*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【事例発表?】

 県内を5ブロックに分けて実施されている研修会の一つで,実行委員を務めています。数市町単位の地区が4つあり,その一つの代表委員をしていると自動的に実行委員になります。4地区で会場を持ち回りとしてブロック研修会を毎年秋に開催しています。もちろん,各地区が4分科会の一つを担当し,事例発表をします。
 冠は「○○ブロック社会教育委員研修会」です。規模が大きくなった県単位,九州,全国の研修会は「○○社会教育研究大会」と銘打たれています。この違いを意識しておきたいのです。大きな研究大会は「社会教育」,ブロック以下の研修会では「社会教育委員」となっているのです。この区別が曖昧になっているような気がします。 社会教育研究大会では社会教育委員の立場が消えているのです。たびたび述べてきましたが,行事運営の研修に流れて,参加している大方の委員は蚊帳の外に置かれているもどかしさを感じています。委員として何をすればいいのかという質問が出ることからも伺うことができます。
 実行委員会でも,社会教育委員研修会であるからには委員の研修にしたいという意向が噴出しました。活動の事例を研修しても,社会教育委員として関与する道筋がないという思いは共通しているからです。研修を受ける立場としてはそうなのですが,事例を発表する立場になると,状況はかなり深刻になります。
 事例発表。その言葉が重くのしかかってきます。事例とは,「行事の実践例」と思いこまれているからです。社会教育活動の具体的な事例となると,誰しも何らかの生涯学習関連の行事を実践したということに思い至ります。発表をするには,話の種が要りようですが,委員には手持ちがないので,関係の活動を借用するしかありません。たとえそれが発表者自身の手になるものであっても,それは他の役職に基づくものであり,社会教育委員としてのものではないのです。
 原則的に,社会教育委員は直接に活動に関わることはできません。そのことを明確に意識しないままに事例発表に取り組もうとするから,ややこしくなります。通常の観点は,発表された事例に委員としてどのように直接的な関わりを持ったかという課題を設定します。繰り返しますが,社会教育委員にはそのような関わりは期待されてはいないのです。社会「活動」委員ではないのです。「教育」という肩書きがあることを失念してはいけないのです。
 少し整理をしておきましょう。具体的な生涯学習活動を実践している団体を「社会教育関係団体」と呼称します。団体活動自体が社会教育活動そのものではなく,社会教育に「関係」している活動です。活動は教育の具体的な現場ではありますが,教育には計画や評価やプログラムといった総合的な展開を図る役割が課せられています。たとえば,美味しい食事を作るのは厨房という現場ですが,その栄養分や摂取量を最適化する献立の他に,運動機能や生活環境をすべて総合的に管理する課題を引き受ける仕事があります。そのような総合的研究をすることが社会教育委員に求められているのです。
 事例発表に話を戻しましょう。一つの具体的な事例的活動があるとして,その活動の紹介に終始するから,委員としての研修に深まりません。まちづくりという大きな舞台の中で,その事例がどの位置にあるか,他の活動とどうつながっているか,どのように進展しようとねらっているのか,「つながり」を明らかにしていくことが大事なのです。なぜなら,そのような考察や判断ができるのは社会教育委員しかいない,それこそが社会教育委員の役割だからです。社会教育法によって社会教育委員に社会教育計画書を策定する役割が課せられている意味はそこにあるのです。
 社会教育委員である心構えとして,社会教育計画書を背負っていると意識しておけば,どのような場合でも視点を外すことはないはずです。事例発表については,今秋に開催される地区の研修会で仲間の委員さんが発表することになっていますので,発表の全体を考察して,誌上報告をしたいと思っています。
(2003年08月30日)