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ブラボーつるおか(1993秋・東北)中編
鶴岡で向かえた朝。
一晩中アカネちゃんに手枕をしていたので、腕のシビれで目が覚めてしまった。
なんてのは大嘘で、そんな展開は有り得ない。
なにしろ、ユースホステルに泊まったのだから。
昨夜の宿泊者は、一人旅のライダー4人と我々で、全部で6人。
そうなると、なんとなく全員が集まって、否が応でも話が盛り上がる。
アカネちゃんと二人きりで語り合う展開を期待していたハズなのに・・・・・
でも、なんだか妙に気が楽になった事に自分でも驚きながら、とにかく楽しいヒトトキだったのだ。
各々がコッソリ持ち込んだ酒でカンパイし、旅談義をしたり、バイクの話になったり・・・・・・
女性はアカネちゃんを含めて2人だけなので、どうしても女性2人を中心とした会話になりがちで、
「そうなのよ。女一人で走ってると、けっこうクルマからイヤガラセさせるのよ」
「うんうん。髪の毛は絶対にジャケットに隠すわよね。隠してないのはロン毛のオトコ!!」
なぁんてネタが続く。
アカネちゃんが他の男と話をするのにヤキモチを焼く訳ではないけれど・・・・・・
共にケラケラ笑う姿を見ると、ほんのちょっぴりフクザツな心境だったりもする。
明らかに2人で一緒に来ている我々は、どういう関係に見えるのだろうか。
誰もわざわざ聞いてこないし、聞かれちゃったら何て答えようか。
「こないだなんか、スリヌケしてたら、ぶつかったなんて言いがかりつけられたのよぉ!!」
「まじぃ?・・・・」
「で、絶対ぶつかってないって言ったら、いいから電話番号教えろだって!!」
そんなアカネちゃんの話に、他の連中と一緒になって「へぇ!」なんて驚いてるくらいだから、少なくともコイビトどうしには見えなかったろう。
「アカネさん、それはタイヘンだったわねぇ」
「うん。でも、今回はトモダチと一緒だからヘイキよ」
アハアハと、弱々しく笑うワタクシ。
一通りの記念撮影が終り、それぞれの行き先に散って行くライダー達。
いつもながら、妙にすがすがしく、そしてちょっぴり寂しいシュチュエーションだったりする。
でも今日は、一緒に走るパートナーが居るのだ。
オトモダチが。
そのオトモダチと、まず目指したのが・・・・・・・
鶴岡には、B級スポットながらも、ヒジョーにブラボーな場所があるのだ。
そりは・・・・
即身仏。いわゆる実物のミイラ。
昔々、偉いエラぁいお坊さん達が、みずから洞穴に潜って入口を封鎖し、断食をしながらお経を唱え続け・・・
そしてそのままミイラと化してしまったのだ。
そんなお坊様が数名、鶴岡市内のいくつかのお寺にいらっしゃる。
そういうモノがあるのは前々から知っていたけれど、一般人に公開してるとは思っていなかった。
そしたらYHの壁に張られた観光ポスターによると、それが見学出来るらしい。
それならば是非とも見てみたいのだけれど・・・・・
しかし、今回は如何なモノだろうか。
アカネちゃんが一緒なのだ。
果してそのような物を見たがるかどうか・・・
「見たいんだったら、見てもいいわよ」
なんだかハッキリしないけれど、ワタクシ自身が見たいので、ココはお言葉に甘える事にする。
ワクワクドキドキと寺に入ると・・・
おおっ!!いるいる!!
まるで大き目の五月人形のように、奇麗なオベベを着てガラスケースの中に鎮座されている。
アリガタイやらブキミやら、とにかくブラボーなそのお姿!!!
「ど・どぉ?感想は」
「うん。キモチワルイ」
「ゴ・ゴメン」
「別に謝る事は無いわよ。それより、観光ポスターに出ていた教会に行ってみたい」
「えっ?」
「ダメ?」
「と・とんでもない。行こうよ」
アカネちゃんの言う教会とは、鶴岡城址にある『鶴岡カトリック教会天主堂』というヤツで、なんでも明治時代に建造された、由緒正しい重要文化財だそうなのだ。
今日の予定を考えると、あまり鶴岡市内で時間を潰したくは無いけれど、ミイラと引き換えに譲歩せざるを得ない。
まあ、ちょこっと見るだけなら・・・・・・・
しかし、ここでもブラボーな出来事に遭遇する事になってしまった。
妙に屋根の尖がらかった、古式ゆかしい建物である。
テキトーに写真などを撮りながら眺めていると、建物の中から一人の男が出てきた。
「どうぞ、中もご覧下さい」
神父さまというよりも、どう見ても礼服といった衣装のオッサンである。
「そ、そうですか。じゃあ・・・」
中に入ってオドロいた。
まさに結婚式の真っ最中なのだ。
「どうぞこちらへ」
さっきのオッサンに招かれるまま、参列席に座らされる。
教会での結婚式と言うのは、誰でも自由に参列出来ると聞いた事があるけれど、まさか通りすがりの旅人でしかない我々まで・・・・・・・・
なんだか妙に浮いている。
コキタナいジャケット姿は我々だけなのだ。
まさかご祝儀までは取られないだろうけれど、困った事がひとつ。
ココから、出るに出られない雰囲気なのだ。
「ど・どうする?」
「どうしよう・・・・・・」
バージンロードを踏みしめながらの新婦の入場、神父さまのアリガタい説教、誓いの言葉、そして誓いのチス・・・・・
ボォーっとそれを眺め続ける。
オルガンの演奏とママさんコーラスのような賛美歌がガンガンと響き渡る中、ふと見ると、どうやらアカネちゃんはカンゲキしているらしい。
さすがに、まだ
「オレとアカネちゃんの時も教会で・・・」
なんて所までには思考が短絡しなかったけれど、この古めかしい教会のフンイキにも呑まれたのか、なんだか妙に神妙な気分になってしまった。
結局、最後のライスシャワーやらブーケ投げまでキッチリと参列し、気がつけば1時間近くのロスタイムである。
今日も、なんだか慌しくなりそうだ。
「じゃあ、ちょっと急ごうか」
と言いかけようとした途端、アカネちゃんの声のほうが先に出た。
「ねぇねぇ、せっかく鶴岡に来たんだから、『鶴岡八幡宮』にいこうよう」
「えっ?それって鎌倉じゃなかったっけ・・・」
「だって御本尊はココでしょ?」
「そ・そうなの・・・(謎)」
「アタシのオトーサンも、鎌倉の鶴岡八幡宮が好きで、よく行ってたの」
「・・・・・・・・」
「ねぇ、行こうよう」
結局、ソレも見る事になってしまった。
しかし、ツーリングマップや市内の案内図には、その存在が載っていないのだ。
半信半疑ながら、市内を検索する事にする。
武士の棟梁である源氏が、一族の守り神として崇拝した鶴岡八幡宮。
有名なのは鎌倉だけれど、それはいわゆる出張所のようなもので、本店(?)は京都なのであった。
そしてこの鶴岡市とは無関係で、縁もゆかりも無い。
もともと存在していないのだから、鶴岡周辺の地図に出ていないのは当然の事である。
そんな事も判らない当時の我々は、鶴岡の市内を右往左往しながら、ムダな時間を費やし続けた。
しかし神様は時折、ブラボーなイタズラを見せてくれるのだ。
先ほどの天主堂の前を何度も行ったり来たりしているうちに、ふと、コキタナいカンバン地図が目に入った。
怪しい業者が広告料の名目で商店からカネをセビり、トタン板に手書きで書いて道端に不法取付けしているアレである。
そのカンバン地図に、『八幡神社』なる文字を発見したのだ。
「あ・あったぁ!!」
気合を入れてダッシュする我々。
そこは・・・
なんともチンケな規模の、いかにも村の鎮守さまのような神社なのである。
「こ・こりが、あの鶴岡八幡宮の御本尊?」
「へんねぇ。でも、支店のほうが栄えちゃうって事は、世の中には良くあるわよ。」
「そ・そういう物かなぁ・・・」
せっかくだから参拝し、賽銭を投げて手を合わせながら、ワタクシは
「ココは、鶴岡八幡宮とは全く無関係なのだ」
なんて事を確信していた。
しかし、それを口にしたら、果してアカネちゃんはどうするだろうか。
「ココじゃないなら、ホンモノを探す」
なんて言い出すだろうか。
これ以上ムダな時間を費やしたくは無い。
だって、
「鶴岡市には鶴岡八幡宮など存在しない」
という事も、おそらく間違い無いと思われたからだ。
ひょっとしてアカネちゃんは、マジでココが鶴岡八幡宮の御本尊だと思っているのだろうか?
いやいや、ソレでは余りにもアフォすぎる。
だとしたら、やはり鶴岡八幡宮の存在を疑いながらも、気を使って黙っているのかもしれない。
お互いに気を使いあって、満足したフリをしあってるなんて、マヌケすぎるではないか。
いやいや、気を使ってくれているのではなくて
「もういいじゃん。満足したフリしてるんだから、余計な事は言わないでよねぇ!」
なんて感じで、テキトーにアシラわれているのだとしたら・・・・
ワタクシのすぐ脇に並んで、目をつぶって手を合わせているアカネちゃん。
この時、アカネちゃんに対して、今までで一番の距離感と、そしてイラつきさえも感じてしまったのだ。