《第4章 子育て心温計による診断》

【4.2】達 成 度 評 価

 子育て心温計は,人間の発達課題を表示してあります。各段階を100%達成して成長できればよいのですが,実際にはそう簡単にはいきません。達成度が50%であったり,70%であったりします。例えば,私たちは親子の関係では〈愛情状態〉にありますが,見ず知らずの他人に対しては〈共存状態〉に留まっています。また敵と見なせる人に対しては〈対立状態〉にあります。このように対象によって異なる達成度を示すとき,私たちは自分の達成度を
    〈共存状態〉:95%(ほぼいつでも)
    〈愛情状態〉:10%(特定の人に)
などと表すことができます。絶対評価としての成熟度です。具体的な数値をどのように決めるかについては,ここでは触れないことにします。とにかく達成度という視点を持つと,多くの事象がよく理解できるようになります。少なくとも「すべてか零か?」という魔力から抜け出すことができます。
 例えば,野次馬という群集状態にいる人たちについて考えてみます。この群集の一人ひとりは「迷惑を掛けない」という基準を満たしてはいますが,その達成度が仮に80%であったとします。残りの20%は皆がすることであれば構わないと心のどこかで思っている割合です。赤信号皆で渡れば恐くないという心理です。さてこのようにすべての人が「迷惑を掛けない」という基準を80%達成できているとき,群集全体として見た場合の達成度はやはり80%なのでしょうか。おそらくそうは思わないという人が多いでしょう。群集というもののモラルは低下してしまうという例は大の大人でも買春ツアーなどの例がたくさんあります。80%ではあるはずがないと思われます。このことをどう解釈したら良いのでしょうか。
 群集状態にある人たちの人間関係のあり方を思い出してみます。皆と同じでありたいという意識がありますから,お互いの間に結びつきがあり影響し合います。このような場合の人と人との結びつきは「掛け算」になります。例えば100%の仕事をする人と50%の仕事をする人がペアになって共同作業をしますと,1×0.5=0.5:50%の仕事ができます。また100%の仕事をする人と0%つまり全く仕事をしない人とペアになると,仕事は0になります。
 話しを元に戻しますと,群集状態にある人たちがすべて80%の達成度を持っているとき,その集団としての達成度は,
    5人で:0.8の5乗=33%
    10人で:0.8の10乗=11%
    15人で:0.8の15乗=4%
    20人で:0.8の20乗=1%
のようになります。20人の集団になれば,「迷惑を掛けない」という基準の達成度は1%しかなくなります。全く自制が無効化されます。一人ひとりは依然としてしっかりとした人なのですが,集団という関係に入ると全体としてはモラルの低下が起ります。この場合,一人ひとりの達成度は80%から減っているわけではなく,別に人が変ってしまったわけでもないということに注意すべきです。
 集団が個人と全く違ってしまう原因は達成度不足分の「20%」にあります。もしすべての人が100%の自制ができるまでに達成度を持っていれば,何人集ろうと集団としても100%の自制ができます。個人としては80%の達成度でも十分でしょうが,集団になったときに残りの20%が致命的になります。
 同じ集団でも,もし強力なリーダーがいて,構成員がすべてそのリーダーに従っていれば,集団の規模に関係なくリーダーの達成度がその集団の達成度になります。80%の自制を保持することが可能です。烏合の集である群集と統制の取れた集団との違いがはっきりと現れてきます。  いじめの問題が話題になるとき,一人ひとりは良い子なのに集団になるといじめが現れるという指摘がなされます。なぜなのかは以上のことから明らかになります。良い子といっても達成度が80%の子どもなのです。一人だけを見れば合格でしょうが,これがまだ安心できるものではないことに気付かなければなりません。弱い者の権利を侵さない,いじめはしないということを100%の完全さでもって子どもの心に植付けなければなりません。それができない限り,集団でのいじめは無くなりません。
 しかしながら,現実には私たち人間に100%の達成度は不可能なことです。ではどうしたら良いのでしょうか。諦めなければならないのでしょうか。