《第3章  子育て心温計の仕様》

 【3.2】子育て心温計の健全発育部
 右側の健全な発育部について順に説明をしていきます。

[(7)モデルと対等になれたか]
 自分が目指すモデルに自分が対等になれたと思ったとき,「充実感」を覚えます。母を目指していた女の子が,やがて夢が実現して赤ちゃんを産んで母親になれたときのあの充実感を思い出してもらえれば分かることでしょう。行動は自信に満ち態度には余裕が感じられます。あの安定感はモデルと対等になれたという自覚が成せることです。会社勤めを始めた新入社員も同じです。学生にはない安定感があります。
 ここで念を押しておかねばなりません。それは自分がモデルと対等になれたとき,次にそのモデルが社会的に他のモデルと対等であるか,適正であるかという判断をし,より完成されたものにしようという願いを保ち続けなければなりません。例えば,子どもがいさえすれば父親であり母親ではありますが,より望ましい父であり母であろうと願うのが自然な気持ちです。このように新しいモデルを次に設定しそれに向かってまた努力をし,繰り返し成長が続いていって人は少しづつ豊かさを身に蓄えてゆきます。つまり〈安定状態〉は小さな段階から大きな段階まで幾層にも重なっているという認識が大事なポイントです。大人であっても器の違いを感じるときがありますが,その器の大きさ,それがその人が持っているモデルの大きさなのです。生きるということはより豊かなモデルへの絶え間ない挑戦の過程と言えるでしょう。
 私たちは協力状態にある社会の中で,他人との連帯感によりお互いに責任を持ち,同時に自己の能力への挑戦をしています。この協力状態は内部に緊張感が漂っています。協力し合う者同士は仲間ですが,協力しない者あるいは責任を取れない者は仲間ではないと見なされます。このことは協力とはしなければならないもので,誰でもが五分五分で公平に負担すべきであるという思いをみんなが持っているからです。会社勤めで言えば,月曜の朝の気分です。一家の生活を支えるという大人のモデルを実現するためにする仕事は,五分の分担を背負わなければ成立しません。そんな中で働き生活を維持してゆければ目標は達せられますので,それなりの充実感はあります。しかし一方でこの緊張感をほぐしてくれる緩和剤として温かさが欲しくなるはずです。温かさや優しさのような情緒的なものを求めます。そこでついネオンの街に足を向けてしまいます。
 この温かさとはいったい何でしょうか。料理の本質とは「あの人に食べて欲しい」と願って食事を用意することであると言われます。その願いを温かさと感じて美味しく食事ができます。奥さんが自分が食べたいと思って作った食事,食べさせなければという義務感だけで作った食事には温かさはないでしょう。
 自分への心遣いを示してくれる相手の気持ちを,私たちは温かさと感じます。そして相手の思いが分かったという感謝が,「ありがとう」という返事の言葉です。