《写真見て 父さんどこに 息子聞き》

 仕事場の机に,ほおづえをついて首を傾げている連れ合いの写真を飾っています。子どもが訪ねてきたときにそれを見つけ,「普通は子どもの写真があるはず」と連れ合いに不満を訴えたそうです。親から気にかけてもらっているという心証は子どもには切実ですから,裏切られたと感じたのかもしれません。
 子どもの育ちは早くて,写真がすぐに時期はずれになってしまいます。それに引き替え大人である連れ合いの写真は,いつまでもズレが生じません。子どもの写真を飾らなかった理由は単純で,いつも今現在の子どもたちを見ていたいという思いからです。
 子どものアルバムは幼い頃の写真でいっぱいです。見る間に成長するので,親が楽しくてシャッターを切るのでしょう。ところが成長がゆっくりになってくると,写真が激減します。成長しているという親の実感が薄れて,つい次の機会にしようと先延ばしにするからでしょう。学校で写された記念写真が主になります。
 家族のアルバムの中で一番厚いのは,連れ合いのものです。子どもと一緒のもの,夫婦のものといった家族もののほかに,友人などとの旅行やレクレーションのものなどであふれています。つきあいの広い証拠です。それ以外にフィルムを現像に出したいとき,残こってしまったフィルムで連れ合いを撮っていることも理由の一つです。
 毎年お正月に家族写真を撮っている家族がいます。子どもの誕生日に写真を撮る人もいます。特別な日を家族の写真の日と決めておけば,アルバムの空白は少なくなるでしょう。そう思いながら未だに実行できていません。いまさら空白を埋めようがないので,あきらめが先に立ってしまいます。若いうちにぜひ実行してほしいと思っています。写真は過去を写せません。

(リビング北九州掲載用原稿:99年9月-1)