「偶然という必然」
 作品製作においては、基本的に天然繊維に天然染料で染めた布に、絞り染め、ろうけつ染め、型染め、刺し子、、、等の技法を加えて全て手作業で制作しています。最初は、化学染料(*2)を用いていましたが、染める段階で薬品(色を染め付けるためにいろいろ使うのです。劇薬も。)により肌にひどいアレルギーが出てしまったこともあり、草木染めに偶然というか必然的に出会い、廃液や、発色させるための薬品も手作りする等目に見えない部分も気をつけるほどになりました。結果的に、作業の行程としては、大変手間ひまかかるものとなってしまいましたが、このような、インスタントな時代だからこそ失われている何かを作品から感じていただければと思います。


 日々、作業していて毎回思うのですが、天然染料で染めた布は、なんとも言えない良い色をしていて何度見ても見飽きるということがありません。例えば、袋ものなどを作る時の色合わせで、藍染めに渋木という染料で染め重ねた色の布(実に渋い青緑になります。)と、玉葱で染めた黄色の布と 、石榴で染めた焦茶の布(まだ、つづく、、、。)を組み合わせる。このようにして、様々な色の布を組み合わせても不思議とけんかせず、力強さが増してゆくのです。大地というものは、様々な生命が生きている、力強く奥深いものです。(私は、そんな布を作りたい!) このような素材を用いてるので、色が変化してゆくのを味わいながら(日光で退色、汗などで変色します)破けたところにつぎを当てたり、かがったり、染め変えたりして、月日を経て、また違う表情を持つものに生まれ変わったりするような環境型の服づくりを目指しています。でも、手間ひまかけて作ったよいものなら、自然と大切にしようと思ってそのような方向に進んでいくの だと思います。

< br>   たえず自分の肌に触れている「第二の皮膚」といえる服は、生きていく上で自分を包み込んで、他人に対して、心の中にあるパワーやオーラを伝える存在です。私は、この服を心の延長の衣服として身にまとってもらいたいと思っています。


  作品を制作する上での大きなテーマは「生命」です。 現在、服づくりのインスピレーションを受けているのは「樹皮」。樹の皮を、樹木の皮膚であり、そして、服であると考えています。皮膚に直接施す入れ墨、ボディペインティング。これらを、人間の「第2の皮膚」である服に、人体と自然のはざまや融合を表現してゆきたいです。そして、作品が完成してからも、私の手を離れて誰かがどこかで着てくれて(これをコラボレーションと呼びたい)街で、山で、海で、どこでもよいのですが、まわりの人達の目をも楽しませるワンシーンになることを望みます。


 今後は、たとえば、人間と服の関係を自然界のミクロ(例えばカビ)、マクロ(例えば山)に取り入れた写真の制作などに発展させたり、それとは別に、いろいろな現状の人と共同制作&生産できるような場を作ったり出来たらと考えています。服は、人間の肌に直接的に触れるものだし、だからこそ、自己表現につながり、(他人も、私も)いろいろな世界につながるような展開のできる媒体です。簡単なことではないので、少しづつ少しづつですが、、、。 人生は、物凄くおもしろいと思います。各々に無限の可能性が秘められているし、そりゃあ、楽しいことばかりじゃありません。運もあるし、家庭の事情、身体上の事、人間関係も。そんなことに一喜一憂しながら、自然の偉大さを肌で感じながら、日々、生きることを噛みしめて制作しています。こんな風に考えられるようになったのも、偶然という必然性から、人との出会いや自己の成長が 反応しあって、私に染まりついた生命の音色なのかなと思うのです。これからは、布の染色にとどまらない、空間を染めるような活動をしてゆきたいです。

*1 草木染め・・・例えば、おおまかにですが一例。
1、玉葱の外皮を水からことこと煮る。オレンジ色の煮汁が出来る。
2、それを漉して、そこに染めたいものを入れ、煮る。
3、火を止め、さます。この時に色がしみ込む。まるで、煮物に味がしみ込むように。
4、脱水。
5、次に、焼明礬(漬け物に使用したりする物)を溶かした湯に入れ、煮て、さます。
6、脱水。
7、1に戻し煮て、さます。
8、脱水→乾燥
これで、黄色が染まります。私は、これで三日かかります。
濃い色に染めたい場合はこれを何回もくり返す。
*2 化学染料・・・ 一般的な布は全てこれで染められています。価格も安く、 色落ちもしにくい。