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【講師のつぶやき?】
今回は,講演会の講師としてのつぶやきを書いておきます。社会教育では,講演会は欠かせないイベントの一形式です。そこで,壇上から見える講演というものを知っておいてくださることも,何かの役に立つのではと考えたからです。
講演会で,講師が最も気を遣うことは何だと思われますか? それは開始早々の1分です。第一印象が講演の勝負です。出だしの1分にどれだけ聞き手の気持ちを掴めるかということが,残りの時間の成否を決めます。有名なタレントさんであれば存在そのものが既に周知されていますから,第一印象の壁はありません。
名も知らない初対面の者から話を聞こうというのは,普通ならよほどの暇人であり,たいていは玄関払いされるのが落ちです。そこで,講演会では必ず最初に講師の紹介がなされます。役職や事績や著書などの紹介がなされますが,要するにこの人は安心できる人だということを身内の方が保証をするのです。あの方が紹介されるのだから,まあ信用してもいいだろうと思っていただき,取りあえずどんな話を聞かせてくれるか,しばらく聞いてみるかということになります。
はじめて会う講師なので,是非聞きたいという気持ちは持ちようがありません。肩書きと講演題目からすると,話の内容は大体見当がつきますので,どうせこれまでにも聞いたことがある講演と同じような話だろうと,大して期待はされていないでしょう。それが当たり前です。名もない講師は,最初からたいへんに分の悪い登場を強いられているのです。
聞き手の方は最初だけは聞いてやってもいいかなという態勢ですから,講師にすればウルトラマンの胸に点滅するピカピカが,登場の瞬間にスイッチが入るようなものです。時間は3分しかないのです。この短い時間にやっぱりとか,なんだという感想しか与えられなかったら,聞き手の方の耳の扉は非情にクローズされてしまいます。後は子守歌代わりにしか聞いていただけません。
講師が次に気を遣うのは,何でしょうか? それは終了の時刻を守ることです。「講演会 終わりを待って いた拍手」という川柳のように,講師から聞かされる言葉の中で最もうれしい言葉は「終わります」という一言です。心の中で「待ってました」と叫ばれていることでしょう。タモリの「笑っていいとも」でゲストの話が終わりになると,観客が「エッー」と絶叫します。あの叫びはつくづくうらやましいですね。もっとも格が違いますけどね?
だめ押しとして,用意されているのが謝辞です。「あなたの話は今後の指針として真摯に受け止めました。ありがとうございました。もう一度拍手を」という内容がほとんどです。会場で席を立とうと待っている聞き手の方は,早く終わって欲しいという気分いっぱいです。もう一度拍手をと促されて,これで終わるという喜びが拍手の大きさになって響きます。
講師を勤めて何がうれしいかというと,頂く薄謝?ではありません。後で届けられるお礼状です。誰にでも通用する紋切り型のものではありません。私という講師にだけ届けられている内容のものです。講演ではたくさんのことを話しています。どれが聞き手に伝わったか,それを具体的に教えてくれる礼状は励みを与えてくれます。少なくともある部分が後で振り返ったときに思い出されるのは,印象に残ったからです。聞き手の気持ちを動かしたという証拠なのです。受け取っていただいたことが講師としてうれしいのです。
講師依頼から当日までは諸連絡が交わされます。ところが,講演を終わるとそこでぷっつり切れてしまうことがほとんどです。主催者が講演の終わりで講師との関わりも終わりにしています。あっさりしているのですが,残心という余韻を味わってみることを勧めます。言い方を変えれば,跡を濁さない後始末です。そんな心配りの行き届いた担当者に出会ったのは,これまでわずかお二人の女性でした。
もちろん,講師は課せられた役割を果たすことが大事なことです。そのためには,何をどのように話して欲しいのか,事前に担当者は講師に伝えておく必要があります。打ち合わせの中で講師が聞き取っていくこともあります。聞き手の性別や経験の有無,当日の前後のイベント関連,全体のテーマなどが最小限の情報でしょう。
できたら,講演のメモ書き程度のレジメを準備しておくことを勧めます。遠慮なく講師に依頼することです。時折,項目だけのレジメが配られることがあります。無いよりマシですが,中途半端です。もちろん,レジメはあるが話は順序不同で進んでしまうというのはいただけません。聞き手が道に迷います。実は,キーワードが提示されているレジメは講演の成否を左右します。どんな話であるかを予め聞き手に伝えることになるからです。講演全体のイメージを誘導することができますから,聞き手も焦点を絞って聞き耳を向けることができますし,なにより安心できます。たかがレジメ一枚ですが,意外に効用があるものと知っておいてください。
(2002年12月09日)
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