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【第1章】行動の黄色信号
1.1 悪の行動を制止するためには,どのような方法があるのでしょうか?
人の行動が実現するためには,そうしたいという個人的欲求の発露と,そうせざるを得ないという環境状況からの発露の,それぞれ必要,十分条件の成立に帰せられます。例えば,推理小説における動機と背景事情に相当するものです。この二つがリンクしたときにのみ,行動が発現します。悪の行動を制止しようとする場合も,同じ分析が可能です。
子どもの万引き行為を制止しようとしつける場合に,「お巡りさんに捕まるから」と言ってしつけているのは,他者という環境からの罰による制止です。ところが,このしつけ方は往々にして自制を育てていないという理由で非難されることがあります。確かに捕まらなければという法の網目に隙間が残されたままになるので完全制止にはなりませんが,そのしつけで万引き行為がかなりの程度制止できている以上相応の効果は認めるべきです。その上で次のしつけを続ければいいのです。
車を停止させる合図として黄色信号と赤信号があるように,すべきではないという法による罰を伴った制止は赤信号であり,したくないという自制による制止は黄色信号に対応しています。子どもが万引きに対して自制できる黄色信号を身につけたときに,二段構えの制止信号が完成するのです。
人は毎日平凡に暮らしています。人との関わりの中でしてはいけないことは,法によって禁止されています。しかし,すべての人が法を熟知し常に意識して暮らしているわけではありません。それなのに,どうして法に触れることなく暮らしていけるのでしょうか。それは「人に迷惑をかけたくない」と自制しているからです。つまり,心の黄色信号を守っているから,法という赤信号が有効に機能しているのです。
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