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1997年1-3月の感想

199619970406


スタバトマーテル(近藤史恵)
塩の像(?・ルゴーネス)
アムリタ(吉本ばなな)
キッチン(吉本ばなな)
ファザー・ファッカー(内田春菊)
バイバイ、エンジェル(笠井潔)
サマー・アポカリプス(笠井潔)
薔薇の女(笠井潔)
長い日曜日(S・ジャプリゾ)
「大漢和辞典」を読む(紀田順一郎編)
十二の遍歴の物語(G・ガルシア=マルケス)
辞書はジョイスフル(柳瀬尚紀)


近藤史恵『スタバトマーテル』中央公論社 1996

*内容紹介
声楽を志しながら、重要なコンクールでの失敗でその道が閉ざされ、大学の副手に甘んじていた足立りり子は、新進の版画家、瀧本大地と出会い恋に落ちる。理想の恋人と見えた瀧本だったが、ある日大地のアトリエを訪れたりり子が垣間見たのは、盲目の母親との異常な関係を思わせる姿だった。そして、りり子の身辺に奇妙なことが起こりはじめる。

*感想
一気に読めたけど、あまり後味のいい話ではなかった。りり子の「大切な時に声が出ない」現象は、結局話の筋とは関係なかったし。今まで読んだ3作の中では『ねむりねずみ』が一番好き。あの探偵役の2人の登場を期待しているんだけど。

97/2/9


レオポルド・ルゴーネス『塩の像』国書刊行会 1989

アルゼンチン作家の短編集。聖書の中の話をもとにしているものがいくつか。解釈が難しい。「イスール」は気に入った。「イスール」という猿に人間の言葉を教え込もうとした男の、その狂気ぶりと最後の場面での宙ぶらりんな感じがいい(男の聞いたのは本当? それとも狂気の中?)

97/2/9


吉本ばなな『アムリタ』角川文庫 1997

備考:1994年福武書店(現ベネッセ)より発売されたものに「何も変わらない」(書き下ろし)を加えたもの。

文庫になっていたのを見つけて、表紙がきれいだったのでなんとなく。最初は面白いと思ったけど、あまりにも独白的な文章が多いような気がしてちょっと辟易。感動的な文章がたくさんあるのに、多すぎて逆に薄まってしまった印象を持った。それが残念。

97/2/9


吉本ばなな『キッチン』福武書店 1988

収録作品
「キッチン」「満月」「ムーンライト・シャドウ」

江國香織の『落下する夕方』を読んだ友達に、「なんだか吉本ばななを思い出した」と言ったら貸してくれたので。9年前友達の誕生日プレゼントにあげたんだった。その時自分でも読んでみたけど、印象が薄かったような気がする。それなのに今、こうして再読してみて、言葉のひとつひとつがしみてくるのに自分で驚いた。この中には3つの話が収められているが、「キッチン」本編よりも続編にあたる「満月」の方がいい。もっといいのは「ムーンライト・シャドウ」。つたない文章だと思いつつ、不覚にも涙が出そうになった。9年は長い。

97/2/9


内田春菊『ファザー・ファッカー』文春文庫 1996(1993)

あっさりした文体で、あっさり読めるが、中身は恐ろしい。

97/2/9


笠井潔『バイバイ、エンジェル ラルース家殺人事件』創元推理文庫 1995(1979)

*内容紹介(裏表紙より)
ヴィクトル・ユゴー街のアパルトマンの広間で、血の池の中央に外出用の服を着け、うつぶせに横たわっていた女の死体には、あるべき場所に首がなかった!こうして幕を開けたラルース家を巡る連続殺人事件。司法警察の警視モガールの娘ナディアは、現象学を駆使する奇妙な日本人矢吹駆とともに事件の謎を追う。

*感想
私好みの内容でした。小難しい感じはありますが、ヴァン・ダインの作品や『匣の中の失楽』で感じるような衒学的なものとは違うように思います。

「現象学的推理」により矢吹駆の推理がなされますが、謎解きよりも、犯人と駆との思想と思想のぶつかりあい、観念の火花といったものが印象的です。

駆が寓話として出した話が犯人との対決の場面でリフレインされていますが、考えさせられる話ですね。

実は題名が好きになれなくて避けていた本だったのですが、読んでみたら好みのタイプだったので、ばかだったと思ってます。次作の『サマー・アポカリプス』の中に、「堕天使の冬」「黙示録の夏」という表現が出てきていて、そういう題名のがいいのにと勝手に思ってます。

97/2/20


笠井潔『サマー・アポカリプス ロシュフォール家殺人事件』創元推理文庫 1996(1981)

*内容紹介(裏表紙より)
灼熱の太陽に喘ぐパリが漸く黄昏れた頃、不意にカケルを見舞った凶弾--その銃声に封印を解かれたかのごとくヨハネ黙示録の四騎士が彷徨い始める。聖書の言葉どおりに見立てられた屍がひとつ、またひとつと、中世カタリ派の聖地に築かれていく。ラルース家事件の桎梏を束の間忘れさせてくれた友人が渦中に翻弄され、案じるナディア。謎めく名探偵矢吹駆の言動に隠された意図は?

*感想
とても読みにくく、途中のキリスト教カタリ派についての記述は、はしょって読んでしまった。ただし、事件の鍵を握っていたりするので、はしょり程度が難しい。最後はやはり、思想と思想の戦い。

想像を絶する終わり方。今までで印象に残る犯人がP・D・ジェイムズのコーデリアもの2つだとしたら、印象に残る探偵がこの矢吹駆だろうと思う。カケルとつきあっていくということは、「二人でいてもっとさみしくなる」と実感することだ。

三部作は順番に読まないと意味がなさそう。巻を追うごとにカケルは次第に本当の敵に近づいている。

『薔薇の女』の感想でも『サマー・アポカリプス』について言及しています。

97/2/22


笠井潔『薔薇の女 ベランジュ家殺人事件』創元推理文庫 1996(1983)

*内容紹介(裏表紙より)
犯人は(1)火曜日の深更に(2)独り暮らしの娘を襲う(3)絹紐で銃殺した後(4)屍体の一部を切断のうえ持ち去る。現場に(5)赤い薔薇を撒き(6)<アンドロギュヌス>と血の署名を残す。酷似する犯行状況にひきかえ、被害者間に些かの接点も見出せず苦悩する捜査当局を後目に、難なくミッシングリンクを拾い上げる矢吹駆。今を去ること十数年の切り裂き魔事件に遡及して語られる真相とは?

*感想
読み易さでは一番でした。4人の女性の連続殺人があり、それぞれ頭、手足、胴体などが持ち去られているという内容。4人の間に関係はなし、という表面的にはいわゆる猟奇殺人です。

結局、カケルは最後の敵と遭遇できず、おまけに今回は思想と思想の対決が”できませんでした”。カケルはかつて第一、第二の離脱(悟りのような意味で使っているのだと解釈しました)を経験し、自分を「悪」であると悟り、最終離脱の為に導師に「地上に還って悪と戦わなければ第三の離脱はありえないだろう」と言われたのだそうです(『サマー・アポカリプス』)。

カケルはいうなれば「堕天使」であり、『バイバイ、エンジェル』において天使であることから決別したのだ、と解説で書かれてありました。そう考えると『サマー・アポカリプス』でのカケルの行動、物語の結末もなるほど、という感じではあります。

『薔薇の女』でカケルが「聖としての聖と悪としての悪。このふたつが闘う時、その結果はどうなるのだろう」と呟きますが、この願い(?)は叶いませんでした。叶わぬ原因を作った人をいつも無表情のカケルが思いっきり殴るあたり、このカケルにとって探偵役はあくまで手段なんだなと思いました。

こういう風にしか感想が書けないのですが、読み返してみると推理小説の感想っぽくないですね。3つの事件どれも背景にある思想の濃さがものすごかった気がします。『サマー・アポカリプス』が一番衝撃的でした。

97/2/23


セバスチアン・ジャプリゾ 田部武光訳『長い日曜日』東京創元社 1994
Se'bastien Japrisot, UN LONG DIMANCHE DE FIANCAILLES , 1991

*内容紹介
婚約者を戦争で亡くしたマチルドは、ある日一人の修道女から手紙を受け取る。病院に入院中で死にかけている男が彼女に会いたがっているというのだ。エスペランザという名のその男は、国土防衛軍の伍長で、1917年1月、軍法会議で死刑の判決を受けた歩兵5人を最前線の塹壕まで連れて行くように命令を受けたというのだ。その中の一人が当時19歳のマネク(マチルドの婚約者)だった。1917 年のある日曜日、塹壕の中で5人のフランス兵の身に何が起こったのか? マチルドは真実を知るために動き出す。いったい何があったというのか? 生存者がいるらしいという噂は本当なのか?

*感想
地味な話でした。私の中でのジャプリゾは『シンデレラの罠』の印象がものすごく強いので、この地道な雰囲気は意外な気さえしました。派手な話ではないのだけど、長い年月を経ての結末には感動。1日に1歩しか進めなくても、長い目でみたら実は遠くまで来ていたんだ、と感慨深くなるような話(うーん、うまく言えてない)。

97/3/12


紀田順一郎編『「大漢和辞典」を読む』大修館書店 1986

『大漢和辞典』に関わった人々のドラマ(正にドラマ!)と編纂の歴史。明治の人ってすごい。考えることもやることも違う。笑えるほどすごい。これを読むと『大漢和辞典』が安く思えるから怖い(22万超?)。

97/3/12


G・ガルシア=マルケス『十二の遍歴の物語』新潮社 1994

残念ながら入り込めなかった。もっとこう、色彩豊かな『エレンディラ』のようなものを期待してしまったから。

97/3/12


柳瀬尚紀『辞書はジョイスフル』TBSブリタニカ 1994

うっひゃ〜、面白いっ。辞書オタクになりそうです。この中に出てくる斎藤秀三郎『熟語本位英和中辭典』は、神保町で数軒あたったけど岩波で品切れらしい。三省堂で「4月に出ます」って言われたのですが信じられず、別のところで調べてもらったら、やっぱり4月に重版らしいです。定価4600円とのこと。欲しい〜。斎藤さんもやはり明治の人だった。

で、結局買いました。

97/3/12


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