*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【社会教育委員の役割?】


 社会教育委員の役割は何でしょうという質問に答える機会を与えられました。一般的に何らかの役職はその役割を規定する決まりがあります。社会教育委員は「社会教育法」に拠って活動することになります。そこで,その条文を読み解いて紹介することにしました。先ず,最低限必要な次の3つの条文を示しておきます。


第13条:地方公共団体が社会教育関係団体に対し補助金を交付しようとする場合
     には,あらかじめ教育委員会が社会教育委員の会議の意見を聴いて行わ
     なければならない


第15条:都道府県及び市町村に社会教育委員を置くことができる
   2.社会教育委員は,学校教育及び社会教育の関係者,家庭教育の向上に資する
     活動を行う者並びに学識経験のある者の中から,教育委員会が委嘱する。

第17条:社会教育に関して教育長を経て教育委員会に助言するため次の職務を行う。
     1. 社会教育に関する諸計画立案すること
     2. 定時または臨時に会議を開き,教育委員会の諮問に応じ,これに対して,
       意見を述べること
     3. 前二号の職務を行うために必要な研究調査を行うこと
   2.社会教育委員は,教育委員会の会議に出席して社会教育に関し意見を述べる
     ことができる
   3.市町村の社会教育委員は,当該市町村の教育委員会から委嘱を受けた青少年
     教育に関する特定の事項について,社会教育関係団体,社会教育指導者その
     他関係者に対し,助言と指導を与えることができる


 (1) 社会教育委員の存在は必要か?
 第15条によると,「社会教育委員は置くことができる」となっています。言い換えれば置かなくてもいいということになります。いわゆる任意設置です。すねて見れば「居てもいいよ」というニュアンスです。存在基盤が弱いと思われるかもしれません。一応,国が法律で置いてもいいよといっているのですから,置いた方がいいと考えるべきです。
 ところで,第15条を見ると,「社会教育関係団体に対し補助金を交付する場合,社会教育委員の会議の意見を聴いて行わなければならない」となっています。つまり,教育委員会は社会教育委員の会議を通さなければ補助金が出せないということです。補助金を出す上で,社会教育委員は必置になります。このことを委員の立場から見れば,教育委員会の補助金の交付について「意見を聴かせる」ことが最も大事な役割になるということです。
 現状では,この役割がほとんど機能していません。委員が知らないところで補助金の交付がなされています。自らの存在を確かなものにすべき役割をしっかりと果たすように,法律を守るということに向けて,委員各位の自覚が望まれます。

 (2) 社会教育委員の拠るべきものは何か?
 一般に,○○委員は○○委員会のメンバーであるというのが常識でしょう。だとするなら,社会教育委員は社会教育委員会のメンバーであるということになります。ところが,この社会教育委員会という組織体は社会教育法の中では存在していません。それは,社会教育委員の独任制という了解があるからです。単独で委員になっているということです。誰とも相談することなく勝手に活動していいのです。
 ところで,前項で述べた補助金の交付に対する第15条に「社会教育委員の会議の意見」と規定されています。委員の会議が意見を述べる拠り所になっているのです。さらに,第17条第1項に「定時又は臨時に会議を開き」となっているように,会議を開くことが社会教育委員の大切な役割になっています。
 この会議の開催については,市町村の条例によって決まっています。そこでは,まず会議組織の会長を選ぶことが決められ,次に「会議は会長が招集する」となっているはずです。招集権は会長が握っているということはとても大事なことです。多くの市町村で社会教育委員の会議が年間数回に止まっています。せめて月に1回は開催しているようにしなければ,委員は具体的な活動ができなくなります。働きたくても働く場所がなければどうしようもないのです。
 会議の開催に当たってはいくつかの前提がありますが,ここでは二つだけ考えておきます。一つは,会議は協議題が無ければ開けないという思いこみです。普通にはそうかもしれませんが,社会教育委員の会議は違います。予め用意された協議題によるのではなく,会議を開いて自由に意見の交換をすることが第1の目的になります。委員はいろんな気付きをします。それをみんなで深め合い共通理解を進めることで,課題解決に向けた指針ができます。その自由な協議の結果が「社会教育計画」に反映されていくように,会長は会議の運営を進めるべきです。
 もう一つの前提は,会議を開くという公的な活動をすることになると行政側は予算措置が必要になってきます。社会教育委員は非常勤の特別職扱いをされているので,費用弁償をしなければなりません。その予算は年度当初に計上しておかなければなりません。予算を増やすということが困難な状況では,実績を優先させるしかありません。実のところ委員の費用弁償程度のことは全体の予算編成からはどうにでもなるはずです。要は行政が認めさえすればクリアできるでしょう。

 (3) 社会教育委員の仕事は何か?
 仕事については第17条に列記されています。まず第1項では,「諸計画を立案すること」,「諮問に応じ,意見を述べること」,「研究調査を行うこと」となっています。「〜すること」という語尾に注意しなければなりません。この3つのことは「しなければならないこと」なのです。計画を立案する,意見を述べる,そのことのためには会議を開かなければ始まらないと理解してください。それぞれの仕事をどうこなすかは,実状に合わせて考えることになり,その考案が委員の仕事です。
 諮問がなければ意見を言えない,だから会議も諮問があったときに開けばいいと考えるのではなく,定期的に会議を開いているから諮問が受けられると考えるべきです。諮問を招き寄せる体制を整えておかなければ事は成りません。諮問のために臨時に会議を開くとなれば,前項で述べた費用弁償の問題が発生します。定期会議をしていれば,その心配は無くなり,教育委員会も諮問しやすくなります。
 第17条の第2,3項では,「教育委員会に意見を述べることができる」,「青少年教育について指導と助言を与えることができる」となっています。「〜することができる」となっていることに留意しておきます。必要な場合に適当な資格のある委員が「できる」ということです。実際的には,この役割を個別に委員が果たすことは難しいかもしれません。やり方に工夫をする必要があります。
 例えば,教育委員会と社会教育委員の会が合同の会議を開くということが可能です。お互いに協議題を持ち寄り,意見を交わすという場を設定すれば,意見を述べる機会が得られます。また,社会教育関係団体を網羅する連絡会議を招集開催すれば,その協議題の設定によって,青少年教育に関する特定の事項についてアドバイスをする機会が出てきます。会議を開けば,その運営の工夫によって委員の働き場所が得られるのです。いろいろと工夫をすることを試みるべきです。


 以上,社会教育法を読み解き,委員の役割の概要を整理してみました。ここで気がつかれたと思いますが,社会教育委員の仕事は主として「意見を述べる」ことにあるということです。最近は実践する社会教育委員という考え方が台頭してきました。言うばかりでは社会は動かないという焦り,して見せなければ人は動かないという判断があるからです。しかし,社会活動の実践指導に対しては,それなりの資質が必要となります。例えば,社会教育主事資格のようなものです。ただ委員であるということではそこまでの資質認定はされていないというのが実状です。別の言い方をすれば,委員という立場で実践活動を主導することは,責任を伴えないことになります。あくまでも,脇役であるということを弁えておくことが賢明です。
 ただ,最近はボランティアによる社会活動が定着してきました。そこには誰でも自由に社会活動ができるという了解がありますが,その際には,委員は委員という肩書きを脱いで個人として活動をしているということになります。その辺りのけじめをきちんと意識しておくべきでしょう。

(2006年07月25日)