《あなたの目 会話でつなぎ 私の目》

 手近にある紙を丸めて長さ30pで直径2pほどの筒を作ってください。その筒を右手に持って右目でのぞきます。同時に左の手のひらを指を揃えて手前に向けて垂直に立てて開き,筒先の左側面に小指の根元の当たりをくっつけてください。そのままの形で両目を開いて右の筒で遠くをのぞいてみて下さい。どんな風に見えますか? 不思議なことに左の手の平に丸い穴が開いて向こうがのぞけているように見えるはずです。人の目は左右の二つの視野を脳で合成して見ているからです。
 親の目には父の目と母の目があります。共働きをしている親の目には普段の子どもの姿が断片的にしか見えていません。視界をさえぎられている左の目と同じです。もしも夫婦としてのコミュニケーションが十分できていれば,お互いに相手の目を補って遮蔽物を突き抜けた視野を獲得することができます。親の目と先生の目,親の目と地域の親の目,親の目と子どもの友達の目,親の目と祖父母の目,いろんな組み合わせが信頼できるコミュニケーションによって機能していれば,子どもの成長を見逃すことはありません。
 連れあいの目は私と違った世界を見ています。仕事先や地域活動の中で見聞きしてきたことを,二人でいるときに逐一語ってくれます。その日々の繰り返しから,名前だけは知っていますが一度も会ったことのない人がたくさんできました。買い物や用事の際の送り迎えなどで同伴しているときに出会うと,初対面なのによく知っている人に感じてしまうのは不思議なものです。私も連れ合いとして親しく受け入れてもらえます。ときには相手の方が先に私を見知っていることもあって驚かされます。連れ合いのつきあいのお陰で人とのつながりをたくさん楽しませてもらい,2倍の人生をおくっているようで得をした気分です。

(リビング北九州掲載用原稿:99年11月-1)