*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【議長裁決権の運用?】

 社会的な活動には会議が不可欠です。会議では採決をすることになり,そのための協議では議長がいなければなりません。通常,議長は採決には加わりませんが,可否同数という局面に至った場合,議長が決するという確定のための裁決の筋道が設けられています。そのようなとき,議長はどちらかに荷担することを迫られて窮することになります。
 議長は案件の内容に対する賛否をしなければならないのか,それとも,何らかの指針に基づいた裁決の仕方があるのか,議長としての役割に関する疑問がありましたが,町議会の議長から一つの情報を提供していただきました。議会における議長の指針ですが,参考になりますので,抜粋して掲載しておきます。


 「現状維持の原則」
 すべて人間社会は,急激な変化が起こると,いろいろ支障が起き,共同生活がうまくいかないことがある。そこで,議会において過半数議決を要する場合,賛成,反対が同数で議長が裁決するときは,その条例改正や予算の補正や請願の採択そして人事案件の同意(現状変更にあたる)に積極的に賛成する者がまだ半数を超えていないのであるから,しばらく議決を差しひかえる(現状維持にあたる)ことが望ましいとするものである。
 しかし,今日のように国際化・情報化等が急激に進展し,我が国の社会・経済全体が構造的な変革を迫られている中にあっては,必ずしも現状を変えないことが望ましいとは言えない面が多く,現実には,この原則が必ずしも強い拘束力をもって運用されてはいないが,議長としては,心得ておくべき原則の一つである。

 「公正指導の原則」
 議会の議長のあり方に関する原則である。議員の中から選挙される議会の議長は,特定のグループ等から推されて競争することが多いが,選挙が終わって議長の当選が確定したら議会全体の議長である。したがって,議長の立場は,基本的には,あくまでも中立的なものでなければならない。そして,議長は,その職務遂行に当たっては,常に冷静に,しかも公平に,関係法規のほか,会議原則に則って議会の運営に万全を期さなければならない。
 ことに,会議においては,不偏不党,あくまでも公正に議事を指導すべきであるという原則である。
 前述の現状維持の原則は,この公正指導の原則と表裏一体の関係にあるものといえる。すなわち,可否同数の場合の議長の裁決権の行使に当たっては,その案件の成立による現状打破の責任を公正中立であるべき議長に負わせてはならないという考え方から出たものである。


 この原則によると,議長には中立が求められ,裁決に当たっていずれかの意見に肩入れするのは適切ではないということになります。つまり,物事が動くためにはあくまでも多数決という条件が必須であるということです。議長が賛否にかかわろうとすると,いわゆる声なき声を背景にするしかないようです。議事を見守る人から議事の運営を託されているという信頼に応えるためです。ただし,その動きはかなり特別なことと考えておいた方がよいようです。議長は多数決を実現するための裁決をするというのが原則のようです。多数になるまで状況の成熟を促すために猶予期間を確保するということです。
 ところで,組織体では,会長職が会議の議長を務めるということが通例です。会長は活動を指揮する執行部であり,提案を推進する立場にあります。一方で,提案を審議する会議では議長として中立の立場を保つことが求められるのなら不都合なことになります。普通には,会長が議長になる会議は,運営のための会議であり,中立性への要請は軽減されるはずです。会長職が強い会議の運営をすればワンマン,議長らしい運営をすれば衆知を集める民主的指導者,そのような違いが現れてくるのでしょう。
 どのようなタイプの会議であるかを勘案して,議長としての裁決の行使を見極めることが大事になります。

(2008年10月07日)