざわざ証拠品をこんなにあからさまにベッドの上に置いておくはずはないと考えます。クロウは死んでおり死人に口無し。クロウは誰かに頼まれ、ジョンに殺されるように仕組まれていました。彼はジョンの息子は殺していません。Witwer はこれに気付き、バージェスの所にやって来たところをバージェスに片付けられてしまいます。この役を演じているのがコリン・ファレル。すでにかなり評判の上がっている俳優でしたがこの時点では彼のどこがそんなに優れているのか、と疑問に思っていました。彼の俳優としての能力がはっきり分かるのはフォーン・ブース。熱演です。

後記: その後も快進撃で、大プロジェクトにも参加。その横で小規模の佳作にも出演。ヒットマンズ・レクイエムでは相棒と2人で泣かせる演技を見せました。

バージェスはもう1人殺しています。アガサの母親。ドラッグ中毒だった母親から赤ん坊を取り上げ、プリコグにしたのですが、ある日母親が治療をしてクリーンになって現われ、娘を返してくれと言い出します。バージェスはこうなることを予想して、自分が母親を殺す寸前にそれと同じシーンを雇われ男に演じさせ、その男が逮捕されるように準備します。男と警官がいなくなってから自分が改めて母親を殺します。この2つのシーンは似ているので同じ夢のぶり返しだろうと解釈され、2度目の殺人の犯人は追われることなく終わります。それにも Witwer は疑いを抱いていました。図らずもジョンの無実を証明してしまった Witwer ですが、あっさり殺されてしまいます。

絶体絶命物語は不条理のまま終わるか、という時です。ハリウッドはこういうのは嫌うんですね。ララがバージェスと話していて矛盾に気付きます。一念発起してピストルとジョンの目玉を持って犯罪防止センター付きの刑務所に乗り込みます(冷凍もしていない人間の目玉がいったい何日持つかなどと聞かないで下さい。それに省内から犯罪者が出たのに、何日も彼の瞳孔の記録をアラーム付きにしないずさんさ)。ジョンとララは協力してパーティーの真っ最中に大きなスクリーンにアガサのイメージが映るようにします。この結果彼は失脚、プロジェクトは中止、逮捕された人は無条件で釈放。バージェスは自殺。映画ではジョンがバージェスにやられるか、ジョンがバージェスをやるかで手に汗を握ることになっていますが、自殺に決まっています。でないとプリコグが嗅ぎつけているはずです。どうしてこんなにうまく行くのか − ハリウッドだから。めでたしめでたし。

ご覧のようにとにかく長い話で、ここまで詳しく表現する必要があるか、と思われるようにできています。そして単純な人はバージェスの悪事がばれたのでほっとして、満足してしまいます。この映画は監視社会の予告編だという批評もありましたが、映画の結末はどうでもよく、それまでに描かれている状況が問題だと思います。犯罪を野放しにしたり、ドラッグが国に上陸しても手をこまねいて見ていたり、何の効果も無いようなアンチ・ドラッグのキャンペーンに大金をかけてみたり、行くところまで行かせておいて、手に負えなくなったらいきなり人権を無視して市民を拘束です。こういう映画を作るのが楽しみだという監督。楽しいと思わない観客の事は考えないんでしょうね。

フォン・シドウはこの役と10億分の1の男を比べながら見るとなかなかいいです。

クルーズは最近歯の矯正をすると言い出して話題になりましたが、確かに彼の歯並びはそれほど左右対象ではありませんでした。しかしそれで俳優として顔が損なわれるとかいうほどの問題にも思われません。歯並びも個性ですから何もむきになって直さなくてもいいじゃないかと素人は思いますが、プロの俳優はやはり完璧でないと行けないんでしょうね。

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