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首が折れたチェロの修復-2
Oct.2007 HOME

 

いろいろな作業を進めながら、その間、気になっているところも修整。

このペグ・ボックスの中を見ると、底がペグに厚く巻かれた弦でこすられて塗装が剥げ、少し摩耗している状態。

その原因として、ペグに弦を差し入れる穴の位置が悪く、とくに低弦では、太い弦が二重、三重にも重なり、それですり減ったことが考えられます。

また、ペグ自体にもペグを切りつめた際の余分な穴も空けられており、その穴の位置が悪くても二重に巻かざるを得なくなってしまう。

その上、その際、大きく修正したと思われる「ペグ穴」の下の縁が、底ギリギリのところも見られました。

そうしたことを考慮し、ボックスの底の厚さに余裕があるので、少し掘り下げることにしました。

これは、弦が切れやすい原因にもなるので、クリアーしておく必要があります。なお、写真は、すでに低弦側だけは彫って修整済み。
◇ 細かな欠点の修復作業

オーナーさんからは何も言われていませんでしたが、折角のチャンスですから、あちこち気がついた細かなキズや欠陥にも手を入れます。

表板左側、C部コーナーの突端が、年輪で2本分程度の欠け。

これも、美人の耳が犬に噛み切られたとか、ピアスの穴が雑菌に冒され、腐敗症にでもなって手術して少し切ってしまったようなもの、 気がついていながら放ってはおけないのが小生の性分。

この程度のものは、ニカワが乾く間、あるいはニカワを溶かしついでに、一緒に、簡単に処置できるものです。

しかも、材料代がかかるとか、ひどく手間がかかる、ということはありませんからね。

まず、同じ厚さに削った、同じような木目のスプルース(柾目)を、必要なサイズに荒切りする。(下の写真)

1.5mmほどの竹串をつくり、先だけを少し尖らせておく。

その竹釘をダボとして、ニカワをちけ、打ちつけるようにして貼り付けます。

当然、欠けたザラザラになっている箇所は、彫刻刀などで真っ平らに成形してあるので、当たる方も、切り口はその角度に合わせて切るし、 竹釘を差す穴は、あらかじめごく細い切りでガイド穴を空けておく。

そうすると、こんな薄さの小さなものでも、割ってしまう心配はありません。

こうした、接着面をならす際には、ペーパーより、刃物の方がいい。

ペーパーだと板を添えてこすっても、どうしてもアールがつきやすく、また、表面がザラついてしまうからです。

(マクロで、カメラを近くによせ過ぎたせいか、アトピン!)

よく乾いたら、今度はペーパーで、反対側のものやバックの形に合わせて成形。

こうした際のペーパーにしても、ただ、指でペーパーをもってこするより、細い木片に巻いたり、貼り付けたものを使う方がいい。
(すみや流 ペーパー・テクの項を参照)

今度はピントよく撮れました。

周囲の色に合わせ、アルコール系の着色料(赤茶、アンバーなど)を薄めたもので何度か塗り重ね、色合わせ。

これで、生まれたときの形に戻ったわけです。

またまたアトピン! だけど、着色してあるのは分かるよね。

◇ クラックの補修とツール 


修復前


修復後

当初、まさか段差があるままニカワ付けされているとは思わず、 簡単に処置できと思っていた。

それで、表板を中央から左右25cm程度と、サドルを外したのだが、割れ目に流し込んだニカワのため、思った以上にしっかり貼られていた。

そのため、ここでも床屋さんのひげ剃り程度のお湯を浸した濡れ雑巾でニカワをゆるめ、剥がしにかかった。・・・のはずだが、 切ったものと違い髄線に沿って割れたもの、しかも、すべての断面が直角になっているわけではない。

一部、表面のごく薄いところのニス仕上げしてある部分を、左右を反対に上下させながら剥がしていったために、少し傷めてしまった。
そして、こちらが修復後の結果。

左の写真とは、若干、角度や光線状態が違うので、明らかな比較はできない写真になってしまったが、お分かりいただけるだろうか。

左の写真・右上の、白く彫られた凹みには着色したパテをつめ、レタッチしてあるので、この写真では見えなくなっている。

テールピースのすぐ上のシミは、オールドとしてみれば気にならないので、そのまま残っている。

少し傷めてしまったジョイント部は、着色したりニスをレタッチしたが、どうしてもジョイントの筋が出てしまった。

表板を、上下25cm程度剥がしただけでは、修復するに十分の隙間にはならなかった。
そこで、苦肉の策、簡単にして有効なツールをつくることに・・・。

幸いにして、チェロはヴァイオリンとは違いエンドピンの穴が大きい。

その穴を利用した「バスバー・クランプ型」のクランプをつくれば、 なんとか表板を大きく剥がすような、無理せずできるはずだ、と考えた。

まず、ベニヤの端材をチェロのその部分に近づけ、そのツールのプロポーションを決める。
ただ、下のアームだけはその穴に入る大きさ、形(カーブも含め)でないといけない。直角ではスムースに入っていかないから・・・。
しかも、差し入れるときには上のアームが邪魔、90度ぐらい上だけを横にずらしておくか簡単に取れなくてはならない。
つまり、上下がバラバラになっていて、穴に差し入れるときは下だけ。
下を入れてから、簡単に上もつく方がよかろうと判断した。

なぜなら、パッチを貼る際、 このツールを使って表板の裏側にもニカワを塗りたいし、そのヘラ(というよりコテに近いかな?)としても機能させたいからだ。
構造的には、横に回転させる方が、ピン一本で済むから楽だし、また、差し入れてから組み立てる必要もない。

でもここはあえて、後ろは、細いダボピン2本で組み合わせた。
このツールを使い、まずクラックの割れ目にニカワをしみ込ませ、クランプして貼り付ける。

その際、はみ出した余分なニカワでツールが貼り付いてしまわないようにするため、上下とも先端だけにビニルを巻いて養生している。

結果として、このツールは、12mmの端材のコンパネでつくったのだが、その板厚と太さから、丁度よいバネができ、 具合のいいテンションがかかり、締め具合も理想のものであった。
その半日後、補強のパッチも貼った。下の、アームの先端には両面テープを貼りつけ、その表面だけを何度も手で触って、少し粘着力を弱くしておく。

とりたいときには、簡単に取れるようにするためである。

もちろん、両面テープを貼る前に、ツールの先端をコテに見立て、表板の内側にも貼る周囲にはニカワをたっぷり塗りつけておいた。

自分が考え、新たにつくったツールが想像通りの機能を果たした満足感は、また別格!
表板クラックの補修がすめば、あとは剥がした部分を側板にしっかりと貼るだけ・・・。

このページからご覧になった方のために、ここで使っているスプール・クランプ(弦楽器専用の締め具)ついて、一言。

これは、もともとヴァイオリン用のものとしてつくったものですが、それを長いボルトに取り換えただけ。

ただし、ここで使っている6mmボルトには、ちょうどよい長さの市販品がなく、100cmの、全ネジになった棒状のボルト(これが意外に安いのです)から、任意の長さにカットして使っています。

ですから、締める方には「蝶ナット」で締めつけるようになっていますが、反対側(この写真では下側)は、ナット2ヶで締め付けて固定するか、 ストップ用のキャップ・ナットを使ってあります、念のため・・!
 

今回の「折れ(結果的にははずれ?)」は、このように接合。
熱い蒸しタオルで何度も蒸したので、ニスの表面には「カブリ(白く曇った状態)」が出ています。
上下のジョイント部は、1500番のペーパーでかるくならし、着色ニスを塗ったところ、カブリも当然、消えています。
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