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バラバラのチェロ修復 PartU-8
Feb. 2007 HOME
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    ◇ フィッティング    

ペグや駒を削ったり、魂柱を差し込んだりすることをフィッティングといっています。この段階からは、もうニカワは一切、使わないで行うこととなります。

フィットさせるわけですから、「適当なもの」を「ふさわしく」、「調和を保って」、「調整する」 このすべてが、fit だとボクは認識していますし、また、この語の本来の意味でもあります。

どんな名器でも、駒ひとつのバランスが悪ければ、決して鳴りはしません。
また、たとえ中国製や韓国製の安ものでも、フィットさせるべくフィッティングすると 結構、よく鳴るから不思議です。

それだけ、ヴァイオリン族の構造そのものがすぐれているものと思わざるを得ません。『完成された楽器』といわれるゆえんでしょうか。
デスクに並べたフィッティング用品。 ペグの左4本は、元のもの、次の4本がすでに削って合わせたもの。それと同じペアー・デザインのテールピース。

右奥の手前の陰になっているテールピースは、初心者向きの安物で、4弦ともアジャスター付きになっています。

チェロ用のペグ・シェーパーを持っていないので、大型ドリルの横付けスタンドを利用して、ロクロ式に削りました。 既製品の長さが、多少、余裕があり、ちょうどドリルチャックに差し込むことができました。それで、直径をノギスで計りながら、ボックス穴に何度も差し込み、太さ具合を見て削りました。

ご覧のように、ボックス穴の左右とも、
しっかり食いつくようにしました。光っている部分はそのためです。

最初の写真でお分かりいただけたでしょうが、これはボク自身の好みであり 品がいい上に格調が高く、市販のヴァイオリンでは中級以上のものによく使われるものです。

ブラスのリングに黒檀、それに、真ん中にはパール・アイが象眼してあります。

その裏側ですが、アジャスター付きのものは本体がアルミ・ダイキャスト製。

今回、使う予定の上のセットは、オーナーさんとの約束通り、すべて黒檀。

へぐ穴の調整では、ボックスの方の穴をリーマーで大きくした方が、作業はずっと楽。 でも、ペグ調整では、元の穴よりペグの方が太い場合、リーマーで穴を広げて対応するより、ペグ自体を削って細くする方をおすすめします。

それは、ペグが細い方が、テコの力学で弦が弛みにくく、 半径が少ない分、回す量と、巻き上げる弦との関係で、調弦もしやすいからです。

ある意味ではペグは消耗品的要素があり、ボックスの穴がすり減って大きくなり過ぎ、 ペグを限度以上、押し込める余裕がなくなったときには、そのペグを太いものに取り替えます。
それ以上になったら
ブッシングといい、ペグ穴の埋め戻しをします。

そのような理由からも、ボックスの方の穴を広げるのは、いよいよのときに残しておくべきだとボクは考えています。
オーダーしておいたテールピース・アジャスターも入り、 駒も削り、魂柱もフィットさせ、ようやく弦も張りました。弦を張ると、いよいよ本物のチェロらしい。

オーナーさんから『駒は低めがお好き』と伺っていたものだから そのあたりのことと、魂柱の最適な場所をこれから様子をみながら、若干の微調整。  
◇ 魂柱 ( Sound Post)について

このサウンド・ポストのことを、単に『音響柱』と訳さず、『魂柱』と訳した日本人製作者の先人に感謝、感動です。

すべての木をニカワで貼り付けるのに、これだけは、ただ差し込むだけ。しかも、ゆるすぎても、固すぎてもいけません。

ゆるすぎると、弦を張り替えたりする際、少しゆるめただけで倒れてしまったり、 ドンとたたいたり、ショックをあたえただけでも倒れるようでは話になりません。

しかも、刀工が入念に打ち込んだ刀を、最後の焼き入れに全身全霊を込め、 ジュワーッと水に入れる、そんな瞬間をいつも想います。

まさに、『つくり手の魂』を入れ込む作業といえます。

お手製のサウンドポスト・キャリパー(真鍮のもの)を、魂柱を立てる位置に入れ、スライドさせて、その場所の長さを正確に計ります。

その長さに1mm足した長さで、それより少し細い丸棒に写し、カット、それを入れて様子を見ます。

細いと、取り出しに都合がいいからだし、使う木で失敗したくないので、仮のものでそのようにして確かめています。

それを調整しながら本番にいきますが、もちろん、位置がやや曲線にかかる場所ですから、それも考慮して少しだけ角度をつけて切ります。


正しい位置に納まっているかどうか、 エフ字孔からもやっと見えますが・・・
上の写真のように、切った切りくずでも、見えている延長線に置き、この位置からと、 上から、エフ字孔の上の丸い穴と、上下左右から見ると、駒からの位置がはっきり確認できます。

そして、その場所に、垂直に立っているように調整します。

実際には、上からは、なかなか見えにくいですけどね。

でも、左の写真のように、このような一個所スリットを入れたボール紙があれば、よく分かります。
切り込んだ紙の内側が、魂柱にコンと当たったところが、駒から魂柱までの位置。

紙の向こう側をそのまま押しあてれば、魂柱の手前側が駒に対してどれほどの位置なのか、簡単に認識できます。
また、あらかじめ魂柱の半径分だけ、紙を短く切っておけば、魂柱のセンター(スリット左側の先端) がどこにきているか、一目瞭然、把握することができます。

その場所を標準と定め、前後・左右、少しずつ動かしながら、弾いて音を確かめながら調整します。
差し入れた、短い方の紙が魂柱のところでストップしますから、そこが魂柱の外側。

つまり、長い方の、左側の紙の先端が魂柱の中心を指していることになります。

この方法、簡単な割によく分かりますから、一度、お試し下さい。

◇ 弦を張ってからも微調整

指板もネックも、かなりしっかり真っ平らに削っったつもりでも、新しく指板を貼りつけたということは、 貼り付けてからも多少の調整は必要になります。

それは、前述したように、オーナーさんは低めの駒がお好きということを伺っていましたから、やや低めにしました。

そのため、一部のポジションで強く弾いたとき、振るえる弦が指板に触れ、ビリつきが出ててしまうのです。

ヴァイオリンから比べたら長さも巾も大きく、それに、駒の高さにも関係してきます。
高ければ、それほど問題は出ませんが、低い場合だけはコンマ1、2mmでも影響するのです。

また、ネック・指板の両方の木にニカワ(水分)を塗り、何カ所もクランプして貼っていますから、 木そのものにも多少のひずみもでるのでしょう。

それぞれの弦を、それぞれのポジションで弾いてみて、不都合な場所をさらに削ります。

削るのは、よく切れるスクレーパーを使います。

エフ字孔の穴から黒檀の切りくずが入らないよう、タオルを乗せて養生しています。

どの弦でも、どのポジションでも、確かな発声をするように少しずつ削り、 弦を張ってはまた確認し、そうして何度も調整します。

この写真では、ナットからボディ付け根までの間の、D線の具合を見ているところです。

周囲が暗い上に、指板の反射もあり、空いているところだけが逆光で大きめに見えていますが、実際にはコンマ2mm程度しか空いていません。

こうして、ローポジションからハイボジまで、一定の空きがでるように削ります。

修復前
修復後
これで、修復は全て完了しました。 (19. Feb. 2007)
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