《親の夢 ズバリ半額 子は育つ》

 子犬が物陰からこちらをじっとうかがっています。子猫がおっかなびっくりで階段を下りようとしています。子馬が草原で親馬を追いかけて走っていきます。動物の子どもたちが見せてくれるあどけない姿は,見るものの心を和ませてくれます。「かわいい」という感情は母性本能を呼び覚ますのかもしれません。ペットを飼うきっかけも動物の子どもたちのかわいらしさに惹かれるときです。
 生き物は人間より早く育ちます。同時にかわいらしさもあっという間に消えてしまいます。手に負えなくなって捨てるという非道も起こっています。
 人の子どもはなじみの動物に比べればゆっくりと育ちます。それでもかわいい盛りはやはり短い間です。言うことをきかなくなり,手に負えなくなりますが,一方でいつまでも親にへばりついています。子どもにだけ関わっているわけにはいかない,親には親の生活があるという事情が,やがて子どもをお荷物と思わせてしまう一瞬をもたらします。その一瞬に親がキレルことなく我慢できれば,親になれます。人はすんなりと親になるものではありません。親に生まれ変わる陣痛を自らに課せられています。
 思い通りに育たないというあせりやもくろみ違いは,親の側の勝手な思いであって,決して子どもが負うべきものではありません。自分の育ちを思い返しても,親としての思いを丸ごと背負って育った覚えはないでしょう。いくらかは親にうるさく言われたでしょうが,反抗,黙秘や隠蔽,なし崩しといった手練手管を駆使して,結局は自分が育ちたいように育ってきたと思っているはずです。
 子どもの育ちと親の子育てとがずれているということに直面したとき,それを頑固に受け入れなければ親は袋小路に迷い込みます。親自身がちょっとだけ我慢して下さい。親の期待が半分だけ子どもに届いたら,それで十分です。

(リビング北九州掲載用原稿:99年10月-2)