【いじめとは(その1)?】
いじめによる自殺が相次ぎ,子どもの置かれている状況が望ましいものではないということを突きつけられて,関係者は対応の遅れを反省しています。とはいえ,事例としては今年になって新になったというものでもなく,かなり以前から知られていたようです。
今年度の教育委員と社会教育委員の合同会議において,教育委員会から「いじめの問題」が協議題の一つに取り上げられました。いささか予習をしておかなければ,協議を進めることにならないので,手元の資料等を簡単にまとめておくことにしました。
先ずは,「三省堂新明解国語辞典」によると
いじめる=「弱い立場にある者にわざと苦痛を与えて快感を味わう。
限度を超えてひどい扱いをする」。
嫌がらせ=「人が親だと思うことを,わざとしたり,言ったりすること」。
とあります。
公的な「いじめの定義」を見ると,
※いじめの定義
○ダン・オルウェーブ(ノルウェー)
(1)意図的な攻撃
(2)対等でない力関係
(3)攻撃が痛みや苦しみをもたらすこと
いじめとは,基本的に,身体的かつ精神的な痛みを引き起こすためにより力の強い者またはグループが意図的に被害者を繰り返し脅かす行為である。
○文部省初等中等局中学校課
「生活指導上の諸問題の現状と文部省の施策について」
(H5.12:統計上の規準として)
自分より弱いものに対して一方的に,身体的,心理的な攻撃を継続的に加え,相手が深刻な苦痛を感じているものであって,学校としてその事実(問題児童生徒,いじめの内容等)を確認したもの。なお,起こった場所は学校の内外を問わないものとする。
○警察庁(H6警察白書)
単独または複数で,単数あるいは複数の特定人に対して,身体に対する物理的攻撃または言動による脅かし,嫌がらせ,仲間はずれ,無視等の心理的圧迫を反復継続して行うことにより,苦痛を与えること(ただし,番長グループや暴走族同士による対立抗争事案を除く)。
○三省堂解説教育六法
いじめは,子ども同士の自我や主張がぶつかりあうけんかや一過性のいたずらとは違う。力の上で優位に立つ子どもたちが,継続的に精神的・肉体的苦痛を与えるものである。
○講談社BB:「心の謎を解く150のキーワード」小林司
いじめとは,弱い者を,正当な理由もないのに絶えず心理的,肉体的に攻撃を加えて,いやがらせることである。
小学生の男児が女児をいじめるのを見ていると,実は好きな女児をいじめることが多い。つまり,「ぼくはあなたを好きなのです」という愛情表現が,ねじ曲げられた形をとっているのである。この例からもわかるように,いじめも複雑な心理機制を含んでおり,単純に撲滅すればいいという問題ではない。加害者が家庭的に恵まれず,意地悪な性格に育ってしまった場合などには,いじめているという意識をもたずに,嫌がらせをしていることもある。さらに,陰険な場合には,教師や他の生徒の目を盗んでいじめるので,その実態をとらえにくいことが多い。からかっている場合や,仕返しのこともあろう。
いじめの加害者に認められる背景については,
※いじめる原因としては,(前出小林司)
一般的には学校への不適応が基礎にあり,仲間ほしさ,連帯感の確認,排斥感,対抗意識,欲求不満の解消,愛情を求める,注意を引きたい,優越感を味わいたい,いじめる快感などが考えられる。
したがって,対策としては,これらに配慮する必要がある。成績のふるわない子には,スポーツで優越感を味わわせるとか,上手な仲間づくりの指導などが欠かせない。いじめをおもしろがって見ている観衆や,自分がいじめられることを恐れて,見て見ぬふりをしている傍観者は,間接的な加害者になってしまう。
※加害家庭の子育て
(キッドスケープ・トレーニング・ガイド:(株)アドバンテージサーバー)
○放任・厳罰:自分が注目されるべきと証明するため,いじめに。
○攻撃的家庭:家族がモデルになり,いじめを肯定される。
○何でもありの家庭:自己中心の世界観
一方で,いじめの被害者については,
※いじめられやすい子どもの特徴(前出小林司)
弱くて抵抗しない泣き虫,引っ込み思案,学習や運動が劣っている,人づきあいや会話が下手,友人が少ない,孤立している,反感をそそる(生意気,悪口を言う,わがまま,嫉妬させるなど),いじめられたときに過剰な反応を示す(キャーと大声を挙げるなど)。また,身体的特徴がある(太っている、ハンディキャップなど)子どもや,知恵遅れや吃音があるときもいじめられやすい。ハンディを持つ子への理解を深める教育も必要である。それらの点を改善していくことも予防につながる。
いじめを抑える手立てについては,
※いじめ対策として,(三省堂解説教育六法)
文部科学省は緊急避難としての欠席,転校要件の緩和,加害者の学級外での特別指導などを打ち出し,またスクールカウンセラーの配置などをしている。
いじめは,いじめられている子どもの人間の尊厳と権利を侵害する行為である。それゆえ,いじめられている側にも問題があるという対応は基本的に誤っている。同時に,いじめている子ども(複数)や,そのいじめをはやしたてている子ども(多数),そしていじめを傍観している子ども(さらに多数)の権利意識や認識の問題でもある。教師・学校(設置者)がいじめを人権問題としてとらえて対応する姿勢に欠けている場合も多いが,教師・学校(設置者)の側は,子どもの人権問題という認識とともに,子どもが安全に学習できるようにする安全配慮義務があることを忘れてはならない。
※いじめの予防は,(前出小林司)
大人をも含めた人間関係にかかわる問題であることを意識して,真剣に取り組み,「いじめは許されない行為である」と断言して,具体的な行動を継続的にとるべきだ。いじめは人権侵害であり,人間の尊厳を否定する行為であるから,断固としてやめさせなければならない。また,「自分は愛されている,大切にされている」と感じるときに,人は初めて他人を愛したり大切にすることができるのだということを知っておかねばならない。
人権思想の理解,ありのままの自分を受け入れる姿勢がないと,問題は根本的に解決されないし,被害者が加害者に転じることもある。
いじめがもたらす影響については,(前出ガイド)
※いじめの直接的影響
○被害者
・自信をなくす,自尊心がなくなる,内向的,神経質になる
・集中力がなくなる,成績が悪くなり始める
・学校をさぼったり登校拒否になったり自殺を図ったりする
○加害者
・攻撃暴力が手に入れる効果的なやり方と学ぶ
・暴力残酷なことを「どうってことない」と思う
・集団に入っていないことを恐れるようになる
※いじめの長期的影響
○被害者
・うつ状態,心身症,自尊心の低さ,広場恐怖症,人見知り
・不安感/パニック発作,罪悪感・恥辱感,度外れた臆病さ
・社会的孤立
○加害者
・制御できない攻撃的行動,犯罪による有罪判決
・アルコール乱用,子育て上の問題(虐待)
・雇用上の問題,長期的関係を維持できない(婚姻破綻)
・精神障害
いじめの被害者と加害者はいずれも,長い人生を考えるとき,明るい道を歩けなくなるようです。育ちの途中にちょっとしたはみだしをしたということで軽く見ておくことはできません。逸脱は早めに正せば,元の道に戻ることができます。無理にでも戻さなければ,手遅れになります。
最近の事例は,いじめによる自殺という急展開が現れているという意味で,事態の深刻さが顕著です。子どもたちの生きる幅の狭さというか余裕の無さが短絡的行動を誘発しています。また,いじめがエスカレートしないように途中でやめさせる集団意志を持った子どもたちがいなくなっています。いじめの矛先が自分に向かうことを恐れることだけしか意識できないようです。実はほんのちょっとの制止で止めることができるはずです。
いろんなことが欠けている現在の子ども集団を考えると,いじめを沈静化する手立ては,小手先のものでは済まないと思われます。専門的な分析が欲しいのですが,そこら辺には転がっていません。いずれ自分で考えてみることにします。
(2006年12月08日)