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スノーピアサー /
Snowpiercer /
Expresso do Amanhâ /
Rompenieves /
Snowpiercer - le transperceneige

奉俊昊/Bong Joon-ho

Korea/USA/F/Cz 2013 126 Min. 劇映画

出演者

Chris Evans
(Curtis - 反乱軍の先頭に立つ若者)

Jamie Bell
(Edgar - カーティスの一の子分)

Tilda Swinton
(Mason - 上層部の女性指揮官、首相)

Alison Pill
(上層部の小学校の教師)

John Hurt
(Gilliam - 反乱軍の顧問的長老)

Ed Harris
(Wilford - 列車の動力部の発明者で、トップ)

Tyler John Williams
(Wilford、若い頃)

Ewen Bremner
(Andrew - 片腕を失くした男、息子も失っている)

Octavia Spencer
(Tanya - 息子を失ったばかりの女性)

Luke Pasqualino (Grey)

宋康昊/Song Kang-ho
(Minsu Namgoong - 列車の防御ドアを開発した男、服役中)

Ko Ah-sung
(Yona - ミンスの娘、服役中)

Adnan Haskovic
(若い方の Franco)

Vlad Ivanov
(Franco、年長の方 - メイソンの部下)

Steve Park (Fuyu)

Tomas Lemarquis
(卵頭の男)

Marcanthonee Reis (Tim - 子供)

見た時期:2014年3月

2014年春のファンタ参加作品

ストーリーの説明あり

ストーリを紹介しますので見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ ネタ切れを起こしたハリウッド

これから暫くこういう作品が続くんだろうなあとため息をついているところです。ハリウッドには古くなった思想を映画という紙芝居でストーリーに絡ませて表現する人たちがいます。中には俳優でどっぷりその思想に染まり、作品を選んでいる人もいます。

そういった作品でも上手に思想をオブラートに包み適度にエンターテイメント性を加え、あまりガチガチな作りにしていない監督もいます。

近年ハリウッドはネタ切れになっており、リメイクが続き、最近は実話物ばかり作っています。また日本の漫画やアニメに素材を探す企画もあり、自らは生産能力を失ったのではないかという印象を与えています。そんな状況の中でもまだガチガチに思想映画を作る人たちがいるんだ・・・とちょっと感心したところ。エンターテイメントに専念してよと内心思いながら。

スノーピアサーの元ネタはフランスの Le Transperceneige という漫画。映画化で漫画が使われる場合、アメリカ人はまず自国のコミックからネタを探しているようで、数多くの映画化がすでに行われています。日本の漫画も時として候補にあがるようです。フランスとアメリカは長い間同盟国でありながら敵対関係になっていた事情もあり、ハリウッドがフランスを取り上げる時はかなりフィルターがかかっていました。最近は和解でもしたのか、やや感じが変わって来ています。そのためなのか、単なるネタ切れ対策なのか、思想の故郷を訪ねてネタを見つけたのか、その辺は定かではありませんが、今回はフランスの話を取り上げています。

★ 適したタイトル、空振りした監督

漢字のタイトル雪國列車がぴったりです。

ボン監督は韓国出身で、殺人の追憶グエムル 漢江の怪物はおもしろかったです。ソン・ガンホという俳優と相性がいいようで、この2作では主演です。

たまたまファンタに来ていたのでソンの作品はシュリJSA復讐者に憐れみをを見る機会があり、おもしろかったです。まだ見ていないけれど関心を持っている作品に大統領の理髪師グッド・バッド・ウィアードがあります。トレイラーを見る限り楽しめそうで、ソンもうまく生かされている様子。

スノーピアサーのソンは観客にほとんど記憶されないでしょう。せっかくハリウッドまで呼んで来たのに残念です。ボン監督もせっかくハリウッドまで来たのにこんな作品か・・・と失望。昨今日韓関係は良好とは言えませんが、韓国でのソンの出演作品、ボンの監督作品については当時の「おもしろかった」という感想を今のところ変更する理由がありません。そのままにしておきます。ソンの生かし方は韓国で撮った作品では成功と言えますが、ハリウッドではオールド・ボーイ のおっさんと入れ替えても観客は気づかないでしょう。これといった印象を残しません。

扱った原作と監督の手法が合わず、例えばソンもボンも出せるほのぼのとしたユーモアは消えていました。犯罪物で出せた間延びしない緊張した展開も無く、JSAにあった、今は亡き枝雀師匠の言う《緊張と緩和》の妙味も出ていません。章が先に区切られていて、列車ごとに変化する内容をスケジュール通りにこなしているだけという印象でした。

ボン監督は脚本にも参加していますが、ハリウッドのシステムに縛られて韓国内の作品ほど自由に動き回れなかったのでしょうか。

韓国に良い話がほとんど無い現在、私はソンとボンに、ハリウッドなどに妙な期待をせず、韓国に戻ってまたおもしろい作品を作ってもらいたいと望みます。イケメンでもないずんぐりしたおっさんが主演で、外国の映画祭で人におもしろいと思わせ、顔を覚えてもらえる作品を作れるということは、俳優としての本人の実力に加え、脚本家や監督が適した本を書き、撮影したからでしょう。スノーピアサーではだぼだぼの服、髭もじゃ、長髪で、顔すら覚えてもらうチャンスがありません。

グエムル 漢江の怪物で娘役を演じた女優がこちらでも娘を演じていますが、ユーモアを出せる場面も無く、2人共空振り。もう1度グエムル 漢江の怪物を見直して笑い直したいところ。

★ あまりおもしろくないスノーピアサー

豪華という意味では1つ前に見た幽霊話より勝っています。しかしこの日1日だけのファンタの評価でも、両日の評価でも幽霊話がトップで、スノーピアサーは2位にも入りませんでした。

もし監督が原作に忠実に作ったのなら、元ネタの責任です。SF、アクション、スリラーということになっていますが、「どこがアクションだい、スリラーなんて言ってもネタはほぼ事前に見透かされるではないか」と突込みが入ります。時代を未来に置いているという点では確かに SF ですが、むしろ辻褄を合わせるためにファンタジーと呼んだ方がいいです。

★ 豪華さ 1 - 出演者

韓国では大スターでも、ハリウッドでは知る人のいないソン・ガンホ。欧米人から見るとそこは豪華でないでしょうが、その他の人の名前は聞いた事がある方もおられるのではないかと思います。結構お金のかかる俳優が顔をそろえています。

★ 豪華さ 2 - セットと景色

列車内の飾り付けには結構お金をかけたのではないかと思っています。本を開き、章ごとに読み進んで行く代わりに、1番待遇の悪い後方車両の住民が1つ1つ前の車両に進んで行くことで、章を読み進むのと同じ扱いにしてあります。そういう図式的な手法はよほど上手に扱わないと「いかにも図式」となってしまいます。スノーピアサーでは作る側が自ら作品をそういう図式に閉じ込めてしまっています。ソンとボンをよその作品で見た私は、2人がもっと自由に作品の中で暴れまわれる事を知っているので、スノーピアサーは失望作です。一応辻褄を合わせて結末まで持って行ったので、失敗作とは呼びませんが、2度見ようと思う人は出ないのではないかと思います。幽霊話は DVD が出たら私は2度目を見てもいいと思っています。そんな時間があればの話ですが。

★ 時代と状況

人類は地球寒冷化でほぼ全滅。雪国で暮らせる動物にも厳しい雪の世界になっています。時は2014年7月。あと2ヶ月です。温暖化対策を実施。見事失敗。

2031年、あと17年です。温暖化対策大失敗の結果、寒冷化してしまい、生存者は(どういうわけか)1つの列車の中だけに住んでいます。

後の方で登場するエド・ハリスは人類完全滅亡の直前列車の動力装置を考案し、そこに乗り込めた人たちだけが生き残れました。言わばノアの箱舟列車版。箱舟と違い、たくさんの動物の種族までは手が回らず、人間と、食料にできる動植物だけ確保してあります。他はほとんど全滅 しているので、列車を永遠に走らせる以外にする事は無く、列車内のスペースが限られているので、人口調整、食料の量の調整が厳しく行われています。

その次が階層。日本人がこういう物を発明し、何百人かが生き残りに成功したら、多少の階級は作っても、ほとんど不公平無く色々な物を共同使用するのではないかと思います。共産主義を知らない時代から日本の階級制度は緩やかでした。教育も与えられず、ぎりぎりの食べ物しかもらえない完全な奴隷というのは日本では聞きません。欧米は現在でも階級制度が色濃く残っているところ(分野)があり、あっと驚く事があります。そのあたりの国柄の違いを知らないとスノーピアサーのストーリーは空すべりしてしまいます。この話を理解するには「厳然たる階級制度」を理解する必要があります。

列車は走り続けるだけ。その列車内が厳格な身分制度で分かれていて、後ろへ行けば行くほど身分が低くなっています。幸い人種差別は無いらしく、韓国人の親子も白人も、アフリカ系の人たちも扱いに上下は無く、社内の需要に合わせて時には最下層階級からも人がリクルートされます。

★ する事が無くて謀反なのか

上の階層の人たちは容赦なく下の階層の人を殴ったり、理不尽な扱いをするのが慣習になっているようですが、ある日遂に最下層の大勢の人が謀反を起こす決意を固めます。

中には老人でノウハウを若者に提供する人もいて、少しずつ分業、組織としてまとまって行きます。後ろから前へ1つ、また1つと車両を制圧して行きます。兵士の階級の人たちは最低の階層の人たちより良い生活をしている様子。前に進んで行くと寿司バーの調理人や美容院、食料用の養殖魚の管理人などがいて、それぞれそれより後ろの車両の人より良い生活をしています。

その違いを観客に示しながら、主人公たちの反乱軍は前へ前へと進んで行きます。このあたりからプリズナーのパクリかなという気がします。

当然ながら浮かぶのは、この人たちが先頭車にたどり着いたとして、その後どうしたいのかという疑問です。ここは象徴的。それまで非常に虐げられていたので、その状況から脱したいという気持には観客も納得してついて行けます。しかし双六ではないので「あがり!」と言った後も人生は続くのです。自分たちが支配者を倒し、1両目にたどり着いた瞬間から、今度はこの人たちが残りの人たちをどうするか考えなければ行けなくなるのですが、誰もそこまで考えが及んでいません。「とにかく倒さなくっちゃ」なのです。

世界の様子を見ていると過去だけではなく、ここ数年でもいくつかの国で国民が決起した事になっている反乱が起き、政権が交代したり、独裁者と言われていた有名な人が死んだりしています。中には本当にひどい独裁者もいたかも知れないので、それはそれで1つの決着ですが、政府転覆が成功した後どうやって生きて行くのかが見えた例は非常に少ないです。万一よその国がそそのかした結果起きた反乱だとしても、政権が交代した後、新しい政権をずっと面倒見てくれるほど親切なそそのかし屋さんはいません。 現在の方針を変えて、新しい方針でやると決めてから動く国や人がいかに少ないかが分かります。これは何も近年のいくつかの国の出来事だけではなく、60年代あたりから成熟した国と思われていたいくつかの国で起きた学生運動でも見られました。その後何十年もその時の残り火で惰性のように世の中が進んだと言え、その系統の人たちがその後何かの反対運動をする時、あまりにも真剣さが足りず、方法が幼児的だったので私は唖然としました。その辺を皮肉った作品が春のファンタに出ていました。

この人たちは「とにかく今の体制を倒せば自ずと次の道は開けてくる」と固く信じていたようです。ここ50年ほど事実が私たちに何度も「先の見通しを立てずに動くと後で滅びるよ」と語りかけていたのですが、その言葉を無視した人、国が多かったです。その結果現在の混乱状態にたどり着きました。

スノーピアサーにはそこがちゃんと表われているのですが、監督も出演者もそこに力点を置いて作っているわけではありません。

主人公の若者には顧問的な役目を果たす長老がついていて、あれこれ言ってくれるのですが、主人公自身には今の状況を打破しなければ行けないという意識だけが強く、その先どうするかまでは考える余裕がありません。長老には色々考えがあるようですが、その内容はあっと驚く為五郎(古いねえ〜)。別方向に話が展開し、観客は打っちゃりをかけられます。

そのうっちゃりの部分は春のファンタの後半に登場する別な作品とも共通しているのですが、作品の重心が別な所に行ってしまったため、鑑賞後十分に観客の頭に残りません。

スノーピアサーの登場人物は主人公が双六の上がりに到達するために必要なコマのようで、キャラクターが心に残りません。それも図式的だと私が言う理由です。

★ 皮肉な事に

反乱を起こして下から勝ち上がって来る者に、勝った後の計画や展望が無いというのが上の話の要約ですが、頂点に立つウィルフォードは自分の年齢を考え、いずれ生涯を終えることを受け入れ、後継者探しを始めていました。その結果ある人物をリクルートするのですが、話はそうスムーズには進みません。

ウィルフォードの計画通り行けば、勝ち抜き戦で勝ち残ったある人物が後継者にふさわしいのですが、世の中は往々にして予定外、予想外、期待はずれ、期待以上に事が運び、あっと驚く結末になるものです。スタップ細胞ができたという話は織り込んでないので、エド・ハリス演じるウィルフォードはいずれ死ぬ運命です。それがどういう展開にはるかは内緒。

工夫をした形跡はあり、全体のバランスと繋げ方が良ければ、いくつものエピソードが詰まった宝石箱のような作品になり得たかも知れません。それが死んでしまったのは図式的過ぎたから。その責任が脚本や演出にあったのか、原作にあったのかは、原作の漫画を見ていないので判断ができません。もしかしたら漫画は月刊か何かで、毎月新しいエピソードを書いても次を読むまでに時間があって、図式的なところが目立たなかったのかも知れません。それを2時間強の中に全部詰め込んでしまったのかなと思ったりもします。原作を知らないので断言はできませんが。いずれにしろ韓国人監督、俳優は何かの枠にはめられて自由な表現ができなかったような印象を残します。この作品だけを見た人には分からないでしょうが、ソン、ボンの韓国時代の作品を見た人にはスノーピアサーが不発弾が例外に思えます。

★ 出がらしベテラン俳優

若い主人公は他の若手の俳優が初期に登場した時のような瑞々しさに欠け、亜流のヒーローという印象です。韓国から連れて来た親子役の2人は、ユーモアを出そうと脚本家が努力したのかなとは思いますが、湿った花火になっています。韓国人なら理解できるユーモアがあったのかも知れませんが、他の国の人には今一つ。韓国で撮った作品の方がユーモアの部分は外国に伝わり易かったです。

この作品で重さを持った俳優はエド・ハリス、ティルダ・スウィントン、ジョン・ハート。ハートはそこそこの演技で、控えめ。ま、上手く背景に溶け込んでいました。ハリスはいつの頃からか、エキセントリックな役が増えましたが、この作品ではいつも通りだという印象を残しました。

スウィントンは大盤振る舞いで姿を変え、極端な演技をしたつもりなのでしょうが、過ぎたるは及ばざるが如しでした。化粧をしなければ地味な顔なので、何にでも化けられるという俳優としては大きな長所を持っています。演技はハートやハリスに負けない実力。だからこそオーバーアクティングをしなくてもいいのではと思うのですが、ちょっとエネルギーを注ぎ過ぎる傾向があります。

彼女の役柄は《ひどい女》。映画の背後にある思想を考えると、漫画チックにしながらも、抑えた演技で背筋が凍るような勘違いを表現できたと思います。彼女の実力なら軽いでしょう。本人は楽しんで漫画チック路線を走っていますが、ここで彼女があと少し役を掘り下げれば映画全体の価値が上がったと思います。

3人ともその気になれば1人で映画1本を支えられるぐらいの実力者。その意味ではソンもその1人。しかし重要な役の3人は、役にそれほど深く関わっていない感じで、やり過ごした感があります。燃え尽き症候群なのか、他の作品とスケジュールが重なってこちらに情熱を注ぐ暇が無かったのか。この3人はソンやボンよりはハリウッドのシステムに慣れている筈。なので、もうちょっと力を出せたのにと思います。

★ 辻褄

主題は残り少ない人類の生存。その対策として隠れた主演とも言える列車が発明されています。その脇で階級批判や、前の大戦時に起きた事への批判などを盛り込んでありますが、主題の辻褄が結末で合わなくなってしまいます。列車自体がノアの箱舟だと考えると、結末では生存インフラの残っていないアダムとイヴに戻ってしまいます。雪でなく、凍っていない海水でも体温が下がると間もなく死んでしまいます。現実味ゼロ。なのでファンタジー映画です。

完全なネタバレはしませんが、列車の先頭部と後部 には戦後の何十年かの世の中の仕組みを暗示するような繋がりもあり、そこだけでも大きな話が作れます。大物俳優が揃っているので、気合を入れて演技すればそれも含んだ力強い作品が作れたかもと思います。

あれもできたのに、これもできたのにという気持が残る作品です。

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