*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【PTA総会での祝辞2?】

 第53号の「PTA総会での祝辞」から1年が経過しました。今年も来賓祝辞を依頼されました。昨年の総会の折に,他の会長にもお願いをするように現会長には申しておきましたが,どなたも引き受けてくださらなかったそうです。結果はともかく,お声を掛けるということに意味があるので,よしとしましょう。
 どんなお話をするか,考えておかなければなりません。今の現役の親に伝えておきたいことはたくさんあります。ただ,講演会ではなく,PTA総会の来賓という立場から話の色づけが決まってきます。PTA活動への期待といった内容が相応しいかなと思います。


 PTA総会にお招きを頂きありがとうございます。今年は創立30周年の節目の総会であり,おめでとうございます。会長時代に創立10周年の準備に苦労したことを思い出します。20年も前のことになります。さて,そんなPTAの先輩がタイムスリップして,皆様に一つのお話をさせていただきます。
 昔々,あるところに,おじいさんとおばあさんが住んでいました。昔話は,こういう出だしで始まります。子どもに,昔っていつ頃? ある所ってどこ? と問われると困ります。問うのではなく,なんとなく子ども自身が自分のイメージを作れるように,わざとぼかしてあります。自分で考えなさいということです。お話の面白さは,自分のイメージを創作できる余地があるから生まれます。
 つぎは,昔話にはお父さんとお母さんは登場しません。おじいちゃんとおばあちゃんです。父母は忙しいので,祖父母が子どもの世話をし,話を聞かせていたからです。生きていく知恵を話を通してしつけていました。核家族化で失われたそのシステムに代わるものを創り出すことがPTAの大事な役割でしょう。
 昔話の中に桃太郎の話があります。鬼退治をして奪われた財宝を取り返す武勇談というイメージをお持ちでしょう。ところで,財宝を奪われた皆に返さずに,桃太郎が独り占めにしたのは如何なものかと思いますが,それはさておき,桃太郎のえらいところはどこでしょう。正義は勝つという道徳的な行為でしょうか? それは目的ですが,桃太郎のえらいところはチームを結成した力です。犬と猿とキジ,犬は勇気,猿は知恵,雉は情報のエキスパートです。ここで,犬と猿は犬猿の仲なのに,協力しています。この難問を桃太郎はどうやって切り抜けたのでしょう。重要なキーワードは吉備団子です。鬼退治に行く途中,最初に出会った犬と吉備団子契約を交わします。次に出会った猿とも吉備団子契約をします。犬も猿も桃太郎とつながっていて,桃太郎ファミリーになりました。個別にきちんと結びつきをするということです。
 大人は子どもたちという捉え方をします。でも子どもたちは,僕たちの親,私たちの先生とは思いません。ボクのお母さん,私の先生という1対1のつながりを期待します。その上で同じ親につながるきょうだい,同じ先生につながる級友という意識が生まれてきます。仕事から家に帰ってきたとき,「お母さんお帰りなさい」と子どもたちが出迎えてくれます。「ただいま」と答えますが,できれば,「ヒロシちゃんただいま,かずみちゃんただいま」と一人一人にきちんと答えてやってください。それがファミリーを作る基本だということを,桃太郎の話は子どもたちに伝えてきたのです。

 PTAは子どものために事業をする集団ではありません。大人が育成力の向上を目指して学習する集団です。子育てを学ぶという目的を見失っていけません。どうぞ,この一年の活動の中で,皆さんがしっかりと学ばれることを願って,祝辞とさせて頂きます。おめでとうございます。



 型どおりの祝辞が好きではないので,お話をするスタイルにこだわっています。いつでもどこでも,何か挨拶めいたことをする羽目になったときは,このスタイルを通しています。挨拶とは普通には大して期待されていないものですから,少々風変わりでも構わないだろうとお許しを願っています。
 子どもたちに考える力が身に付いていない遠因は,どうも親が考えることを日頃から見せていないことにあるのではないかと疑っています。溢れる情報の流れに浮かんでいるだけで,情報を使って自ら考えることが面倒になっているようです。考えるPTAであってほしいと常々思っています。自分で考える,それが生きる力の基本的な素養だと考えているからです。

(2005年04月23日)