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テレビで記者によるインタビューの映像が流されることがあります。お偉い方が記者に答えているぞんざいな語り口を聞かされると,不愉快になります。記者の姿は映し出されないので,まるでわれわれ視聴者がぞんざいに応対されているような錯覚をするためです。カメラは傍観者という第三者なのですが,時には視聴者自身の目として当事者にもなります。記者を分身と感じてしまうのです。
テレビに育てられる子どもは,当初はテレビが自分に語りかけてくれていると思っています。ところがやがて,テレビは誰にも語りかけていないことに気づかされます。テレビに反応しても向こうは無視するからです。アナウンサーが「おはようございます」と言っても,返礼をする視聴者はいないでしょう。無視し返します。テレビでコミュニケーションの型を覚えると,言うことばかりで聞くことをしなくなります。聞かされている立場の自分は見えずに,言うばかりのテレビが見えます。コミュニケーションとは聞き手のいない語り技だと学びます。
しつけがされていない子どもと思うことで最も多いのは,言葉づかいの悪い子どもだそうです。言葉づかいは敬語も含めて,誰に向かって話すのかという点が基本的な作法です。会話の無礼をとがめるときに「誰に向かって」という常套句があることを思い出して下さい。つまり聞き手を意識して言葉を選び情報を相手にきちんと伝えようとする作業が言葉づかいです。
「こんなことも分からないのか」「何度言ったら分かるのか」というもの言いは話し手の立場だけにこだわって,聞き手に全く配慮していないから生じます。言葉を届けるためには,聞き手という宛て名が必要不可欠です。
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