《子のしつけ 押しつけるより 引き出して》

 この原稿はパソコンやワープロで書いています。ところでパソコンとはパーソナルコンピューターの、ワープロはワードプロセッサーの略です。縮み思考の得意な日本人というわけではないのでしょうが、私たちの生活にはたくさんの略語が使われています。私鉄や時短のような漢字の略語はだいたいの意味を推察できますが、カタカナ語は知らないととりつくしまがありません。
 略すだけではなく言葉をはしょってしまう場合があります。「沈黙は金なり」と言われますが、「雄弁は銀なり」という雄弁の有用さを示す後半部分が省かれています。「少年よ大志を抱け」というクラーク博士の言葉には、手本を示そうとする「この老人のように」という言葉が続いています。健康標語として「腹八分に医者要らず」と話しますが、これも年齢に応じた「腹六分に老いを忘れる」という言葉が忘れられています。都合のよい部分だけを抜き取った結果です。
 リサイクル活動とは回収することであるという認識がありますが、実はリサイクル商品を使うことの方が重要です。流れを生むには押し込むより引き出そうとする働きかけが効果的です。
 子どものしつけをする場合にも、知らず知らずに同じようなことをするときがあります。「きちんと片付けなさい」としつけますが収納用具を与えていなかったり、「自分で起きるように」としつけますが目覚まし時計を与えていなかったり、「靴を揃えなさい」としつけますが置き場所を決めていなかったりします。こうするんですよというフォローをおろそかにしがちです。やみくもに何かをさせようと命令するのではなく、できるように環境を整えることが必要です。

(リビング北九州掲載用原稿:97年12月)