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ヘレン・マクロイ 山本俊子訳 『読後焼却のこと』ハヤカワポケミス#1387
1982
Helen McCloy, BURN THIS, 1980
*内容紹介(裏表紙より)
その手紙は、女流作家ハリエット・サットンの家の庭に、風に舞ながら落ちてきた。目を引く一行目の太い文字
”焼き捨てること” に続く文章は、ハリエットの背筋を凍らせた。”ネメシスの正体がわかった。ネメシスはわれわれと同じこの家にいる。事故死に見せかけて殺せば、疑われることはないはずだ・・・・・・” 文は途中で突然とぎれ、署名はなかった。いたずらにしては念がいっている。まさか、本物の殺人 計画書では・・・・・・! ネメシスとは悪名高き覆面書評家のペンネームだった。(中略) ハリエットの家に間借りする誤認の作家たちはいろめきたった。手紙の内容が真実なら、この家にはネメシス本人、そしてその命を狙う人物と共犯者が同居していることになるのだ。
*感想
被害者のネメシスが誰なのか、命を狙う人たちは誰なのか、どちらも謎。ちょっと深読みしすぎちゃった。案外素直に解いて良かった。この中のトリックも意外だったけれど、素直に考えたほうが良かったみたい。
言うなれば、これはとても素直な物語なんだと思う。探偵役は精神科医、しかしなんだか影が薄い。
この間読んだ『私が見たと蝿は言う』も下宿屋が舞台だったけれど、同じような雰囲気を感じた。「ちょっとお茶でも」とか下宿人どうしの会話とか、そういうの、なんだかいいな。
小林紀晴『アジアン・ジャパニーズ2』情報センター出版局 1996
気持ち良く読みました。カメラを向ける著者に、「自分を撮るなら、これを着て/どこどこで、撮って欲しい」と言う人たちがいて、それが印象的でした。それが決意だったり、自分は これだ、っていう現れでもあったり。「人生は絶妙だ」の言葉が出てくるくだりも 良かったなあ。 それから、写真家の古屋誠一のことが出ていたのにびっくり。去年の冬ごろ、写真展を見に行った時に受けた衝撃を思い出してしまいました。著者も同じように思ったんだなあ。『Christine Furuya-Go"ssler,Me'mories 1978-1985』 という写真集がその頃出版されたんですが、買えないな、と思ってしまったくらい「重い」写真でした。
*内容紹介
チンピラの少年をヤクザから救出しなければいけない! 家出した女子中学生を探さなければいけない!
そして、24時間営業の無認可保育園を運営しなければいけない!!愛すべき私立探偵、花咲慎一郎の大・大苦闘。
*感想
山内が出てきたらとりあえずストップしようと思ってたんです。でも、結局やめられなくて、最後まで一気に読んでしまいました。私にとっては、柴田よしきの作品って、始めたら最後。
無認可保育園の園長にして私立探偵っていう設定はユニークでした。「守らねばならないものがあるからこそ強くなれる・・・」
とあったけれど、その通りだと思ったし、逆に支えになってるんだろうなあと感じました。
山内は、さりげな〜く、しかし印象的に登場。登場自体少なくて、彼について語られるページを足すと、確かに10ページくらいかも。RIKOシリーズも良いけれど、ちょっとキツイわ〜って気分のときには、これくらいが丁度いい、かな。続編が書かれればいいのに。
ルース・レンデル 小尾芙佐訳『ロウフィールド館の惨劇』角川文庫
1984
Ruth Rendell, A JUDGEMENT IN STONE, 1977)
*内容紹介(表紙折り返しより)
(前略)ユーニスは有能な召使だった。家事万端完璧にこなし、広壮なロウフィールド館をチリひとつなく磨きあげた。ただ、何事にも彼女は無感動だったが・・・・・・。その沈黙の裏でユーニスは死ぬほど怯えていたのだ、自分の秘密が暴露されるのことを。一家の善意が、ついにその秘密をあばいた時、すべての歯車が惨劇に向けて回転をはじめた・・・・・・
*感想
実は、一行目を読むと「秘密」が書かれています。
読者の私は、「秘密」のことも一家の行動も分かっているという、傍観者の立場に置かれてる。だから、「秘密」がバレませんように、とユーニスの気持ちになったり、「あっ、そんな刺激を与えちゃだめだ〜」とハラハラしどおし。最初から全て丸分かりの状態で、それでも読ませてしまうのはすごいと思った。
私にだってもちろんコンプレックスはあるから、刺激されたら顔で笑って心で泣くけど、秘密のことじゃないからねえ。コンプレックスの内容=「秘密」(知られたくないこと)だと、ツライよなあ。秘密がバレるのもショックだし、刺激受けて二重のショックだ。同情するわけにはいかないけど、お互い不幸だったよなあと思う。
ただ、彼女だけだったら行動は起こさなかったような気もしてる。彼女と一家の間を「とりもってしまった」人物が、印象的だったな。その人物とユーニスは、一緒にいてお互い増幅しちゃったという感じ。不幸な運命的な出会いというかなんというか。
確か、帯に「ミステリか、恋愛小説か」って書いてあったので、気になって読んでみたのだけど、途中居眠りしてしまった。会話の中の余計な一言に、これを蛇足っていうんじゃないのーと思うことが多かった。結局、最後までノレずに終わってしまった。
東京の有名な店、しゃれた店、通な店が数多く出てくる。そういうガイドとして使ってみたら・・・なんていうのは意地悪かなあ。
ちなみに著者は、「マリ・クレール」の編集長をしていた人。河出文庫の文豪ミステリ傑作集で、芥川龍之介と三島由紀夫の編者をやってる。
北村薫編『謎のギャラリー 特別室』マガジンハウス 1998
『謎のギャラリー』 は、古今東西の不思議な味わいの物語を取り上げて解説したもの。そして、その中で現在入手が難しいと思われる数編を、『特別室』 のほうで紹介している。
『特別室』 の内容と感想は以下のとおり。華やかさはないけど、楽しめるアンソロジー。
都井邦彦 「遊びの時間は終らない」。考えつきそうでいて、考えられない話。ちょこちょこっとした伏線が、身動きできなくしている感じがいい。
里見トン 「俄あれ」。暗闇って、「現実」 と離れちゃってるのかもね。女と比べた男の態度が面白い。
梅崎春生 「猫の話」。彼の「蜆」という話が好きで、それには、たんたんとしているのに妙に惹かれる。これもまた、すごくたんたんとしているのに、静かに心に残る話。「猫の話」としか言いようのないシンプルさ。猫に対するしみじみとした気持ちがじわっと効いてくる。
別役実 「なにもないねこ」。かたちないもののかたち。見えないものの姿。不在の存在。なんだか切なくて、心がきゅーっとした。
南伸坊 「チャイナ・ファンタジー」(「巨きな蛤」 「家の怪」 「寒い日」)。とてもシュールな漫画。「家の怪」では、猫のしぐさに声を出して笑ってしまった。
ヘンリィ・カットナー 高梨正伸訳 「ねずみ狩り」。不気味で怖くてどうしようもない。
クレイグ・ライス 増田武訳 「煙の環」。笑いたくもあり、恐ろしくもある、不思議な読後感。
ジョン・コリア 矢野浩三郎訳 「ナツメグの味」。とにかく。こわいっ。逃げたい。
樹下太郎 「やさしいお願い」。精神的な追いつめって効くね。罰もちゃんとある。あなおそろしや。
阪田寛夫 「歌の作りかた」。小学生のころから、女の子のほうが男の子より現実的でクールだよね。
フランソワ・コッペ 内藤濯訳 「獅子の爪」。古典的恋愛話という感じがした。顔で笑って心で泣いて〜。
マージェリー・アラン 井上勇訳 「エリナーの肖像」。すごいっ。肖像画に描かれた小物類から「なにかを訴えたかったんじゃないか」と推理して謎を解いてゆく。頭をひねって少しずつ少しずつパズルが出来上がってゆくように、組み立てられてゆく真実。静かに興奮してしまった。
ヘレン・マクロイ 宮脇孝雄訳
『ひとりで歩く女』創元推理文庫 1998
Helen McCloy, SHE WALKS ALONE (WISH YOU WERE DEAD), 1948
*内容紹介(裏表紙より)
西インド諸島を発つ日、わたしは、存在しない庭師から手紙の代筆を頼まれた。さらに、白昼夢が現実を侵したように、米国へ帰る船上で生起する蜃気楼めいた出来事の数々。誰かがわたしを殺そうとしています・・・・・・一編の手記に始まる物語は、奇妙な謎と旋律とを孕んで、闇路をひた走る。めまいを誘う構成に秘められた狡知、縦横無尽に張りめぐらされた伏線の妙。超絶のサスペンス!
*感想
読み始めたらやめられなくて一気に読んでしまった。面白かった! しょっぱなから、「手記」というシロモノが出てきた時点で、「これは心してかからないとだめだ」と覚悟して読んでた。不思議な手記に惑わされつつ、めくるめく展開にどきどきしっぱなし。謎と謎がからみあっていて、どこかひとつでも解けないと、次の謎が解けない複雑さ。ほんと「内容紹介」の後半の表現そのもの。スバラシイ。ちなみに、先日読んだ
『読後焼却のこと』 より数段面白い。
村山由佳『夜明けまで1マイル somebody loves you』集英社 1998
*内容紹介(集英社 新刊案内より)
僕、涯は大学一年。講師で人妻のマリコさんと恋愛真っ只中。センセイとセイト。でもこれはフリンなんかじゃない、恋だ。
*感想
村山由佳は私の中で見限れない人なので、書いたものは読むことにしている。年上女と年下男の設定が好きだから書いているんだろうけど、その場合もだいたい展開が同じなので、つまらない。バンド話、バイト話の作り方も面白いのだけど、中途半端で終ってしまっているし。同じ設定でも、一番最初の
『天使の卵』 はよかったと思うし、集英社ジャンプジェイブックスの「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズは、結構面白く読んでいるんだけどなあ。う〜む。
*内容紹介(新潮社 新刊案内より)
ある高校に密かに伝わる奇妙なゲーム。「サヨコ」によって受け継がれていた伝説は、六番目の年に恐るべき結末を迎えて・・・・・・。
*「新潮文庫」改稿版
*感想
著者の作品を読むのはこれで2つめだけど、どちらも「物語の物語」だと思う。もともとの文庫版とはどこがどう違うのか確かめられないけど、本筋は同じ?
伝承されているゲームが緻密なのはいい。だけど、代々伝わってくる間に内容の変化もなく、中止になることもないとなると、それはそれでなんだか怖いように思う。ゲームに限らず、きちんとしていればいるほど、それを崩したら何かが起きそうに思ってしまう。
文化祭の体育館でのシーンは怖かったなあ。鳥肌立っちゃったよ。でも、体験してみたい気もする。
書き手による「ある人の印象」を、そのまま信じて読んでみて、すっぽりはまった物語(わかりにくくてごめん)。文化祭の「うたごえ喫茶 みぞぐち」も良かったし、秋のおとうさんのキャラクターもいい(鋭いこと言うし)。全体ももちろん面白いのだけど、そういうちょこっとした遊びがすごく上手な人と思う。読んでいてとても楽しい。
『時が過ぎゆきても』 1991/『サマータイム』 1992/『鎖の封印』 1993/『メルセデス・ベンツ』 1993/『オール・イズ・ロンリネス』 1997
すべて、著者は柏枝真郷、出版社は光風社出版。
ボタンをひとつ掛け違えたための悲劇、といった感じの物語。 事件が解決しても、みんなハッピーになれたわけじゃない、むしろ真実が関係者たちを苦しませるような、苦い読後感がある。だけど、不思議とじめっとしてなくて、乾いた感じがする。物語を読んだあとにあとがきを読んで、著者の言いたいことがズバッと書いてあるのが、いいような悪いような。言いたいことは物語でも伝わってはくるのだけど、あとがきのストレートな書きようにはかなわないから。思うに、あとがきでは、作品について言及するのは(好みもあるけれど)、不要な気もした。
西原理恵子・勝谷誠彦『鳥頭紀行 ジャングル編』スターツ出版 1998
「最悪のコンビ、理恵蔵とかっちゃんを待つのはアマゾンの緑の地獄だけではありませんでした。同行の3人こそ、悪夢の変人地雷だったのです。」(p.5より)
男女5人の怒涛のジャングル行。なんつー濃さだ! 激しさだ! 身もフタもない感じもいい。勘弁して欲しいような、一度くらい体験してみたいような。
7つの短編をおさめたもの。
I 蒐集家(コレクト・マニア)たち
1 孤独の島の島
2 モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ
3 《次号につづく》
II 映画狂(シネ・マニア)たち
4 女優志願
5 エド・ウッドの主題による変奏曲
III 再び蒐集家(コレクト・マニア)たち
6 割れた卵のような
7 人形の館の館
*感想
全部読んでみて頭に浮かんだのが「リバーシブル」という言葉。見ていたものが、あるとき急に裏返ってしまったような気がする読後感。手袋を手から外すときに、ひっくり返して外したような感じ。確かに手袋、だけどなんだかどこかヘン。信じにくいものが本当になってしまうから、こちらはうろたえてしまう。《次号につづく》と「エド・ウッドの主題による変奏曲」がそう。「人形の館の館」にも、そういう雰囲気がある。「孤独の島の島」は、スタートとして入りやすい話。「モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ」は、西澤保彦にこういう話なかったっけ?
という展開だけど、まさに「泣き笑い」の結末。不幸なんだか幸せなんだかねえ。「女優志願」は、うまいっ!
と思ったし、「割れた卵のような」には、果たしてどうなのか? という不気味さが漂う。ちょっといつもと雰囲気が違うような。
『ミステリーズ』 よりとっつきやすかった。
98/9/30