《お隣と 挨拶ひとつ 清々し》

 ここ数ヶ月の間に,近所の駐車場や田んぼに次々と住宅やアパートが建ちはじめて,静かなたたずまいに変化の胎動が聞こえてきました。福岡市に隣接する町ですから不思議ではないのですが,動きは突然にやって来ました。連れ合いともどもふるさとは違っても田舎育ちですので,季節を共にしたカエルの合唱や赤トンボの乱舞が消えていくと思うと一抹の寂しさがあります。
 子どもや若者に社会性の弱さが漂っていますが,社会性の学舎は地域ですから,住み方に何かしら大事なものを欠いていたことになります。端的に言えばご近所で出会う人とあいさつをしたことが無いという暮らし方からは,社会性は芽生えません。顔見知りという関係がお互いを仲間として意識できる入り口です。遠慮と我慢を身につけるかどうかは,それらを日常的に使いこなす地域での暮らし方に関わります。家庭ではわがまま,社会では利害の絡んだ競争といった日常生活からは,人の温もりは見えてきませんし体験することもできません。
 新しい居住地での人間関係が成立するにはいくつかの壁があります。福岡県での調査によると,ご近所であるからというつき合いができるまでには3年の壁があり,さらに地域での信頼関係を結ぶには5年の壁があります。5年しなければお互いに信頼される関係にはなれないということです。一方で子育ての自信は転入時の張り切りから,5年間どんどん減少し続けます。5年を経過して地域で親同士の信頼関係ができたとき,子育ての自信も急激に回復していきます。
 人に信頼されるということは一朝一夕にできるものではありません。まず挨拶一つから始まります。

(リビング北九州掲載用原稿:99年4月-2)