+手紙+
3 一番初めの夏雪の手紙は、間違って届いた。 宛て先は、三軒となりの竹内のおじいちゃん家。 そういうわけで、回りに回って迷ってふらりと、夏雪の手紙は私のもとへと届いた。 |
最初は、どうもこうもするつもりはなかった。 でも、こうやって手紙を出すってことは、竹内のおじいちゃんがどうなったとか知らないんだろうな、と思って。 孫だろうか。封筒の宛名の字はまだそんなに成熟してない若い字に見えた。 最初に惹かれたのは、夏雪、という名前の響きだった。 夏雪、夏雪、夏雪。 三回唱えてみただけですっかり、夏雪のことを気に入った。 三軒となりの竹内はじめです。はじめまして。 そうして、かれこれ三年近く文通を続けている。 でも手紙じゃなきゃダメだった。 一週間に一度は届いていた手紙が、一ヵ月ぐらい、届かなくなったことがあった。 でも、わかった。 普通にしていても、夏雪の嘘はすぐにわかったから。 手紙を交わせば交わすほど、どんどん夏雪のことを気に入っていった。 夏雪がどんな顔してるかなんて、知らない。 でも。 |
「はじめ」 登校するはずの道を逆走していたら、赤茶けた頭に掴まった。 はじめは黙ったまま、長方形の白い封筒を手渡した。 「……つまりはじめは、夏雪が遠くに行っちゃうのが嫌なわけ?」 西脇があっさり肯定するので、はじめは逆に戸惑った。 「でも私、夏雪のこと、ほとんどなんも知らないんだよ?手紙でしか話したこともないし」 西脇から返された手紙を握り締める。 「だから、好きだからだろ。はじめは、夏雪のことまるごとで好きなんだよ」 ぱちぱちと濡れて重たくなったまつげを揺らして、はじめは西脇を見た。 「夏雪の周りのもの、学校とかコスモスとか、そういうの全部ひっくるめて好きなんだよ。だから、はじめは、それがなくなっちゃうのが嫌なんだ」 変てこな、赤茶けた頭が、恐ろしくかっこよく見えた。 「……どうしよう、西脇。私もう手紙の返事、出してきちゃったよ」 「はじめはほんとにアホウだなー」 ぽかんとしたはじめの頭をはたいて。 「要は、郵便屋さんより早く、はじめが行けばいいわけだろ」 うんって答える前に、はじめは走り出した。 |
夏雪 すごいわがまま女だって、嫌われるかもしれんけど。 ダメですか? はじめ |