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C・H・B・キッチン 宇野利泰
訳『伯母の死』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#270 1956
C.H.B.Kitchin, DEATH OF MY AUNT, 1929
*内容紹介(裏表紙より)
唯一の遺産つき近親キャサリン伯母から、週末を彼女のオソ・ハウスで過すようにとの電報を受け取って、マルコムは驚いた。なぜ、伯母が急に僕などに会いたがるのか? 強い好奇心にとらわれて、彼は伯母のもとへむかった。久し振りに会った伯母は、年齢こそ老けたものの気持はすっかり若返ったようで、気分も上々、株式仲買店に勤めるマルコムに株式についての相談をもちかけてきた。が、話は核心に触れたところへ邪魔が入り、中断されてしまい、その直後、キャサリン伯母は、『ヴィナスの秘密』を飲んで死んでしまったのだ・・・・・・。
*感想
目の前で伯母に死なれてしまったマルコムが、探偵役をつとめる。伯母の復讐というよりは、もっと現実的な理由から。有力な容疑者である伯父(伯母の再婚相手)が真犯人だとしたら、自分の命は大丈夫か? などなど。容疑者の採点表を作ったり、尋問を盗み聞きしたり、カマをかけに出たり、なかなかわくわくさせられる。登場人物が多いわりに、容疑者は少ないんだけど、一筋縄じゃいかないだろうし、と思って素直に読んでいけば、わりあい楽しめる。ただ、動機は、う〜ん、ありがちかな?(今となっては) こういう結末のわりには、全体的にアッサリしてる。マルコムは、あらかじめそう予告していたし、彼の側からの視点で書かれているので当然か。
「登場人物表」ではなく、「登場人物の関係」という図解になっているのが、ちょっと新鮮。
フェイ・ケラーマン 小梨直訳『慈悲のこころ』上・下
創元推理文庫 1998
Faye Kellerman, THE QUALITY OF MERCY, 1989
*内容紹介(上巻裏表紙より)
黒死病に見入られた十六世紀ロンドン。故郷からのぼったシェイクスピアは勇躍、芝居の世界に飛び込んだ。ところが、畏友ハリーが人里離れた街道筋で背中を一突きされて頓死し、彼は仇を討つため、ひとり馬上の人となる---この英国でいまだカトリックの徒が息を潜めて暮らすという、北をめざして。
*感想
フェイ・ケラーマンの新作を本屋さんで見つけて、あらすじもなにも見ずにレジへ直行。家に帰って、さてさて、とあらすじを読んでみたら、デッカー&リナ物じゃなかった・・・・・・。ふぇ〜ん、かなしい。
上記のあらすじより先、シェイクスピアは隠れユダヤ教徒の娘レベッカと知り合い、恋に落ちたり(それが冒険の源になってるんだけど)、死に損なったり、波乱万丈な物語。デッカーとリナの前世みたいだなー、という雰囲気の二人。宗教が絡み、その辺の葛藤があるからかもしれない。
男で魅力的な人は、出てこなかった。シェイクスピアでさえ、う〜ん、とくに。女の方が、カッコ良かったな。おてんば娘レベッカもまあまあいいんだけど(わがまま言って足手まといになるのが、あまり好きじゃない。リナに似てるな)、レベッカのおばあさんや、時のエリザベス女王が魅力的だった。
シェイクスピアは妻子持ち。それでレベッカと恋愛関係になるのが、私にはちょっとマイナスポイント。いつもはあんまり気にしないんだけど。それから、最後をこういう終わり方にしたのも、賛否両論かもしれないなと思った。私は「ちょっとね・・・ 」のほう。
メアリ・インゲイト 青木久恵訳『堰の水音』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1260
1976
Mary Ingate, THE SOUND OF THE WEIR, 1974
*内容紹介(裏表紙より。原文のまま)
十三歳のアン・フィールディングにとって、いとこのミランダとその夫モンタギュー氏が住む、ミル・ハウスで過ごす夏はすばらしかった。田舎風の邸宅を囲む、川辺の段々道、丸太作りの橋、ボート・ハウス・・・・・・。そして、真夏の陽光に輝く、若い妻ミランダの美しさと、礼儀正しく、やさしいモンタギュー氏。毎日が夢のなかの世界のように過ぎていく。途切れなく、耳にやわらかく響く、堰に渦巻く流れを聞きながら・・・・・・。翌年の夏、ふたたびアンが訪れたミル・ハウスは、わずかながらも以前とは違っていた。モンタギューはしずみがちで、ミランダの心はあらぬ方を向いている。二人の間に眼に見えない亀裂が生じたらしい。そしてある夜、アンは、見知らぬ若者とミランダの密会を目撃した。夏休みが終わり、学校に出たアンは突然、家に呼び戻され、モンタギューの死を知らされた。アンがミル・ハウスを立った日に、溺死しているのを発見されたのだ。検死審問が開かれ、アンは証人席に座った。問われるままにミランダの密会について語ったアンの証言は、ミランダを不利な立場に追いやった。ミランダは殺人罪で告発され、有罪の判決を受けた。しかし数年後、奇しくもミル・ハウスに
住むことになったアンの前に意外な真相が・・・・・・! 第一回イギリス女流犯罪小説賞受賞作。
*感想
どうやら、60歳になったアンが書いたものという設定。「強烈な追憶に襲われ」るまま、という雰囲気が良い。
謎がほどけるのは終盤で一気にだけど、それまでのアンの心の動きも興味深かった。惹かれる男レックスがいるのに、半ば当てつけでバーナードと結婚した彼女。レックスはどうしようもない男だと頭ではわかってるのに、いつまでも引きずっている。そんな姿が、ふと過去のミランダの姿とだぶる。ミランダの密会が、幸せなものだったのかはわからないし。
とても好きな雰囲気だった。ただ、真相は真相でも、謎のまま残る部分があって、ちょっと歯がゆい。事件とは関係ないにしろ、60歳のアンが車椅子に乗っている(どうやら事故が原因らしい)のはどうしてだろう。冒頭では15歳下の2番目の夫と一緒だし。バーナードの整理ダンスについての不可解な反応はなんなんだ?
この話の続編『水は静かに打ち寄せる』に、ヒントがあるのかもしれない。さっそくとりかかってみよう。
メアリ・インゲイト 青木久恵訳『水は静かに打ち寄せる』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1323
1979
Mary Ingate, THIS WATER LAPS GENTLY, 1977
*内容紹介(裏表紙より。原文のまま)
悲劇の家、ミル・ハウスはすでに遠い記憶となった。アンの幼い心に強烈な印象を残したミランダ夫妻の悲惨な事件も、徐々に色あせていく。アンにとって、ギリシャの自然はそれほど新鮮な輝きを放っていた。考古学者の夫バーナードと居を構えた大遺跡に近い家を取り巻くオリーブの林、ブーゲンヴィリアの赤紫色の花、草かげにひっそりと隠れている小さな泉。胸をうつ風景が、これからの幸福な生活を約束していた・・・・・・。だが、宿命はギリシャまでアンを追いかけてくる----十数年後、アンは四十の齢を向かえた。そのころ、村では隣人のハンク卿夫妻のメイド、ユーレイリアがアンの家の使用人ディミトリオスの子を宿したという噂がささやかれていた。ディミトリオスは野心的な男だったが、その甘い魅力にひかれる女たちは少なくなかった。ハンク卿のはからいで二人は結婚し、生まれた子どもはペトラと名づけられた。若い夫婦の将来は明るく開けていくかに見えた。しかしある夜、ユーレイリアが遺跡の断崖から落ちて死んでいるのが発見された。そして、その死はアンをふたたび悲劇の渦中へ巻き込んでいく前触れとなったのであった・・・・・・!
*感想
前作『堰の水音』での疑問が解けた。
こんな終わり方にするとはね・・・・・・。続編って、概してあまり冴えないものだけど、こっちのがいいくらい。もともと続編を念頭に置いて前作が書かれたんだな、というのが良くわかる。
推理というより、野心と悪意に巻き込まれる話。アンの振る舞いに、また繰り返すの? とイライラしつつ、相手方のやり方に怒り心頭。「アンタたちちょっといい加減せぇよ!」なぜか、ウォルポールの「銀の仮面」が頭に浮かぶ・・・・・・。というところで、アンの、いつの間に強くなったんだろうという面が出てきた。しかし、こんな生活していたら、刺激が強すぎて神経が参らないかと心配。
彼女が今回の事件に対して取った行動は、当たり前といえば当たり前かも。前作で、あんな経験しちゃってるから。
「自分の証言が従姉の運命を変えた」ということが、彼女の心の中でずっと尾を引いているんだな、と強く思う。裁いたのは彼女自身ではないのに自分の証言に罪を感じ生涯傷を癒せない彼女。彼女を口で慰めるのは簡単、でも、他人に傷は癒せない。最後の一行に、彼女の行動の理由が集約されている気がした。
たぶん、これ、好みはわかれる。でも、私は好き。良かったよ。
簡単に言っちゃえば、男女四人の四角関係の話。女性がものを考えすぎる、なんていう批判があったようだけど、これくらい考えるんじゃない? 逆に、主人公の奈奈江の夫、仁羽の考えが全く書かれてないところが、つまらないといえばつまらない。彼がどう思っているのか、それがハッキリすれば、もっと面白かったのにーと残念。きっと彼以外の登場人物だって、そう思っているはずだ! 自分だけはカヤの外だなんて感じなんだもん。というより、カヤがあるのさえ気付いてない。鈍感すぎるのも罪かも。
収録作品
「おむすびころりん」「飛び落りる子」「顔」「鴬」
なんか淡々としてていいな〜と読んでいたら、ヒヤッとする場面があったりして、なかなか良い。「鴬」のエンドレスな感じが好き。
ロバート・バーナード 青木久恵訳『不肖の息子』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1428
1984
Robert Barnard, UNRULY SON, 1978
*内容紹介(裏表紙より)
オリヴァー・フェアリー−スタブズ卿のいつにない上機嫌に、誕生パーティに集まった者たちは、驚きと不安の入り混じった思いで、顔を見合わせていた。長男マークが酔いつぶれてしまっても、卿は顔色ひとつ変えず、みんなの祝福を受けて満足そうだった・・・・・・ところが、好物のリキュールを口にしたとたん、異様なうめき声をあげ、その巨体はどさりと床に崩れた。ベストセラーのトップに名を連ねる流行ミステリ作家で大地主でもあるオリヴァー卿の死は、その犯人が誰かということはもとより、莫大な財産を誰が継ぐのかということで、世間の関心を呼んだ。子供は、美人で父親のお気に入りだが身持ちのよくないベラ、ポップ・グループに入って、わけのわからぬやかましい歌をがなりたてているテレンス、そして、飲んだくれで職も定まらず、勘当同然のマークの三人だった。だが、いざ遺言状が開かれてみると、そこには意外にもマークに全財産を譲ると書かれていた。やがて、オリヴァー卿の死の状況が、死後に発表する予定で残されていた作品と酷似していることがわかった。だが、その原稿は、なぜかどこにも見あたらなかった!
*感想
前半、ユーモアすら感じられる雰囲気に、これじゃあ深刻な終わり方はありえないし、ものすごく意外な結末にもならなそうだな、と感じる。ところが半分アタリで半分ハズレ。
はしばしに見えるシビアな感覚が、なかなかいいな、と思った。マークの観察力、感じ方が印象に残ってる。読み終わってみると、題名にも考えさせられるところがあったなあ。
残りページが少なくなるにつれ、え〜、やっぱりこんなストレートに終わるわけ? と物足りなく思っていたのに、最終ページで「おお」と評価が一つ上がってしまった。けど、これは私個人の感覚かもなあ。
世田谷区神宮寺。「住宅と公園以外」がダンジョンにあるという街。もちろん、学校も。その街へ引っ越してきた、お間抜けな女子高生があれやこれやで起こす珍騒動のお話。わははは〜と笑っているうちに、あれあれと読み終わってしまうのだけが、残念。作者の思うツボにまんまとはまって笑ってたなー。楽しいよ。
ロバート・バーナード 甲斐萬里江訳『芝居がかった死』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1543
1990
Robert Barnard, AT DEATH'S DOOR, 1988
*内容紹介(裏表紙より)
ロデリックは、大作家の父が若い女優の卵に私生児を生ませたときのスキャンダルをよく憶えていた。だがそのときの私生児コーデリアから連絡をうけようとは思ってもみなかった。二十数年間ずっと音信不通だったのに、いまになってなぜ?
コーデリアの用件は、いまや舞台の大女優として君臨する母マイラの伝記を書くので、父の所有する母の手紙を見たい、というものだった。だが、本当の目的は別にあった。マイラから虐待されて育ったコーデリアは伝記で母の本性を暴いて復讐しようと考え、それを裏付ける資料を捜していたのである。その意図に気づいたマイラは、ロデリックの家を訪れたコーデリアを追って、自分も小さな田舎の村にやってきた。二人は村のパブの一室にこもり、激しい口論を闘わせていたが、やがて、一発の銃声が轟いた!
*感想
意外な犯人。きちんと伏線が張ってあったのを、あとからちゃんと気付ける。全体の設定自体が、トリックになっているんじゃないかな。読者が犯人を当てるのは難しいかも。
苦い後味。ロデリック夫妻の娘がどうしてこういう設定だったのか、最後になって納得。母と娘の葛藤だけが読みどころじゃなかったんだなあ、と驚いてしまった。苦いくせに、こういうの好きなんだよね。
華やかさやインパクトには欠けるけど、『不肖の息子』同様、「最後の追い上げ」で一つ評価を上げてしまった作品。
ヘンリー・ウェイド 駒月雅子訳『死への落下』現代教養文庫
1995
Henry Wade, A DYING FALL, 1955
*内容紹介(裏表紙より)
全財産を持ち馬にかけて失敗したチャールズ・ラスリンは、優勝馬の持ち主で未亡人のケイトに雇われ、やがて年上の彼女と結婚して快適なカントリーライフを楽しんでいた。が、ケイトが夢遊病者と知ったころ、彼のそばに魅力的な若い女性が現れた。ケイトが手すりから落下して死亡するが、警察長は事故死と判断する。疑問を抱いた警視の捜査が続くうち、ケイトの秘書が・・・・・・。
*感想
帯に「事故死か? 殺人か? 最後の一行をどう読むか?」とある。そういうのは好きなので楽しみだったんだけど、読み終わってみて、作者の思惑からは外れちゃったことになるんだろうかと思った。作者は「A」を強く意識させたかったのかもしれないけど、かえって私が意識したのは「B」のほうで、う〜ん。
ただ、話の流れは単調ながらも(だからこそ?)、なかなか面白かった。
作者のやり方は、ちょっと危なげなので、なんだよ〜、と思う人もいるかも。素直な人ほど楽しめるんじゃないかな。多分。
ヘンリー・ウェイド 中村保男訳『リトモア誘拐事件』創元推理文庫
1961
Henry Wade, THE LITMORE SNATCH, 1957
*内容紹介(とびらより)
地方有力新聞の社長リトモア氏のもとに一通の脅迫状が届いた。同紙が始めた犯罪撲滅運動をやめないと、ひどい目にあうぞという脅しである。通報によって警察は直ちに動き出したが、その晩のうちに、事態はまったく予想外の方向に発展した。社長の一人息子のベンという少年が帰宅途上で誘拐されてしまったのだ。息づまるような緊張とあせりのうちに遅遅として進まぬ捜査、迷宮入り、地方警察を驚倒させる意外な容疑者、熊のプーさんの謎とは?・・・・・・
*感想
テンポに乗れなくて、えらく時間がかかってしまった。地味な作品だなという印象。ん〜、何を魅力に読んだら良かったんだろうか、と考えてしまった。
「意外な容疑者」は、確かに意外だったけど・・・ 。「熊のプーさん」は、とても重要なのかと思ったらそうでもなくて、おまけにアッサリしてるし〜っ。
グレアム・グリーン 田中西二郎訳『情事の終り』新潮文庫 1959
軽い気持ちで読んだら、難しくってまいってしまった。恋愛がどうこうのの次元じゃなかったのだー。私には永遠に難しいテーマかもしれん。
漫画で、大島弓子の『いちご物語』と『バナナブレッドのプディング』(ともに白泉者文庫)を読んだ。『綿の国星』も「甘くない」と思って昔途中でやめてしまってたんだけど、大島弓子は、やはり絵はかわいいけど話はシビアだ、と思う。「思いこみ」は、強いエネルギーだなと、(これは揶揄じゃなくて)感じる。動かしてしまうんだなあと。正しいとか正しくない、というレベルでもなく。
篠田真由美『原罪の庭 建築探偵桜井京介の事件簿』講談社ノベルス 1997
*内容紹介(表紙折り返し、著者のことばより)
外から施錠された温室の中に、切り刻まれた血みどろの死体が三つ。ことばを亡くした子供が一人。殺人と死体への残虐な陵辱は誰によって、そして何故なされたか。
*感想
第一部完結編とのこと。京介と蒼の出会いの物語というには、あまりに濃密で、なんと言っていいのか言葉に詰まってしまう。
これまでの作品の中で蒼がちらっともらした言葉の謎は、ここにあったんだな、というのがわかったし、京介の、彼らしからぬ心情吐露にホロリどころか胸が痛くなってしまったし、最後の向かい合った場面でも、こっちがドキドキしてしまったよ。ほんとにねえ、読者の私はここで見ているしかないんだよね。でも、現実に目の前にいたとしても、もちろん私は無力なことに変わりはないんだな。癒してゆく過程を見守っていくしかないわけで。
全体の雰囲気は陰鬱だけど、嫌いではなかったよ。出会いの物語という点でそれが補われているのかもしれないけど。
式場隆三郎 他『定本 二笑亭綺譚』ちくま文庫 1993(1988)
*内容紹(裏表紙より)介
昭和初年、東京深川に<二笑亭>なる世にも奇妙な建物が出現した。本書は、この怪建築を記録した昭和14年刊行の奇書に、すでに失われた<二笑亭>とその主の謎をめぐる大胆な追跡調査報告書等を加え、さらに精巧な建築模型によりその全貌を再現させる。また、二笑亭構想のきっかけを得たといわれる主の<世界一周>の際の日記をはじめ、数多くの新発見資料を収録。消滅後半世紀を経てなおわれわれを魅了し続ける幻の怪建築への、渾身のオマージュ。
*感想
式場隆三郎は、芸術と精神病理の関連を研究していて、山下清とも関係があった人。(山下清『ヨーロッパぶらりぶらり』ちくま文庫の中で、旅に同行してる)
さて、これは、今となっては実物を目にすることができない、不思議な建物の記録。一見して不可思議な装置にププッと笑いが出るんだけど、もしもお金が自由で、でも、広い建物の中にたった一人でいて、建築に興味があったら、私だったらどんなふうな建物を作ってしまうんだろう、と考えてみると、そうそう笑ってもいられないなあと思ってしまう。箱庭療法じゃないけど、出来上がったものに精神状態が知らずとあらわれてしまうとは思う。歪んだ視点が全く感じられない、真面目な考察。
谷川史子『外はいい天気だよ』集英社りぼんマスコットコミックス 1998
漫画だよ。新作出たよ〜。とってもシンプルだ〜。この人の描く漫画の女の子って、なんでこんなにかわいいんだろ。絵だけじゃなくて。まあ、男の子も良いけども。
*内容紹介(文庫裏表紙より)
男性優位主義の色濃く残る巨大な警察組織。その中で、女であることを主張し放埓に生きる女性刑事・緑子。彼女のチームは新宿のビデオ店から一本の裏ビデオを押収した。そこに映されていたのは残虐な輪姦シーン。それも、男が男の肉体をむさぼり、犯す。やがて、殺されていくビデオの被害者たち。緑子は事件を追い、戦いつづける。たった一つの真実、女の永遠を求めて---。性愛小説や恋愛小説としても絶賛を浴びた衝撃の新警察小説。第15回横溝正史賞受賞作。
*感想
読み始めたら一気にいってしまった。緑子の行動がエネルギッシュで疲れそうなものなのに、全然疲れなかったなあ。いったい誰が犯人でどういう動機で、というのが気にならなかったわけじゃないけど、なんというか、作品といい距離を置いて読めたようで、気が楽だったというか。
段落の間に空間がある独特な書き方で、それがまた、テンポに乗りやすくさせてたのかも。
緑子の過去と現在の行動、捜査している事件の関係が深かったから、この作品も濃い感じがしたんだろうな。過去の事件が今の緑子を作っているわけだけど、私には緑子の行動が防御に思えた。「娼婦」には思えなかったんだよね。
ジャンル分けなんて良くわかんないけど、これは確かに「緑子の物語」なんだな。
*内容紹介(裏表紙より)
バリバリの新右翼リーダーだった著者は、スパイ粛清事件の実行犯として逮捕され、懲役12年の判決を受ける。留置場や刑務所には、かつて世間を騒がせた”ビッグ”たちがひしめいていた。「三越事件」の社長、「ボホテル・ニュージャパン」のあの人、「金属バット殺人」の彼・・・・・・。有名人の知られざる生態、長期刑務所という極限空間の奇妙な日常生活を描いた、異色の「笑える」獄中体験記。
*感想
面白いのなんの! うっひゃー、ブラックーと思いながら笑い、でも、「笑っていいのかな」と思ったり。冷静に、だけど、冷たくない描写で、ときどきトホホな時もあったりして、いいなあ。本文終わったあとの参考資料「受刑者の生活心得」がまた、本文読んでいるからおかしくてしょうがないのだ。
*内容紹介
一児の母となった村上緑子は下町の所轄署の異動になり、穏やかに刑事生活を続けていた。その彼女の前に、男の体と女の心を持つ美女が現われる。彼女は失踪した親友の捜索を緑子に頼むのだった。そんな時、緑子は四年前に起きた未解決の乳児誘拐事件の話をきく。そして、所轄の廃工場からは主婦の惨殺死体が・・・・・・。保母失踪、乳児誘拐、主婦惨殺。互いに関連が見えない事件たち。だが、そこには恐るべき一つの真実が隠されていた・・・・・・。ジェンダーと母性の神話に深く切り込む新警察小説、第二弾!
*感想
前作より落ち着いた雰囲気があるんだけど、要素をいろいろ盛り込んでいるせいか全体としては薄まってしまったような印象。密度的に。それぞれを取り出してみたら、深いものがあるとは思うんだけど。
麻生と山内の存在がなかったら、「え〜、なんだかものたりない」で終わってしまったかもしれない・・・。
麻生の存在がいいなあ。あの最後のところで「わかった」あと(ネタバレになるからこれ以上言えないけど)、おでん屋のシーンを読み返してしまった。読み返さずにいられない〜。「透明で柔らかで、だが決して越えられない壁」か。しなやかなほど、強いんだろうな。
山内の魅力については保留にしとくけど、緑子が山内にした質問の、最後の答えを確認して「よし」と思ってしまった。
98/7/30