+手紙+
1 はじめさま 日の暮れる時間が少しずつ早くなってきていて。 学校行く途中にあるコスモス畑が満開になりました。いちおう報告まで。 |
いつもより厚みのある、長方形の白い封筒。 なるほど写真かね、と思いながら逆さまにした。 ガサガサ、と音を立てて10枚ばかりの写真が机の上ではねた。 「うわ……」 一面に広がったコスモス畑。 遠くから、近くから、上から、下から。 たぶん、どこをどう撮ったら、ちゃんとしたコスモス畑になるのか、わからなくて。 勢いが余りすぎて、何枚か床にまで落ちてしまった。 「すげぇきれい」 「はじめ、花好きなわけ?」 こういう質問のされ方にも、すっかり慣れっこだ。 「うん。ちょっとかっこよいでしょ?」 はじめは、にっこり笑って、いつもと同じように答えた。 写真に続けて今度はと、西脇が白い飾り気のない封筒をつまみ上げる。 「……しかし、あんまりきれいな字じゃねえな」 正直な感想に、苦い笑いを隠すのは難しかった。 竹内はじめ 様 まるで一本一本、定規をあてて書いたような漢字。 「……あの、はじめさん?」 「夏雪さ……あー文通相手ね。半年前に事故にあって、右手、利き手をケガしちゃったんだよね。 不細工な文字の列を、西脇が精一杯という感じで目を大きくして、見つめた。 「じゃあ、これは左手でシャッターを切ったわけか」 しみじみとした西脇の言い方で、目の前の写真がまた違う色で輝き始める。 先生が入ってきて、一時間目、英語の授業が始まる。 たまたま一番上になった写真のすみっこに、無造作に地面に置かれたカバンが映っていた。 (……あ) 夏雪を見つけた。 |
どこをどう撮ったら、ちゃんとしたコスモス畑になるのか、全然わからなかった。 写真って結構奥が深いのな。 数撃ちゃ当たるじゃないけどさ。たくさん撮ったから全部送ります。現像代はしょうがないからサービスで。 ではまた。 夏雪 残り三行まで読み終えて、便箋を三つ折りにたたんで封筒の中へとしまう。 地元の高校に、前は自転車だったけど、今はバスで通っている夏雪。 はじめは突然ひらめいて、鞄の底をがさがさと探った。確か、あったはずだ。 「ミス竹内、さっきからお前はなにやってんだー?」 はい、チーズ。とはじめが掛け声をかける。 |
夏雪さま コスモスの写真、ありがとう。 って、私が花が好きって意外かあ?女の子なら誰でも好きだと思うけどな。 お返しに、私の周りの風景たちも撮って送ります。 うちの家や学校の周りは本当に建物がいっぱいで。ごちゃごちゃしてて。 でも、建物と同じくらい、人もいっぱいいて。しかも色んな人がいて。 一番でっかいピースサインは西脇と言って、赤茶けた変な色の頭をしているけれど、とってもいいやつです。 ではまたね。いぇーい。 はじめ |