《マンションか? セカンドライフ 探してる》

 高齢化が進みセカンドライフという人生がクローズアップされています。はじめて聞くと,マンションの名前のようです。第二の人生のために国外に脱出したり,都会から農村に居を移したりする人が紹介されます。すごいなと感心します。
 人は別の人生を歩んでみたいという願望を抱くものです。完全な別人生を求めるなら,現在手にあるものをすっかり捨てなければなりません。そうしなければ新しい挑戦への覚悟は生まれないからです。でも環境を変えることに躊躇するのが普通でしょう。
 満州生まれで引き上げてきて,父の勤めの事情で小学校を4回転校し,大学生の頃から下宿,アパート,借家,持ち家と居を移し,一方で両親が北海道まで点々とした体験は,至る所ふるさとという負け惜しみを育てました。その実幼なじみに結びついたふるさとを失った悔いがどこかに残っています。
 ことさら意識しているわけではありませんが,後半の人生ではじっくりと根を張った暮らしに移行しています。人の縁に誘われ自然に町という世界に関心が生まれ,自分のふるさとづくりが始まったような気がしています。深いところにある思いがいろんな運を引き寄せている不思議を感じています。地縁が薄れている今の時代では逆行していますが,私にとっては最も相応しい生き直しかもしれません。
 ファーストライフでは,人はしなければならないことに力を入れます。セカンドライフでは,しなくてもよいことにかまけてみたいと思っています。そのために趣味のような自分の好きな世界に隠遁するのではなく,周りに向けて自分を開いていく努力が求められます。寒さに震え花に踊り,暑さに砕け涼風に舞う。そんな自然生活の延長上に,人と語り,人と歩み,人と笑い,人と添う温もりを植え付けられたらと夢見ています。幼なじみならぬ老いなじみの世界づくりを秘かに準備中です。

(リビング北九州掲載用原稿:00年3月-4)