《孫たちと 地域文化に ビックバン》

 子どもが育つ環境は,学校・家庭に地域です。かつて,地域が持っていた温かな人づき合いが子どもの社会性を育んでいました。地域は高齢者と子どもの世界が結び付く場なのです。
 地域は文化の温床です。伝統を担ったお年寄りと未来を秘めた子どもが出会うことで,豊かな文化が育まれます。今に伝わるさまざまな文化は人生50年という貧しい時代に生まれたものです。それなのに,今の豊かな長寿社会にどれほどの文化が芽生えようとしているでしょうか。文明だけが先走りしています。
 社会の効率を追求するために,人の集団が世代毎に分断されています。地域の住民組織も子供会,青年団,婦人会,老人会といった輪切りの状態です。同じ世代なら価値観が同じなので,社会的集団活動は円滑に進みます。しかし今,その活動はマンネリ化しています。その最大の原因は異世代を排除した組織化にあります。新しい文化が異種の出会いから生まれることは歴史的な教訓です。お年寄りと子どもをつなぐことで地域に背骨が通り,文化のマグマが活性化するはずです。
 お年寄りに訪れる介護問題を子どもにいきなり突きつけるのではなく,お年寄りを日常的にいたわることから徐々に慣らしていくステップが大事です。このステップがあって,いたわる方といたわられる方の円滑な関係が生み出されます。子どもはお年寄りの老いた体をいたわっているはずが,いつの間にか自分の方が心をいたわってもらっていることに気がつくでしょう。長寿がめでたいというのは,長寿が新しい世代につながっているからです。生き生きとしたふれあいこそがめでたさの源なのです。当面する課題は,地域に生きることの喜びを織り込んだ生命の背骨を構築することです。

(リビング北九州掲載用原稿:98年6月-3)