《第3章  子育て心温計の仕様》

 【3.3】子育て心温計の使用上の注意

 これまでに述べてきましたように,子育て心温計は9つの心構えの基準を目盛として,17の行動パターンから構成されています。ここで,この心温計を使用する場合に注意することについて若干の補足をしておきます。
1)悪い状態と言われるものは,無法状態と対立状態であり,どんなことがあってもこの状態に留まることは許されないことです。また良い状態は奉仕状態と愛情状態であり,なるべくこの状態に留まれるようになることが成長の目標です。その他の状態が普通の状態ですが,これは成長途上にあるもので,決してそこに安住すべきではありません。
2)右側の健全発育部は積上げ型です。例えば,自立状態が達成されない限り協力状態は生れません。したがって,この心温計は成長達成度を測るのに使うことができます。
3)この心温計は個人の状態に付随したものですから,人間関係を見るときにはそれなりの考慮が必要です。例えば,親子関係では親は愛の状態にあります。子どもが親に対して甘えるとき,それは他人であったら迷惑なことです。ところが親は子どもに対して愛によって受入れています。子育て心温計は客観的な検温をしなければ意味がありませんので,親としての心情を抜きにして診断することが,親の守るべき条件です。そのために,親自身もこの心温計で検温することが使用前の前提になります。
4)人は非常に多くの行動をすると同時に,一つの行動の動機が全く異なっていることがあります。例えば,姉が妹をかばう場合,自分は姉であると思っているのであれば自立状態ですし,妹を可愛いと思っているのなら愛情状態です。見極めなくてはなりません。
5)相手や状況に応じて種々雑多な行動をします。仲良く遊んでいたと思ったら,いつの間にか喧嘩をして対立状態になっていることもあります。一人の子どもは常に状態を移動していることに注意して下さい。状態という概念は不変という意味を含んではいません。状況によって移り変るから状態と表現するのです。心は動くことを忘れてはなりません。
6)一つの行動がたいへん複雑な構成を持っていることがあるので,行動のパターンを一つに限定してしまうには十分に注意を払うべきです。例えば,ご婦人がお店で洋服を選ぶとき,店員さんに勧められた服を「こんな柄のものは誰も着ていないから」と辞退します。それではこちらはと差出された服を見て「これと同じものを皆が着ているから」とまた断ります。皆と同じであることに安心感を持てる〈群集状態〉と,一方では皆と同じではありたくない,目立ちたいという〈自我状態〉を同時に合わせ持っています。簡単に切離すわけにはいきません。これが女性心理の複雑さの原因です。
7)例えば,大学の卒業式で和服を着飾った女子学生がすれ違うとき,何気ない素振りをしていても,視線だけは相手の姿を上から下まで追っています。自分の着物の方が色柄ともに上品だし生地も上等のようだと思いたいのかも知れません。優越感を持とうとする〈自我状態〉は自分と他人を比較しますが,その場合多くは人間自身よりも付属物を介した判定になり,その尺度は金銭的になりがちです。この場合には〈自我状態〉と〈変動状態〉が結合しています。このように発育不良部は多くの場合,合併症状として現れます。しかし健全な状態とペアになることは決してありません。
8)病気の場合の診断でもそうだと思いますが,心温計による検温だけではなく,「会話による問診」を合わせて判断することが望まれます。大まかな状態診断は心温計で可能ですが,行動の後ろにある心の状態の原因は,上に例示したように多様なものです。その原因は問診でなければ判断することはできません。子どもに対し治療や援助を具体的に施す場合には,対話を欠かさないようにして下さい。病気になったときに慌てないように普段の対話から,子どもの心の状態のカルテを親はきちんと整理しておいて下さい。