*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【社会教育は教育?】

 最近特に感じていることは,社会教育という言葉の核心が何であるかを明確に意識したいということです。全国及びブロックの社会教育研究大会の中で探してみましたが,今ひとつ,間接的な議論に終始していてピントが合っていないという感想をもってしまいます。そう思わせるのは何でしょう。
 一つの切り口は,社会教育は教育活動であると考えてみることです。紹介されている事例は「社会活動」であり,「社会教育活動」にはなっていないのでは感じているからです。
 社会教育法の第2条,社会教育の定義では,「社会教育とは,主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動をいう(一部省略)」とあります。ともすれば,社会教育委員は人をつなぐとか,コーディネーターであるとかいわれますが,そのような狭い意味での実務者ではなく,教育活動を進めることが主務であると考えることができます。教育専門者であるということではなく,教育活動の設計・推進役ということです。そのように考えると,「生涯学習」に対する支援という任務も自ずから明確に自覚できるようになります。人をつなぐといわれるのは,組織的な教育をする条件整備であり,実践活動のための組織作りではないということを明確に意識しておくべきです。
 社会教育の定義を押さえておかなければ,社会教育法の理解,それに続く社会教育委員の役割の認識も的外れになるのではと危惧します。自分が何をしているのか,その確信が得られなければ,役目を全うすることができません。自分なりに概念の整理をしておく必要性を痛感しています。
 仮に,社会教育委員の役割を「教育活動推進役」と捉えると,社会教育計画書は「学習カリキュラム」や「指導案」に当たり,調査研究は「教材研究」及び「学力評価」などに相当します。すなわち,住民各人に求められる学習目標を設定し,それぞれに相応しい学習方法を選択し,学習機会を準備して,学習の進展を見届け評価し,段階的なレベルアップを保障する教育システムを構築・維持することが,委員としての具体的な役割となります。
 法を論拠して行われる議論や考察においては,教育というベースからそれほど離れることはないようですが,現場に近い議論や考察等では,教育という色合いが薄れて,社会的活動実践にまつわる具体的な方策に気を取られています。研究大会における事例研究にしても,事業活動の紹介が主となり,その活動の意味と評価は前文と後文として定型的な内容にまとめられています。事業を行うことが可能なのは主として組織体であることから,社会教育関係団体活動の研修には相応しいものでしょうが,社会教育委員の研修には今ひとつ物足りないということになります。
 委員が各種団体・組織が行っている事業活動についてなすべきことは,どのような方法で現状認識を行い,どのように判断をして,どのように活動を選び,他の活動との連携が総合的にどのような目標に迫るのか,その後の展開にどのように生かされることが期待されるのか,という一連の流れを構築してみせることです。まちや地域といった社会を動かすという大きな枠組みの中で,諸活動を位置づける設計図を描き,提示し,導くことが求められています。社会教育委員は市町村全体の社会教育を推進するという立場なのです。
 教育という視点から見たとき,忘れてはならないことがあります。教育は将来への布石であるということです。常に動いている世情を見極め,明日のために今日しておかなければならないことを判断したり,昨日までの課題を明日に受け渡してしまわないように今日解決しておくことを定めたり,時間経過の中での考察が求められています。社会教育委員は常に明日を見ていなければなりません。だからこそ,計画立案者に位置づけられているのです。
 社会教育委員に対して,具体的に実践活動することを求める声があります。しかし,その法的な根拠はありません。委員としてではなく,個人ボランティアとしての活動をするしかありません。社会活動を行う人材としての期待は,委員には的外れです。そのことが薄々分かっているから,地域活動推進員といった新たな役柄が創出されています。また,各種団体組織に属する人を委員とすることで,あるときは社会教育委員,あるときは組織の役員という二足のわらじを履かせて,活動する委員に仕立て上げようとしています。その矛盾の背景には,社会教育と社会活動の混同があるのです。
 生涯学習についても,似た状況があります。「生涯学習によるまちづくり」というスローガンが聞かれます。まちづくりという言葉に重心を置けば,生涯学習を担当する部局は首長部局が相応しいということになります。実際,そのような組織構成を採用するケースもあります。一方で,生涯学習に重点を置けば,教育と対をなすので,その推進は教育委員会の所管となります。確かに生涯学習の成果が社会活動に進展したとき,まちづくりに寄与することは期待されて当然ではあるのですが,社会活動という実践を仲介としていることがもっと意識されるべきです。教育と実践活動は連結するものではあるのですが,考察をする場合にはその性質が異なるために区別しておくことが大切です。

(2008年11月29日)