《母と子の きづな深める 誕生日》

 永六輔氏は淀川長治氏と同じ誕生日だそうです。あるとき,同じ誕生日である芸能界の仲間数人と集まって食事会をしようと持ちかけたところ,淀川氏は「私の誕生日は母が産んでくれたことに感謝する日だから母と食事をする」ときっぱり断られたそうです。
 誕生日とは親に祝って貰う日となんとなく思いこんでいましたが,そう言われてみると確かにそうだなと考え直しました。誕生日には子どもからも母に感謝のプレゼントを渡すべきなのかもしれません。「誕生日は自分の命への感謝の日」としっかり意識した方が人間的にはより自然なような気がします。
 もちろん母親が自分に感謝しなさいと言うことは少々厚かましくてできません。感謝とは強制されるものではありません。そこで父親の出番です。子どもはお母さんからプレゼントを貰うでしょう。でもそのときにパパが「誕生日おめでとう。あなたが生きていることを楽しいと感じているなら,そのすばらしい命をあなたに授けてくれたお母さんに感謝のしるしをあげようね」と耳打ちしてやりましょう。母親にも子どもにも深い絆を確認する大切な日になります。
 子どもはひとりで大きくなったような顔をしています。親心はそれでもいっこうに構わないものです。しかし少なくとも親がいたから自分が生まれたということだけは,子どもとして自覚しておくべきです。その自覚がしっかりと根付いていないから,「子どもは要らない」というわがままな言動が生まれます。母親に感謝していないから,自分が母親になる幸せを分からないのかもしれません。母親の幸せを演出し,子どもに命のすばらしさを教えるのはパパの役割です。

(リビング北九州掲載用原稿:98年12月-1)