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Hostile

Mathieu Turi

F 2017 83 Min. 劇映画

出演者

Brittany Ashworth
(Juliette - 麻薬中毒の女性)

Grégory Fitoussi
(Jack - 画商)

Javier Botet

Jay Benedict

David Gasman
(Harry - ジュリエットが無線で連絡を取る相手)

Carl Garrison (Carl)

Richard Meiman

Mohamed Aroussi (ボス)

Laura D'Arista Adam
(ジャックが収容された病院の医師)

Aton (人喰い)

Gary Napoli

Andreas Pliatsikas
(クラブの常連客)

Stephanie Slama

Rob Tunstall
(麻薬密売人)

見た時期:2018年1月

2018年冬のファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ 英語作品に乗り出した欧州

今回のファンタには俳優が英語で演技をする欧州の作品が出ています。1本目は冷たい肌。制作国はスペインのカタロニアとフランスですが、使用言語は英語。主人公がアイルランド人という設定です。

Hostile も制作はフランスなのですが、言語は英語。長い間フランス語にこだわって映画作りをしていたフランスですが、世界に影響力を与えるには英語の方が手っ取り早いと考えを変えたのでしょうか。

★ タイトル

「敵愾心、敵対行為、敵意」などと言う意味なのですが、それが映画の中の何を指しているのかは良く分かりませんでした。主人公2人の間の感情を指すのだとするとちょっと疑問がわきます。主人公の女性を襲う人間やゾンビを指すのだとすると、「それがメイン・テーマか?」と考えざるを得ません。何かキーになる台詞を私が聞き逃したのかも知れません。地球破壊のきっかけを作った細菌テロを指すのだとしても、それをタイトルにしてしまうと何となく作品中に描かれている内容から外れているような気がします。

英語圏でない所に長く住んでいる上、以前は毎日聞いていた英国のラジオ放送も無くなったので、近年はファンタ以外で英語に接する機会が減っており、ピンと来ませんでした。

★ あらすじ

Hostile2018年の冬のファンタの10本の中では弱い方に入ると思います。突込み所が色々あるのです。けちょんけちょんとは言わないまでもいくつか文句は言いたいです。しかし去年の夏のファンタに比べると一定のレベルには達しています。多少考え方に評価が左右されるかも知れません。

時間軸で言うと、現在がまずどーんと前に出て、主人公の女性が車の事故を起こした後は回想シーンと現在を行き来します。

場所はブルース・ブラザーズのシカゴと間違えそうに見えるニューヨーク。中心人物の商売などを考えてもニューヨークで納得が行きますし、途中に地名を示すシーンもあるのでニューヨークで間違いありません。それが過去のシーン。

現在のシーンはどこかよく分からない砂漠。地球が砂漠状態になってしまったのか、主人公が砂漠に行ったのかははっきりしませんでしたが、見渡す限り建物らしき物は無く、ただ、ただ、砂と僅かな植物。それが現在のシーンです(撮影はモロッコ)。

時系列順に書きます。

☆ ジャックとジュリエット

まだ私たちが見慣れた時代のニューヨーク。絵画のギャラリーを経営する若くてイケメンで大金持ちの画商ジャック。ギャラリーに顧客を招いて和やかに商売をしている所へ場違いな女性が紛れ込んで来ます。それがジュリエット。彼女は若くてきれいですが、ジャンキー(別名: 薬中)。あまりにも違う世界に生きている彼女にジャックは関わるようになり、惹かれて行きます。

しかし社会の上層部に属するジャックがジャンキーのガールフレンドを持つわけには行かないので、ジャックは自宅に彼女を閉じ込めて無理やり麻薬から手を引かせます(トレイン・スポッティング方式)。そして自分の大邸宅を見せ、彼女と一緒に将来暮らそうと、つまりは結婚を計画します。

思いも寄らぬ大金持ちから求婚され、麻薬からも手が引けたジュリエットですが、しつこく彼女を主婦や母親にしようと口説くジャックと、これまで好き勝手に生きて来たジュリエットでは話が合わず、別れるだの何だのと喧嘩になります。そして妊娠していたのに、ある日子供もだめになってしまいます。

関係はギクシャクし、結局別れてしまう2人ですが、そんなある日、バーにいたら、重大ニュースがテレビに流れます。雰囲気としては911事件風ですが、今回は飛行機が建物に突っ込んだのではなく、どこかの建物が爆発し、それが原因でビールスが外に出ます。

☆ ジャック感染

別れたはずのジャックからジュリエットの携帯に連絡が入ります。ジュリエットはジャックが入院している病院に駆けつけます。直接会うことは許されず、2人の間には感染を防ぐため透明プラスティックの仕切りがあります。こういうのは重症火傷の患者の場合外部から病原菌が入ってはいけない、つまりは患者を感染から守るために使われることが多いのですが、この事件ではパンデミック(広域の伝染病)が発生しており、ジャックが病原菌に感染しているために、ジュリエットなど外部の人を守るために取られた対策です。

ジャックは口が利けず、ボードに文字をしたためます。1つ目のメッセージは「君を愛している」、2つ目のメッセージは「諦めるな」。彼が一体何を言っているのかはっきり理解しないまま彼女は病院を去ります。次に来た時にはジャックはそこにいませんでした。別れた後もジュリエットを思い、愛情を示したジャックと、別れた男なのに何を今更と言った雰囲気のジュリエットだったのですが、やはり何かしらの彼に対する気持ちは残っていたと見え、 絶望に駆られて泣き叫ぶジュリエット。

☆ がらっと変わってしまうアメリカ、がらっと変わらざるを得なかったジュリエット、良い方に

ここからははっきり描写されていませんが、この事件がきっかけでアメリカはパンデミックに襲われ、人類はほぼ死滅状態。

産業も社会生活も全ておしゃかになった後、生存者はその辺にある車を失敬し、ガソリンが続く限り走る、ガソリンが切れたら別な車を失敬するという生活をしています。生産活動はゼロなので、店などに残された食料を取るしかありません。金銭による売買は破綻しています。(日本には2度の大震災の後一時期経済活動が破綻したにもかかわらず、スーパーやコンビニから物を持って行く時にちゃんとお金を置いて行った人や、後から払いに来た人がいました。フランスの脚本家にはそういう発想は無かったようです。フランスは地震直後に日本へ記者を送って来ていて、食料品などの奪い合いを取材するつもりだったと書いている記事を見たことがあります。だとしたら無駄足でした。)

そして健康な生存者の他にこの世には人間の骨格をした、人食いの怪物が徘徊しています。パンデミックで感染すると人間がこういう風に変形してしまうらしいのです。

ジュリエットは生存者のキャンプと無線連絡を取りながら、車を運転して食料などを探す毎日。そして彼女を追って来るモンスターとの戦いにも明け暮れています。その上、体が健全だと言っても、人間が皆善良とは限らないのはいずれの世界でも同じ。孤独な旅を続けています。

ある日運悪く車が事故を起こし、立ち往生。救援を頼むことまではできたものの、仲間が来るまでモンスターを相手にしながら生き延びなければなりません。運の悪いことに右足を骨折。彼女がよほど腕が悪いのか、モンスターが銃弾に耐性があるのか分かりませんが、襲って来るモンスターに至近距離から銃を撃っても相手はひるみません。

戦いながら一夜を過ごしている間にジュリエットは上に書いたような過去の生活を思い出していました。

しつこく襲って来るモンスター。遂に彼女はモンスターとクリンチするほどの戦いになってしまうのですが、このモンスターには過去の何かを思い出させるものがありました。これがジャックだと気づくジュリエット。彼はずっとジュリエットをモンスターの姿で追っていたのです。全身に毛が無く、骨皮筋衛門と言えるぐらい痩せ細ったジャック。顔もケロイドのようになっていて、およそあのハンサムなジャックとは思えませんが、それでもジャックに間違いないと気づくジュリエット。

病院でジャックは「諦めるな」というメッセージを残していたのですが、ジュリエットは最後にジャックと抱き合ったまま、ジャックの耳の辺りから銃を発射します。ジュリエットの頭も貫通して、2人の人生は終わります。

これで終わりなのですが、ジュリエットはニューヨーク時代に比べると完全に自立しており、自分と仲間のために食料を探す、自分1人の事だけを考えるのではなく、他の人の事も考えて行動するようになっています。そして孤独な旅に耐えており、敵と戦う意志と力を持っています。

ジャックは全編を通して善人に描かれていますが、よく考えて見ると一種のストーカー。相手の生き方、考え方によっては歓迎もされますが、しつこいと嫌がられる可能性もあります。ジャックが良かれと思ってやっている事が相手に通じるかどうかで評価が別れます。ジュリエットはずっとジャックの家庭的な要求に抗っていました。

★ 似た映画があった

全体の目指す方向は違いますが、シチュエーションが似た映画を最近見ました。2017年春のファンタに来ていた作品で、It Stains the Sands Red と言います。砂漠で1体のゾンビにしつこく追いかけられるブロンド女性の物語で、2人は男がゾンビになる前には全く知り合いでなかったのですが、ゾンビになってしまった男が彼女を襲うのではなく助けようとしているのだということが終わり頃に分かります。ゾンビ・ジャックがジュリエットを襲うつもりではないというところと似ています。

★ ゾンビの皮を被って

この作品は人類滅亡、ゾンビ映画の皮を被っていますが、監督が重点を置いているのは恋愛映画で、男女の方針の違いだったのではないかと思います。

パンデミックが起きる前、2人は明らかに違う世界に生きていて、ジャックがモラルを代表し、ジュリエットは違法な世界に生きていました。ジャックは画商という職業で大邸宅を所有できるほどの財産を持ち、まだ若いです。ジュリエットはうら若き美女ですが、お金は小規模な麻薬の売買で稼いでおり、自分自身も中毒です。彼女の名前はジュリエット、ジャックはロミオと言ってもいいぐらい違う世界に生きており、メルヘンでもない限り、2人の人生が交差することはほぼありません。

それを強引に結びつけて、2人はカップルに。彼女の面倒は俺が見ると悪意無しに確信しているジャックですが、ジュリエットにしてみれば口うるさい教師と結婚するようなもの。放っておいてくれという考え方が常に首をもたげます。ジャックの上から目線が気に食わない、まだティーン時代の反抗期を脱していない、自分の力でまっとうに生きることが重要と分かっていないのがジュリエット。

パンデミックで他の人が殆ど死んでしまい、自分1人でも生きて行けなければならず、かつ、生き残った仲間と連携も必要という事を短時間に悟ったらしきジュリエットは、顔はまだ幼なさを残しているのにジャックとの時代と比べると恐ろしく自立しています。

せっかくジャックと再会したのに、ジュリエットは確固とした態度であっさり自殺してしまいます。ジャックをどこかに匿いながら行き続ける道は選びませんでした。ジャックは聞かれれば恐らくジュリエットに長生きしてもらいたいと言ったでしょうが。

ということで、監督は一体ジュリエットを通じて何を言いたかったのかが分からない作品でした。

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