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ウォレスとグルミットのおすすめ生活 /
Wallace & Gromit's Cracking Contraptions /
Wallace & Gromit - Großartige Gerätschaften

Loyd Price, Christopher Sadler (ニック・パークではない!)

UK 2002 20 Min. クレイ・アニメ

声と姿の出演

Peter Sallis
(Wallace - 町の発明家)

姿の出演

Gromit
(ウォレスの忠犬、ビーグル)

見た時期:2013年

ネタはばれますが・・・

スポット的な短編集で、統一された推理小説のようなストーリはありません。目次へ。映画のリストへ。

ウォレスとグルミットのおすすめ生活は 10 の短編を集めた作品。 2002年のクリスマス頃に放映されたそうです。ウォレスとグロミットが出ますが、監督はニック・パークではなく、プライスとサンドラーが担当、パークは製作に回っています。本来短編を得意とするパークですが、この 10 本には熱意は感じられません。

★ The Soccamatic / Die Fußball-Sieger-Maschine / サッカー

グロミット相手にサッカーの練習をするウォレス。自分は横着し、グロミットを困らせるために発明をしたウォレス。対するグロミットも負けていません。ゴールと同じぐらいの大きさに膨らむシャツを着て来ます。

ここに出て来るサッカー・ボールをマシンガンのように撃ち出す機械は外国で悪名高い兵器と似ていて嫌な後味を遺します。

「監督が違うな」という印象を受ける理由は使われている色と風景。緑を主に使っています。

★ The Tellyscope / Die Fernbedienungsvorrichtung / テレビ

おなじみの居間で難しい本を読むグロミット。「テレビを見よう」と言うウォレス。立ち上がるのが面倒なウォレスはテレビのスイッチを入れるための機械を発明。テニス・ボールをはじき、壁の穴に入れると、そこから連鎖反応のようにボールが動き、最後にテレビ受像機がウォレスの座っている安楽椅子まで近づいて来ます。

こんな手の込んだ発明をする手間は省かず、テレビのスイッチを入れる手間を省こうとするウォレス。

白黒の画面に映っているのは南極のペンギンの群れ。ちょっとカーペンターの古い作品や、アウターリミッツを思い出す、いい感じの画面。ウォレスは話が気に入らずチャンネルを変えようとしますが、スイッチの切り替えに使うテニス・ボールが手元に1つしかなく、それはもう使ってしまいました。

グロミットはリモコン装置をウォレスに渡します。− 何だ、リモコンがあったんだ!ウォレスはそれでチャンネルを切り替えず、テニス・ボールのように投げてしまいます。グロミットの危惧の通りテレビ・マシンは狂い出し、壊れてしまいます。

★ A Christmas Cardomatic / Eine Weihnachts-Kartomatik / クリスマスカード

新しく発明した機械で自家製のクリスマス・カードを作るウォレス。着ぐるみを着せられ、雪山の背景で写真のポーズを取らされるグロミット。首尾良くカードが機械から出て来ます。

ま、たまには自分でクリスマス・カードを作ることもある私なので、一応納得。私などに比べると、カードの出来はプロフェッショナル。

★ The Autochef / Der automatische Küchenchef / あさごはん

「修理ができたよ」と言うウォレス。それを聞いて間髪を入れずに防護服(ペンギンに気をつけろ!にも出て来た黄色いレインコートと帽子)を着るグロミット。

注: 居間のドアからちらっと見える台所は非常にドイツ的。

雪だるまのような格好の全自動卵調理マシンが台所から居間へやって来ます。グロミットの心配通りマシンの頭から卵がどさっと降って来ます。ウォレスは目玉焼きを注文。フライパンにちゃんと出来上がっていますが、ウォレスの顔をめがけて飛んで来ます。その後狂い続けるマシン。最後は爆発。

★ The Snowmanotron / Der Schneemannotron / 雪だるま

朝刊の一面トップに《雪だるまコンテスト》という記事が載っています。グロミットも応募しようと思ったのか、外に出てロダンの考える人のウォレス版、考えるウォレスを作っています。

ウォレスは大型雪かき機を発明したらしく、大量の雪を機械に入れます。迫って来たウォレスの機械から、作ったばかりの考えるウォレスを必死で守ろうとするグロミット。しかし機械のドアに呆気なく蹴り飛ばされてしまいます。中から出て来たのは単純な作りの雪だるま。丹精こめて考えるウォレスを作っていたグロミットはカッとして家に戻りドアを蹴ります。

注: グロミットがここまではっきり感情を表わすのは珍しいことです。

その衝撃で屋根の雪が落ち、ウォレスが埋まってしまいます。その雪だらけのウォレスに人参で鼻をつけて写真撮影。夕刊の最後のページには《犬が雪だるまコンテストに優勝》という見出しと大きな写真。

「でかしたぞ」とグロミットを褒めるウォレスは冷え切った足を湯に突っ込んでいます。

★ Shopper 13 / Einkaufswagen Nummer 13 / おつかい

全自動でスーパーマーケットへショッピングに行く、車輪付のショッピングバッグを発明したウォレス。サンダーバード顔負けのスタートを切ります。チーズ・ホリデーさながらのコントロール・パネルを前にウォレスもグロミットも真剣。モニターに映る画面はアウターリミッツ風に白黒。それでも十分役に立ちます。買ったのは大型のエダム・チーズ。

ところが重量オーバーでバッグの車輪が外れてしまいます。フランスパンを杖のように使ってかろうじて帰宅。

注: 店には英国人が食べるパンがたくさん置いてあります。やはりトーストが多い。その他に物語の進行上必要なフランスパン。あとは棚の中にドイツ人も食べそうなタイプのパンが少し入っていますが、ことパンに関する限り英国とドイツとは違うようです。

よたよたになってようやく家にたどり着いたバッグ。しかし店でお金を払わなかった!バッグは玄関先までたどり着いてバタンと後ろ向きに倒れたため、チーズが飛び出してしまいます。早速ショーンを追跡に出しますが、チーズを捕まえたショーンは齧り始めます。そりゃそうでしょう、食いしん坊のショーンですから。グロミットに「何とかしろ」と言っても、知らん顔。

★ The Snoozatron / Der Schlafomat / おやすみ

寝室で眠るウォレス。午前3時に目を覚まします。安らかに眠っているグロミットはたたき起こされます。

ベッドを調整し直し、湯たんぽ、テディー・ベアも運ばれて来るので少しずつ満足するウォレス。壁の蓄音機からは羊の鳴き声が。やれやれという顔で羊の着ぐるみを着て食堂で待機するグロミット。ウォレスの声がかかると1階から2階のウォレスの寝室までジャンプ。それを数えるウォレス。

西洋には眠れない時は羊の数を数える習慣があります。それにしても気の毒なグロミット。

★ The Turbo Diner / Der Turbo-Diener / ばんごはん

この間壊れた卵料理マシンを修理するウォレス。新しく発明した機械がその辺に散らばっている物を全部まとめて吸い上げます。暫くして機械から出て来たのは、夕食のフルコース。テーブルの上で蝋燭に火が点されます。ウォレスにはこういう趣味もあります。しかしここから先の微調整ができていませんでした。

月面のレンジと同じようにコインを入れないと機械は時間切れでストップ。自分の家なのにウォレスがなぜコイン制にしたのかは不明。機械が物を吸い取る時に自分も吸い込まれないようにするため、ウォレスとグロミットは椅子に縛り付けられた形で身動きができません。なので暗い部屋で、蝋燭の中食事をするはめになりそうですが、間もなく蝋燭は燃え尽きて真っ暗。

★ The Bully Proof Vest / Die Einbrecher-Boxer-Weste / どろぼう

雷雨の日、台所でお茶の準備をするウォレス。窓の外に怪しい影が。聞こえるのは猫の鳴き声。家の中に怪しい影が走ります。窓が開いていて怪しい影が家の中に入って来た様子。

怪しい影は実はグロミット。ウォレスが用意していた装置で投げ飛ばされるグロミット。新しい機械のテストでした。グロミットが持っていたピザのローラーにつまずきウォレスは自分の作った機械で天井まで投げ飛ばされます。

★ The 525 Crackervac / Der Automatik-Sauger / そうじき

自分で動く掃除機を発明したウォレス。クラッカー探知機がついているため、ウォレスがまだ食べていないクラッカーに付きまといます。あとをグロミットに任せるウォレス。

グロミットはじゃじゃ馬を馴らすカウボーイのように掃除機を馴らします。しかし後ろから集めた塵を噴出す掃除機。発明者ウォレスは「箒と塵取りで掃除した方がいい」と言い出します。


★ ニック・パークのメイキング・オブ

ニック・パーク他のスタッフが制作の話をしてくれます。後ろにセットがあるので実際の人形やセットの大きさが見て取れます。クレジットに挙がっている2人の監督も登場。

パークは「自分も発明家になりたかった」、「グロミットは長期間苦しみ続ける犬」と発言。

小さな人形のちょっとした目の動きなどを調整するところが映っています。グロミットが目と体の動きだけで感情を表現するのは有名ですが、実は登場する人形はほとんど皆同じ目をしています。なのに全く違う性格になっているところがニック・パークの魔術。

以前「人形の指紋が見える」と書きましたが、パークによると「指紋が見えていても全く構わない」とのこと。まさに手作り。

このメイキング・オブで初めて知ったのは、床や天井のデザインも手描きだという点。スタッフが筆で一つ一つ模様を描いているところが映っていました。

別なメイキング・オブでも見たのですが、ここでもスタッフのスケジュール表が見えます。マイクロ・ソフトのプロジェクトというソフトウエアでも使っているのだろうと思っていたら、これも手製。誰がいつどの仕事をやるかが大きなボードにメモで貼り付けてあります。ストーリー・ボードも似たようなボードにピンで留めてあります。出来上がったセットや人形だけでなく、企画の段階から手作り。

★ おもちゃの国英国

これを見てふと思い出したのは英国がまだ物作りの国だった時代。長い失業時代を経て現在ではほとんど金融以外何もしない国になってしまった英国は60年代頃はまだ車も名門と言える会社がありましたし、私が良く覚えているのは質の高いおもちゃ。

安物、まがい物のおもちゃはアジアがお得意で、日本もちゃちなブリキのおもちゃを作っていた時代があります。実は私はそういうおもちゃがとても好きなのですが、欧米からは安物と受け取られていました。他方英国は世界に対して「本物のおもちゃというのはこういうものなのだ」と誇れる品質の物を売っていました。

日本は「自国の伝統のおもちゃは世界には通用しないだろう」と考えたのか、あるいは「こんな物は売れるわけない」と思い込んでいたのか、海外には安物のおもちゃだけ輸出していたようです。

本格的な雛人形、茶屋など日本家屋のミニチュアなど、実は日本には世界に負けない高品質のおもちゃがあったのですが、あまりにも和風で、動く物はほとんど無かったので、それを海外に売り出すという発想は無かったようです。

さて、話を英国に戻しますが、私はウォレスとグロミットが住んでいる町のセットを見てフローラルという名前の英国製のおもちゃを思い出しました。小さな袋に入った植物や石畳などのパーツを買い、好きなように庭のデザインができるようになっています。

芝生、土、各種の花(水仙、チューリップ、バラ、ヒヤシンス、ひまわり、グラジオラス等々)、野菜など緑の植物、木(りんご、ポプラ、樫、松、柳、)、レンガ、石畳、池、石のブロック、塀、門、物置小屋、庭椅子、温室、、庭で使う道具、車などがありました。

大きさはウォレスとグロミットのセットで使われているものより少し小さいですが、このおもちゃの伝統がニック・パークのセットに生きているなあと思わせます。鉄道模型マニアの方なら、交通博物館にあるようなモデルに駅や田舎の風景が使われていて、専門店に行けば景色のモデルも買えることをご存知でしょう。ああいった感じのおもちゃです。

鉄道モデルはどちらかと言うとドイツの得意分野ですが、森や田舎の部分は付け足し。鉄道ファンは無論汽車や電車に関心が集中しています。フローラルは庭や家が主。そこにウォレスとグロミットが立っていても違和感がありません。

このおもちゃの会社はまだあるようですが、庭シリーズはもう作っていません。創立者の身内が会社を経営していたのは80年代の半ば頃まで。その後は大企業に吸収されたようです。コストを節約するために60年代の半ばから返還前の香港、後には中国に下請けに出したようです。しかしインターネットを見る限り庭のシリーズを復活させる動きは見えません。また、今後復活したとしても、やはりアジアに下請けに出すのでしょう。

英国には国として物作りの国に戻ろうという意欲が全然見えないので、こういったおもちゃが復活する見込みはほとんどゼロ。しかしニック・パークの仕事が英国で大受けし、アードマンの工房にたくさんのスタッフが集まるということは、株を操作する大企業の人たちにはその気が無くとも、一般の英国人にはまだこういう手の込んだおもちゃやセットを作りたい、見たい、遊びたいという欲求はあるのではないかと思います。日本ならニーズがあればさっと中小企業、零細企業が出て来て作ってしまうのですが、英国ではなかなか難しいのだろうと思います。井上さんに贈られたウォレス & グロミット・グッズの精巧さを見ても、まだまだおもちゃの部門に企業チャンスがあると思うのですが、英国の一般人はどう考えているのでしょう。

★ 使い回しのギャグ

ウォレスとグルミットのおすすめ生活はニック・パークも仕事の現場に来ており、彼のいない所で作られた作品ではありませんが、熱意に欠け、新しいものも見られません。中篇3作のギャグを使いまわしたという印象がぬぐえません。

他方、惰性で作った作品でもなく、2人の監督は熱心そうにウォレスとグロミットをどういう風に考えているかなど語ります。パークも突き放してはおらず、ティームと一緒に楽しそうに語ります。

それでも私が駄作と結論付けたのは、前の3作には未知の世界に進んで行くスリルがあり、一つ一つのセット、主人公の動き、話の進み方に方向があったのに対し、この作品はウォレスとグロミットの日常生活の一こまというだけだからです。

ウォレスは次から次に新しい発明をしますので、合計10の新型の機械が登場します。しかしそれは家事や余暇に使われるだけ。同じ家の中だけの話でもチーズ・ホリデーには月にロケットで飛んで行くという壮大なスケールがありました。第1作ということで観客がまだウォレスの職業を良く知らないため、彼がやる事の一つ一つが驚きでした。

ペンギンに気をつけろ!では高い物を買ってしまいお金が足りない、収入を得るために下宿鳥を置く、その鳥が悪漢だったということで、スリラー仕立て。少しずつウォレスとグロミットの生活ぶりに慣れた観客は、何をやり出すか分からないペンギンを見ながらはらはらします。というわけで先が見えず、観客はショーダウンまでうまく引っ張られて行きます。そして悪漢ペンギンのやる事には一つ一つ必然性があり、それを追う探偵犬グロミットも犯罪映画の主人公としては立派なもの。そして何も気づかず状況を引っ掻き回すのがウォレス。たかだか30分の間に2時間の劇映画に匹敵するほどの内容が詰まっている上しっかりギャグも入っています。

ウォレスとグルミット、危機一髪! では自分で仕事をしてお金を儲けようと思い立ったウォレスにロマンスのチャンスまで訪れます。やはり30分ですが、オートバイ、飛行機まで登場するチェイスあり、ターミネーターもどきのサイバー・ドッグありの大活劇に発展します。そして何よりも観客が心を奪われるのは子羊のショーン。あまりかわいいのでウォレスはすぐさま家に置くことに決め、普段警戒心の強いグロミットも兄貴分としてとてもかわいがります。普段は心配性でガタガタ震えているショーンはいざという時にはど根性を出してがんばり、観客はつい拍手を送ってしまいます。この活劇も推理仕立てで、謎を追うという形で観客を最後まで引っ張ります。

ウォレスとグルミットのおすすめ生活は、そういう方向のあるストーリーを全て取っ払い、各1〜2分のエピソードを並べただけ。短編の得意なニック・パークではありますが、快適な生活と比べると雲泥の差です。

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