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Het tweede gelaat /
Control /
Double Face /
Das letzte Opfer

Jan Verheyen

Belgien 2017 127 Min. 劇映画

出演者

Koen De Bouw
(Eric Vincke - フレディーと組んで仕事をしている警視)

Werner De Smedt
(Freddy Verstuyft - エリックと組んで仕事をしている刑事、規則に対してルーズ)

Greg Timmermans
(Wim Cassiers)

Sofie Hoflack
(Rina - 記憶喪失、半裸で犯行現場近くで発見された女性、精神病院の院長)

Marcel Hensema
(Anton Mulder - オランダ人のプロファイラー)

Hendrik Aerts
(Patrick Manteau - レナの精神病院の患者)

Ikram Aoulad (Abida)

Jurgen Delnaet (Roth)

Chris van den Durpel
(Hoybergs - 金持ちの起業家、容疑者)

Christel Domen
(ホイベルクスの妻)

Hilde Heijnen (Eva)

Travis Oliver

Kim Hertogs

Jasmine Jaspers

Tom Magnus

Greet Verstraete (Suzanne)

Kadèr Gürbüz

Peter Thyssen

Michiel De Meyer (警察官)

Marijke Pinoy (Tissot の母親)

Julie Van den Steen (秘書)

Karel Vingerhoets (法医師)

Eric Godon (コンシェルジュ)

Erik Goris (裁判官)

Sven De Ridder (バーテンダー)

Daan Hugaert (医師)

Uwamungu Cornelis (検死官)

Mark Arnold

Allard Geerlings

Kelly van Hoorde

Charlotte Vanderdonck

見た時期:2018年5月

2018年ファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ タイトル

フラマン語(ベルギーで使われるオランダ語)のタイトルは Het tweede gelaat。直訳すると「第二の顔」です。海外では英語の Control、あるいは Double Face となっています。ドイツでは Das letzte Opfer です。ドイツ語のタイトルは「最後の犠牲者」という意味で、このタイトルのみネタバレせずに内容を上手く表しています。原題、英語のタイトルはネタバレになっています。

★ ネタバレを冒頭に

タイトルがネタバレになってしまうというのはこんな感じだからです。

連続殺人事件の犯人が市民生活に上手に溶け込んでいて、普段の顔と、犯罪者の顔を持ち合わせているため、2つの顔があります。なので「第二の顔」とか「ダブル・フェイス」はもろネタバレです。勘のいい人には重要な登場人物の誰かが犯人だと見当がついてしまいます。 また、犯人は共犯者をばっちり支配しているので、「コントロール」というタイトルもまた犯行動機のネタバレになってしまいます。

★ 原作者

原作者はベルギーのイェフ・ヘーラエルツ。1930年生まれで、2015年死亡。1962年から作品を発表し始め、40年後の2002年に最後の作品を発表しています。亡くなるまでに13年あったので、「40年ぐらいでいいだろう」と考えて筆を置いたのかも知れません。

裕福な家に生まれ、イエズス会の学校に入っています。学問を修め、当時は普通だった軍役にも就き、その後結婚し、編集者として働いています。さらに管理関係の役人に転職。当時植民地だったベルギー領コンゴで働きます。1960年に重傷を負い、ベルギーに帰国。1962年からドイツ文献学を勉強し始め、処女作を発表。その後間もなく3人子供がいたのに離婚。コンゴでの負傷が彼の人生をガラッと変えてしまったようです。

1968年に自叙伝的な小説を発表し、国から賞を貰ったのですが、翌年その本を法務省が押収してしまいます。その後もコンゴでどういう植民地政策が取られているかを描いた本を発表。これは彼が1960年頃から経験した悪夢から普通の生活に戻るための一種の治療の役目を果たしたようです。

70年代後半に再婚。編集者としての仕事も再開。新聞や雑誌に投稿し、小説も発表。人生の後半には犯罪小説を書くようになり、いくつかは映画化されています。マルチン・ベック・シリーズを書いたヴァールー、シューヴァル夫妻のように社会問題を取り入れています。

★ ファンタに来た作品

今年の春のファンタの1作目が Het tweede gelaat で、仕事で出勤する土曜日に重なったので、時間調整に難儀しました。人事の人と4月から交渉し、その日の前後に残業時間を貯めるという形で1作目に間に合いました。これ1作を見れば、他の作品はどうでもいいと言えるくらいの期待作だったので、大いに喜びました。

なぜそれほど期待していたのか。監督は別な人だったのですが、原作者が ザ・ヒットマンを書いた人だったからです。

HITMAN X. 復讐の掟という邦題の Dossier K. も彼が原作を書いています。こちらはザ・ヒットマンよりややインパクトが弱いです。

Het tweede gelaat は前2作がベルギーの社会に影響を与える内容だったのに比べ、個人の問題を扱っているので、この作家の作品としてはやや萎んだ感じです。

★ ザ・ヒットマン

長年ヒットマンを生業として来たレダ。今回も依頼を受けて任務終了。次のターゲットが彼を悩ませることになります。年端も行かない少女。レオンのナタリー・ポートマンを思い出してしまいます。で、仕事をせずに依頼主の所へ戻り、その後は組織の人間としてはやって行けなくなります。

仕事上組織や警察が追いかけて来るのは織り込み済み。そちらはやり過ごすとして、今彼の抱える問題はアルツハイマーという病気。そんな状態のヒットマンが身の振り方をどうするかがスリル満点ですが、現実のベルギーの抱えていた年端も行かない少女の連続誘拐事件が背後に見え隠れしました。

原作とは時期的に前後するので、直接関係は無いのかも知れません。それは先に断わっておきます。

ベルギー人作家イェフ・ヘーラエルツがザ・ヒットマンの原作を書いたのは1985年。映画化されたのは2003年で、この後この時に準主演だった2人の刑事がその後もイェフ・ヘーラエルツ原作の小説の映画化で同じ役を続けています。

ベルギーで少女連続誘拐事件が発覚したのが1996年。原作から11年後のことです。犯人として直接関わり、逮捕、起訴されたデュトルーは警察に捕まった後で裁判に向かう時ふらりと外に出ることができ、改めて捕まるという不思議な体験をしています。デュトルーの妻と男2人も共犯で捕まっています。

罪状は複数の子供を誘拐、監禁、暴行、ポルノに使った、子供を死なせたなどぞろぞろ。彼の手にかかった最後の2人の子供だけ助かっています。

この事件は長期間に渡って起きており、もっと多数の子供が犠牲になったと主張する向きもあり、警察や司法が普通では考えにくい失態をしていたため、国民からはかなりの抗議を受けています。

この事件が単なるデュトルー一派の金稼ぎ以上の規模で、デュトルーたちはシンジケートの歯車の1つにすぎないという説が事件発覚当初からあり、かなりの上層部にまで広がっていたのではないかと考える人がいました。その説を裏付けるかなと思われる奇妙な出来事が10以上デュトルーを巡っては起きていました。

時たま作家が当局などから資料提供を受けて小説にすることがあるようなのですが、そういう話はアメリカの方から聞こえて来て、欧州では聞いたことがありませんでした。なのでヘーラエルツがデュトルー事件の11年も前にこんな小説を書いていたのは単なる偶然なのでしょう。

デュトルーは一時期コンゴに住んでおり1960年にベルギーへ帰国。その10年後から人生の転落が始まっています。1986年には今度の事件の前奏のような事件で逮捕。少女5人に暴行を働いたのですが、1992年に釈放。釈放後すぐに次の事件の準備を始めたような記事も見ました。

この5人の犠牲者のすぐ次が1995年の事件と取れるように書かれている記事が多いのですが、ベルギーではこの年齢の少女が大勢行方不明になっており、行方不明者の両親が大勢デモを起こす事態にまでなっていました。

推測される被害者の数、当局が全然動いてくれないなどの点は日本人を拉致し、国外に連れ去った事件と似たもどかしさが見え隠れします。

★ HITMAN X. 復讐の掟

こちらは西側に住み着いた旧東側の人たちの犯罪組織の話です。イタリア・マフィアは最近下火という話を時々耳にしますが、イタリア・マフィアがあまりにも有名なっていたので、長い間他のマフィア的な組織は目立ちませんでした。

それを取り上げたのが HITMAN X. 復讐の掟。中心はベルギー在住のアルバニア・マフィア。アルバニア系のマフィアは家制度がかっちりしていて、家が単位になっています。家の掟があり、一族の人たちは口が固いです。古くは殿様のような形で一定の地域を支配していましたが、そういう家同士が揉めた時に暴力が使われることもあり、時代が下ると犯罪組織に移行したグループがあったようです。米ソ対立でアルバニアは東側に組み入れられましたが、そういう時期でも政府とは別な所で国を動かしている人たちがいました。コソボがもめた時大発展を誘発し、以前から麻薬販売を生業にしていた人たちが、欧州でグローバル化に成功。せっかく紛争で従来の密輸ルートが塞がったのですが、すぐ別ルートができてしまいます。

EU の中心でありながら、ベルギーは普段滅多に報道に登場しません。ところが組織犯罪となると、アルバニアとベルギーの関係が知られています。ベルギーの犯罪者社会はアルバニア・マフィアに乗っ取られたとのことです。人身売買や麻薬が主要な収入源になっています。特に人身売買では驚くような人数がベルギーで取引されています。

★ 出演者

上にマルチン・ベック・シリーズを思わせると書きましたが、こちらもエリック・フィンク・シリーズと言ってもいい感じで、エリック・フィンクとフレディー・フェアシュティフトが3作の捜査側の主演として出演しています。そして扱われたのは前2作ではベルギー社会で問題になった事件。

今回はどちらかと言うとベルギーのある個人の抱えた問題。それでも大きな事件になり、警察が自分たちの手に負えないとまで感じたのは、8人もの犠牲者が出たシリアル・キラーだったためです。

以下あっけらかんと筋をばらしますので、見る予定の人はこの辺で読むのを止めて下さい。

目次へ。映画のリストへ。

★ あらすじ

6人の女性が殺害され、死体からは首が切り取られていました。その事件に関連し、7人目の被害者になりそうに思われた女性リナが半裸、半分記憶喪失の状態で発見されます。彼女が唯一生存している証人で、警察は彼女から何かしらの証言が取れればと期待します。

彼女は精神クリニックの所長で、彼女が運営している病院では精神病のリハビリを行っています。捜査担当の刑事でありながら、フレディーはリナに惹かれて行き、彼女と関係を持ってしまいます。同僚のエリックはフレディーのハチャメチャな性格を知り、普段は受け入れていますが、捜査進行中の事件の証人と寝てしまうのは明らかに軽率と考え頭からカッカと湯気を立てます。

暫くしてリナの精神病院は大パニックに陥ります。朝出勤して来たらクリニックの庭に行方不明だった6人の女性の頭が串刺しになって並んでいたのです。検死官が頑張り、どうやら頭は冷凍庫に保存されていたらしいことが判明。

犯人としてはまずは金持ちの男が捜査線上に浮かび、その後はリナの病院に収容されているパトリックに疑いがかかります。その上暫く行方をくらましていたリナがある家の冷凍庫の中から発見されます。

そのため主犯はパトリック、最後の被害者はリナという平凡な推理が成り立ちます。しかし実は犯人は2人で、主犯がリナ。彼女に命じられて女性を殺して回っていたのがパトリック。パトリックは彼女の言うことに忠実に従うように手なずけられていました。

後半になるとリナはパトリックを生贄として警察側に差し出し、刑事であるフレディーを誘惑して次のパトリックにしようともくろんでいました。パトリックは警察から追われる身となり、市場で大立ち回りの末射殺。リナの誘惑の腕はかなりなもので、フレディーはすっかり彼女の虜。もしかしたら誘導され、ドラッグを与えられ、いずれはリナの操り人形になるかと思われたのですが、実はフレディーはそううぶでもありません。

ロマンスの真っ最中でもつい刑事根性が出て、リナが閉じ込められていたはずの冷凍庫に鍵がかかっていなかったことが頭に引っかかっています。車で高速道路を走る2人。フレディーに真実がばれたと悟ると、リナはフレディーの運転する車のハンドルに手をやり、走行を妨害します。必死に抵抗するフレディー。警察もすぐ後ろを追って来ています。前方を注意するにもリナが邪魔をするので大変。

遂に大型トラックとぶつかりそうになり、2人の乗った車はトラックのタイヤの間をくぐることになります。リナの首は飛んでしまい、フレディーは重症。他の人の首をはねていたリナですが、今度は自分が首を失いました。

★ 採算が合うか

長い間映画では女性は凶悪犯人ではなく、事件に巻き込まれた気の毒な人という描かれ方が大半で、たまに悪女映画が作られるといった傾向が強かったです。最近は女性でもちゃんと悪知恵が働くんだ、男女雇用機会均等法もあるんだし、と言うわけで、フランスの犯罪テレビ・シリーズでも一時期から女性が犯人という作品が増えています。ただ、まだ女性がクリニックの所長になったりする割合は比較的低めなので、こういう犯罪を実行するだけの機会を持つ女性は少なめ。恐らくは将来も女性がこういう事をする例は少なめにとどまるのではないかと思います。別に女性が善良だからではなく、算盤勘定で「こんなややこしい事をやっている暇は無い、後始末も大変だし、一生気をつけて暮らさなければ行けないし」と考えるのではないかと思います。

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