*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【代表のジレンマ?】

 会長もしくは代表に就いた者は孤独です。相談する相手はいません。なぜなら,会長と同等の立場で判断を下せる人は自分以外にいないからです。状況判断をするためには,情報が不可欠です。会長の手に入る情報は多岐にわたります。代表以外の立場にある人とは規模や深みにおいて,断然差がついています。立場上自然に入ってくる情報もありますが,それ以上に普段からの情報をつかむ意欲に差があります。
 アンテナの感度を上げているから,ちょっとした情報を聞き漏らさないからです。一見何の意味もないような情報でも,つなぎ合わせていくと密接な関連情報に組み上がっていきます。また,日頃から情報を集めているという点も大事です。必要な情報はそのときに集めていては間に合いません。既に集めてあるという準備の良さが,会長の大事な資質になります。常に明日に目を向けていなければならないのです。

 代表は明日に目を向けるのが務めです。それは必要な務めですが,それだけでは十分ではありません。気をつけないと,明日に向けた目が仇になることがあるからです。簡単に言えば,ついつい先を急ぎすぎてしまうのです。代表がメンバーのペースを見落として,独走をしてしまいます。代表としては,メンバーに足を引っ張られていると感じるかもしれません。
 代表は牽引役を背負います。しかし,組織を牽引する場合には無理矢理引っ張れば接続部分が切れてしまいます。具体的に言えば,組織の幹部とのつながりを強固にしておくように心がけておかなければなりません。それとなく代表の意向を伝えておくのです。幹部の耳に漏らした種がしっかりと根付くためには,少し時間が必要です。今聞いて今すぐ納得しろというのは性急ですし,幹部としてメンバーを掌握する準備が不十分になります。結果的に,組織の牽引はうまくいきません。いわゆる,根回しという手続きは,幹部としての力を発揮してもらう準備期間を与えることです。

 代表としては,組織のためにいいことをしている自信を持っているはずです。しかし,メンバーにその意味を説明して理解してもらっても,メンバーは納得しないことがあります。それほど先のことまで考えていないからです。代表の根回しが十分でないと,幹部も気持ちの上で小さな躊躇があり,「もう少し様子を見たら」と言うはずです。その真意は,先を見極める時間が欲しいということです。そんなときは焦らずに,待つことです。既に種は蒔かれたのですから,芽を出すのを楽しみにしていればいいのです。もっとも,適宜に水やりを忘れてなりませんが。

 何らかの組織は組織の重さがあります。動かすためにはじっくり腰を据えて,ゆっくりと力をかけ続け,動き出すのを待つことです。そのじれったさを一人密かに我慢しなければならないのが代表のもう一つの孤独感です。

(2002年12月14日)