皇帝の正しくないチェス

2002 全国大会 3R


はじめに

 3Rの相手は、柏チェスクラブのNさんです。

 Nさんとは、2年前のゴールデンオープンで対局しており、私が負かされています。
 今回は全日本選手権に場を移しての再戦です。

 実は対局前夜に周到なNさん対策が、いるか師匠によって行われました。当然飲みながらですけど(笑)。
 ということで、そこらへんも含めて、解説はいるか師匠がして下さいました(^^)。おお、麗しき師弟愛!

 なお、anon_emperorによる注釈を斜体文字で付加しています。

いるか師匠による「はじめに」

 2R終わって、N氏との対戦が予想されていましたので、帰る途中で、寿司屋でビールを飲みながら皇帝にカロカン対策を伝授しました。

 ざっとした内容は、
「カロカンは中盤で頑張ってもなかなか白良くならない。だったら中盤は互角でいい。エンドゲームを優位に進めるための準備をすれば、勝ちが近い」
というものです。

 まず、事前知識として、
「カロカンの場合ナイトと白マスのビショップは白が望めば簡単に交換できる」
「ナイト交換後は白クイーンがセンターに行きやすいので、黒がよほど拒否しない限り、クイーンの交換も行われる」
「よって黒マスのビショップとルークが残るエンディングになりやすい」
というものです。

 これはいるかの実戦経験にもどづくもので、本には明確に記載されていないと思います
(上級者には間違っていると指摘されるかもしれませんが、チェスはアイデアのゲームですので、自分の考えを実践するのが良いと思います)。

 そこで、
「黒マスのビショップとルークを働かせる陣形とは?」
というポイントがでてくるのです。

 具体的には、
「白マスにポーンを配置することで、黒マスのビショップの活性化とe3,f4,g5の位置ではなかなか働かないビショップをb2から働かせる」
というものです、と同時に、
「ポーンをコネクトし、ルークエンディングを戦いやすくする、bcポーンを突けばパスポーンが作りやすい」
とエンディングに入れば優位なポイントがあるのです。

 皇帝には時間がなかったため、事前知識を十分説明できず、
「とにかくb3c4の形を作れ」
と指示しましたが、途中まではいるかの戦略通りの素晴らしい内容でした。

 ところが・・・
まあ、見てみましょう。

棋譜解説

[Event "Zenkoku Taikai"]
[Site "PIO"]
[Date "2001.04.30"]
[Round "3"]
[White "anon-emperor"]
[Black "H.N"]
[Result "0-1"]

1 e4 c6
2 d4 d5
図−1
【図−1】

 対カロカンは、e4プレイヤーとしては必ず覚えておくべき定跡ですが、まだまだ苦手な定跡です。

 今回は、いるか師匠の入れ知恵もあり、ドキドキしながらの指し手になりましたが・・・。

   
3 Nc3 dxe4
4 Nxe4 Bf5
5 Ng3 Bg6
6 Nf3 Nd7
7 Bd3 Bxd3
8 Qxd3 Ngf6
9 0-0 e6
10 Re1 Be7
11 b3(図−2)
図−2
【図−2】

 11. b3?!は定跡を外れますが、いるかの狙いの手です。
 定跡は11. c4 から12.Bd2 です。

   
11 ... 0-0
12 Bb2 Qc7
13 c4 Rad8
14 Ne4 Nxe4
15 Qxe4 Nf6
16 Qe2 Rfe8
17 Ne5 c5
18 dxc5 Qxc5
19 Ng4 Qg5
20 Nxf6+ gxf6
21 Red1 h5
22 h3 b6
23 g4? hxg4
24 Qxg4 f5
25 Qxg5 Bxg5(図−3)
図−3
【図−3】

 23.g4?では、23.Qf3!?として、クイーンサイドのポーンを狙うのが良いようです。

 クイーン交換が狙いでしたが、hポーンが離れてしまい、ちょっと嫌な感じでした。

 良い手ばかりではありませんが、悪手もなく、結果として狙い通りの展開です。ポーンの形の差で白が優勢です。

   
26 Be5 Kh7
27 Bc7! Ra8?
28 Rd7 Kg6
29 Be5 Bf6
30 Bxf6 Kxf6
31 Rad1 Rg8+
32 Kh2 Rg7
33 Rg1 Rxg1
34 Kxg1 e5
35 h4 Ke6(図−4)
図−4
【図−4】

 27. ... Ra8? では、27. ... Rc8!が正着です。28. ... Re7 が狙いです。

 ルークエンディングになりました。以下の理由で白優勢です。
 (1)7段目を占領している。
 (2)a7f7のポーンを攻め、黒のキングとルークを動きを制限している。
 (3)hポーンがパスポーン。
 (4)bcポーンを突けばパスポーンが作れる。

 ちなみに以下が白勝ちのルークエンディングです。

36.Rc7! f4! 37.h5 f3 38.h6! Rg8+ 39.Kf1 Rg8
40.Ke1 e4(Rxh6?? Rc6串刺し) 41.Kd2 Ke5(他に良い手がない)
42.Re7+ Rd4 43.Rxa7 Rxh6 44.Rd7+ Ke5 45.Ke3 f5
46.Rd5+ Ke6 47.Rb5 Rh1 48.Rxb6+ Ke5 49.Rb5+ Kf6
50. Rb8 Re1+ 51. Kf4 Re2 52. Rf8+ Ke6 53. Rxf5 Rxf2
54. Kxe4 Rxa2 55. Rxf3で白勝ち。

 ところが・・・

   
36 Rd5?? Rh8
37 a4 Rxh4
38 a5 Rd4?
39 Rb5? Rd6(図−5)
図−5
【図−5】

 36.Rd5??で、上記4つのメリットの2つを放棄してしまった!

 ルークはdファイルにいて、黒のキングがクイーンサイドに動くのを防ぐべきだと思っていました(涙)。

 38. ... Rd4?では、38. ... Rh3!が正着です。
39. axb6 Rxb3 40. axb7 Ra3 で黒優勢となります。

 39. Rb5?・・・、出た悪手返し!
 正しくはaxb6 axb6 40. Rxd4!exd4 41. f4=

39. ... Rd6で黒勝勢。せっかく白良かったのにもうダメです。

   
40 Kf1 f6
41 Ke2 f4
42 b4 e4
43 Rh5 Rd3
44 axb6 axb6
45 Rb5 f3
46 Ke1 Rd6
47 Rh5 f5
48 c5 bxc5
49 bxc5 Rc6
50 Rh6+ Kd5
51 Rxc6 Kxc6
52 Kd2 Kxc5(最終図)
最終図
【最終図】