《見えるもの 信じられない 情報化》

 連れ合いはBS放送で映画を見た後,「見たという感じがする」と言います。民放のテレビを見ているとき,「これはコマーシャルよね」と同意を求めてきます。番組との切れ目もなくCMが不作法に入り込んでくるからです。只で見させていただいているのだからとは思いますが,それにしてもあまりにも遠慮がありません。せめて2秒ほどでも前後で画面を暗くして区切りを入れてもらえれば,興を止めることができます。1秒の値段がいくらするのか知りませんが,視聴者への気配りも少しばかりお願いしたいものです。
 最近楽しみにしているCMがあります。ちっちゃなペンギンたちがヨイショヨイショと縄跳びをしているのが好きですが,連れ合いから「あのペンギンは本物?」とたずねられて困っています。以前横っ飛びする猿が登場したことがありますが,夫婦で訪れたある観光地で偶然に実物を目の前にしてはしゃいだ経験があるので,単純に「ウソー」とは言えないことを学習しているからやっかいです。
 映像技術が進んで実物に仮想の動きをさせるようになってきました。かつて博物学が盛んであった時代も,冒険者達が新世界から見たこともない生き物を紹介し,人々の興味をわかせました。人には目新しいものに関心を示す習性があり,その情報によって自分が生きている世界観を再構築していきます。もし情報に嘘が含まれていることを知らなかったら,生きる上で選択を誤るかもしれません。
 目で見えるものが簡単には信じられないような情報化の進展は要注意です。仮想空間が今後もますます蔓延してくることでしょう。実体験の少ない子どもは虚実の判別をする力が未熟なので,大人は十分な気配りをしてやらなければなりません。本物を見極めるしつけは決して骨董品鑑定の世界だけのものではありません。

(リビング北九州掲載用原稿:00年2月-1)