《第2章 子育て心温計の誕生》

【2.1】なぜ心温計を必要とするか?

 子育てを考える場合に耳に入ってくる声があります。
  「現在の家庭教育を見ると,情報化社会という激動の時代の中で価値観が多様化し,自分の子どもをどう育てていけば良いのか親が戸惑っている。しっかりとした価値観・家庭教育観を持つことが必要である。」
つまり自分の価値観を持ちなさいということです。しかしそれをどうして手に入れたら良いのかということは教えては頂けません。どうも世のオピニオンリーダーといわれる人たちは問題提起は得意ですが,自分でも解けない問題を私たちに投げかけているようです。
 現在の子育ての特徴は過保護になっているとも指摘されます。保護的であろうとすることは結果的に自立を妨げていることになると注意されてしまいます。また放任も指摘されます。指導すべきことをしていないと。それでは適度の保護をするにはどうしたら良いのかという考え方の提示が全くありません。結論が「適度にしなさい」ということでは振出に戻っているだけのことです。
 学校教育の中では自立性という言葉がよく出てきますが,これも分かっているようで案外漠然としているようです。青少年組織では健全な子どもを育てようと努力をしています。その健全な子どもとはどういう子どもを言うのか,みんなに共通理解されているのでしょうか。明るく元気な子どもが健全な子どもと思われていますが,ではネクラでおとなしい子どもはなぜ健全な子どもではないと思われてしまうのでしょうか。さらに心の豊かなとは。きちんとしたしつけとは。そもそも子育ての目的とは。分からないことばかりです。辞書を引くとこう書いてあるということではなく,私たちの生活実感として確かに捉えられるような生き生きとしたイメージがなければ,家庭での日常の子育てには役に立ちません。
 私が知りたいと思うことは,講演の中にも本の中にもありませんでした。現状を社会的に分析することが多い中で,大部分が具体的・個別的であって全体像を把握していることが少なく,そのために目標が示されないままとにかくこうしなさいといった式の結論しかありませんでした。
 数多くの失望を味わった末,無謀にも自分の手で全体像を描いてみようという大それた望みに挑戦する決心をしました。ところがあまりに大きな問題であるためにすっかり手こずってしまいました。何とかしなければと気持ちだけが先走っているとき,昔中学時代に数学の先生から,複雑な文章問題を解くためには図を描くように教えて頂いたことを思い出しました。
 これが私が子育て心温計を考え始めたきっかけです。私自身の人生観と乏しい体験を材料にして組み上げていきます。私自身の手作りによる心温計です。多くの人が手作りされる場合の参考になることを秘かに願いながら……