《第3章  子育て心温計の仕様》

 【3.2】子育て心温計の健全発育部
 右側の健全な発育部について順に説明をしていきます。

[(8)情緒的な価値を信じるか]
 いわゆる人情と呼ばれるものを感じ,それを大事なものと思うことができるということです。心の中に湧き上がる抽象的で無形のものの存在を認めることができるということです。例えば微笑みを素晴らしいと思えることです。これができるようになってはじめて人と心の通い合いができますし,人と人とのつながりは「親密感」あふれるものになることができます。抽象的なものには他に,美しさ,楽しさ,喜びなどがあります。ここでは善いことに価値を見いだすことができるという点に注目しましょう。人の役に立つことに歓びを感じる心です。道徳的な意味で善であると頭で考える知的な価値としてではなく,それを遥かに越えた心で感じる価値を持ちたいと願います。この状態が〈奉仕状態〉です。
 今の子どもたちはお化けとか幽霊といったものを信じていません。夜,便所に行くのが恐かったことを思い出しませんか。理屈では説明できない得体の知れないものがいるという経験をしていないと,抽象的なものが信じられなくなります。つまりお化けを恐がる子どもの方が正常な発育をしているのです。
 子どもが奉仕的な行動をしたときに,私たちは褒めます。母親を助けようとお手伝いをすると褒められます。子どもはまた褒めてもらおうと願います。褒められることを快感として感じます。この状態は小学校低学年までです。高学年になりますと,相手の気持ちを思い測ることができるようになり,褒められることを利用しようという下心から出る煽てであるとか,分担能力のない赤ん坊扱いをしているとか,褒めれば何でもすると思っているとか,と受けとめるようになります。情緒的な価値を感じられるような褒め方,心から歓びに満ちた褒め方をして欲しいと願うようになります。褒めるという行為は,良いことをしたことを認める激励でありたいものです。褒められることに快感を感じるのではなく,良いことをしたから快感を覚えるように育てたいと思います。そうすることで子どもの心の中に自前の「幸福感」が湧いてくるものです。
 奉仕状態では自分の善意を信じていますから,他人の善意も信じることができます。自分を四分,他人に六分を与えようと自己抑制をしますが,このときの二分の不足分は相手が歓ぶ顔が見たいという願いが叶うことで十分に補いがついています。