《第2章 子育て心温計の誕生》

【2.2】子育て心温計とは?

 はじめに,どのような図を描けばよいのかを決めるために,子どもの状態と親の関わり方に目を向けてみます。
 子どもが元気がなくぐったりとしていますと,親は子どもの額に手を当てます。手を当てるから「手当」と呼び,いちばん素朴な診断の方法です。このときに忘れてはならない大切な条件があります。それは「親の手が平熱でなければならない」ということです。とにかく,このように子どもの健康状態を親自身が体温計になって判断しています。
 私たちはよく「親の顔が見たい」とか,「子は親の鏡」とか言います。親に似た子どもが育つということですが,なぜ子どもは親に似るのでしょうか。父親は自分に似てくれますと自分の子どもと思うことできて内心で安心しますが,行動までが似てきます。環境が同じだからと言ってしまえばそれまでですが,子どもにとっては親も環境の一部として受けとめられています。親は子育てをするとき,子どもが自分と違った状態にある時にしつけという働きかけをします。親自身が持つ基準から子どもがはみ出したときに口を出します。親と同じになるようなしつけを意識しないままにしていることになります。子どもは環境が自分を受け入れてくれるような形に育っていきますので,明るい親の下では明るい子どもが,静かな親の下では静かな子どもが育っていきます。こうして子どもは親に生き写しのように似てきます。
 これが私たち親が意識していない子育ての部分です。そして子育てのほとんどがこのような形で行われています。この親子関係の中で,私たち親の平熱である普通の状態に比べると,健全な子どもでも未熟な分だけ平熱がどうしても高めになっています。例えば30度。そこで親はいきおい子どもが熱があるように勘違いをしてしまって,構いすぎてひ弱に育ててしまいます。これが無意識の過保護と言われるものの正体です。「子どもは未熟な分だけ平熱が高めである」という事実を忘れないようにしなければ判断を誤ります。
 つまり私たち親は普通の子育ての場面でも,親自身が心温計になって育成をしていることになります。ですから子育て心温計とは,親自身の心温ということになります。親が持っている価値基準・人生観を生活の中で自分の子どもに適用し伝達しようとしているのです。したがってこの子育て心温計は,親自身を検温するための心温計であると思って下さい。
 「子は親の後ろ姿を見て育つ」と言われ,子どもは親が言うようにはしませんが,親がするようにします。ですから子どもの目の前ではだらしのない振る舞いをしてはいけないと注意されます。これは親がしている無意識の子育てを「後ろ姿を真似られますよ」という警告の言葉として表現していることになります。「子どもに○○しなさい」ということだけがしつけと思っていては子育てに失敗します。親が笑えば子どもも笑い,親が泣けば子どもも涙します。こんなとき親は子どもに口を出しません。しかし,親が笑っているのに子どもがふさぎ込んでいれば親はどうしたのか気づき心配します。こうして親はどこまでも子どもを自分と同じにしようと働きかけ続けます。子どもを育てる基準は親自身であるということが分かると思います。もちろん親は自分が苦労したから子どもには同じ苦労はさせまいと自分とは違ったように育てようとする事もあるでしょう。しかしそれもまた親を基準にしていることには違いありません。