《熟年の イスは自分で 手作りを》

 好きなおかずを前にしたとき,先に食べる人と後に残す人に分かれます。きょうだいが多い中で育つと取られないように先に食べるようになるという説があります。一人っ子ではその心配がなく,後でゆっくり食べるそうです。鷹揚さの現れです。
 結婚年齢が遅くなっています。若者の結婚動機であった本能が遊びに堕落したり,希薄化したりという推移を辿っています。熱情ではなくて打算が夫婦の成立要件になっています。打算が成り立つキャリアになるまで先延ばしにされます。すべての条件が満たされた結婚は家具や調度などをすべて揃えてから始まります。お祝いにあげるモノの選択に苦労するのはその現れです。出来合いの家庭ですから二人が節約して家具を買い揃えるといった具体的な目標は持てず,家庭への愛着など生まれませんから二人の歴史を実感できるものはなく,解消もいたってあっさりとしてしまいます。晩婚化はさらに金婚式を迎える幸せな夫婦の数も減らすことでしょう。
 高齢出産で少子化はさらに加速し,甘やかされて育つ子どもが増え,巣立ちも遅れて養育が長引きます。子育てを終えた後にあるはずの熟年を夫婦で楽しむことなどできなくなっています。
 それが嫌で無子化も進んでいます。介護は人が育てた子どもにおんぶしようと虫のいいことを秘かに願っています。今を楽しむのは結構ですが,金さえ貯めておけば老後の人手は心配ないという幻想にうつつを抜かすのはやめてもらわないと傍迷惑です。人という財産は天然資源ではありません。手塩にかけて育て上げた親の宝です。
 人生において美味しいものは一度だけ味わえます。若いときに楽しんでしまうか,熟年まで残しておくかの選択は,それぞれの人生観です。横取りや割り込みは無しです。

(リビング北九州掲載用原稿:00年3月-7)