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トロンプルイユ(2004GW・南大東島)その3


西港の岸壁

さて、今日も朝から快晴で、ダラダラと汗を流しながらの探検には最適だったりする。
朱蘭さまはダイビングに向かい、父子は島の中央部を目指して歩き始める。
今日の最初の目的地は、南大東空港なのだ。

正確には、アタマに『旧』、そして末尾に『痕』を付けねばならない。
元々、この島の空港は内陸のド真中を滑走路が横切っていた。
滑走路を伸ばす為だったのか、空港そのものが海際の現在地に移転されたのだ。
その痕跡が、ついつい気になる。
新空港がオープンしてから6〜7年程度との事だし、島のフンイキからして、旧空港が何の跡形も無く消滅しているとは思えない。
空港の残骸なんてのは、めったに見れるモノじゃなく、ぜひとも滑走路の跡地に父子で立ち、世代交代という人生のハカナサを思い知ろうではないか。


問題の滑走路の跡地には『ビジターセンター』、そして『スパーク南大東』なる施設が建てられているとの事で、これらを目指せば空港跡に辿り付けるに違いない。
しかし、ビジターセンターは判るけれど、スパーク南大東ってのはナニモノなのだろうか。
実は、ひそかに期待するものがあった。
それは、その正体が「温泉センター」だったら嬉しいなという期待だ。
今時、日本中のどこに行っても、まさかと思える所にも温泉があったりする。
そこで安直にも、この「スパーク」の「スパ」の部分に希望を託した訳なのだ。

我々が泊まっている宿にはフロが存在しない。
部屋のフロも、大浴場のような共用のフロもなく、有るのはシャワーだけなのだ。
これは沖縄の離島ではアタリマエの事らしく、住民にとっても湯船に漬かるという習慣はあまり無いらしい。
なにぶん沖縄では、ごく一部の島を除いては水をフンダンに使える状況ではなく、フロなんてゼイタクな文化は広まらなかったのだろうか。
それはそれで理解でき、何もフロが無い事に対して不満を述べても仕方が無いけれど・・・・・
でも、入れるものなら入れるに越した事は無い。
なにしろ大小の池がウジャウジャと存在する南大東島は、なんだか水は余ってそうで、温泉センターの一つも存在したって良さそうな気がしたのだ。
いや、過大な期待はヨロシくない。
もし温泉センターなるモノがあるならば、何かしらの広告が有りそうなのだけれど、そういったタグイのモノが何も無いのだ。

大家族なコイノボリ 宿から北上して真新しい橋を渡れば、ほどなく池のフチに沿った道となる。
その池のほとりには、これまた真新しい公園があった。
大きなコイノボリが風に舞い、なかなか涼しげなのでココで一休み・・・・・・したのが災いした。
オコチャマの大好物の、滑り台があったのだ。
このコゾーには、
「ココは家の近所の公園などではなく、それなりの飛行機代を使って来た島である」
なんてリクツは通用しない。
ひと滑りさせなきゃ収まりが付かず、そして滑れば滑ったで「もう一回!!」を繰り返す事になる。
これを止めさせようとでもしたならば、所構わずダイインしやがるのだから始末に終えない。

結局、滑り台に取り付いてしまったオコチャマを、タバコを吸いながらボンヤリと眺めていると・・・・
ほどなく、コドモを連れたオカァチャンが登場し、コドモどおしで積もる話でもあるのか、仲良く遊び出す始末。
しかし・・・・・
年の頃なら20代半ばくらいで、妙に身なりがアカヌケているオカァチャンのほうが気になってしまう。
今時の、いや、南大東島の農家のヨメはイケてるのだろうか。
それとも、帰省して来た都会住まいの団地妻なのだろうか。
コレは、親どおしも積もる話を・・・・・
いやいや、そんな事をしてたら、これで午前中が終わってしまう。
「オラァ!!行くぞぉ!!」
オコチャマを滑り台から引き剥がし、泣こうがワメこうが担ぎ去るのだ。

池の向こうに製糖工場の煙突 オコチャマを抱えたまま歩く事しばし、もういいだろうと道路に降ろせば、アキラメ悪くダイインに突入しやがる。
「帰りにまた寄るから」
などとの譲歩にも応じなかったオコチャマが、パコンパコンという音に興味を示して立ち上がった。
それはゴルフの練習所の音だったのだけれど、なんと池に向かっての打ちっぱなしだった。
どうやってボール回収するのだろうかなんてギモンは置いといて・・・・・・
立ち上がってくれさえすればコッチのモノで、あとは騙し騙し前進するのだ。

池のフチから離れれば、サトウキビ畑の中を突き進む直線路となった。
道に沿った防風林の木陰を歩くぶんには涼しいのだけれど、ソレが途切れればさすがに暑い。
オコチャマは、身長差の分だけ、オトォチャンよりもアスファルトの輻射熱がコタエるに違いない。
「こんどイスがあったら休もうね。ジュー(ジュースの意味)も飲もうね」
なんて言い聞かせると、
「イスがあったらジュー」
などと繰り返し声に出しながら、ケナゲに歩き続けてくれる。
しかし、観光地ではないこの道に休憩所などなく、仕方が無いので
「ほぉら、イスがあったよ」
などと言いながら、道端の石に座らせる。
この島の地質は石灰岩が主成分らしく、アチコチにある石垣も真っ白な石灰岩で、それは車道と歩道の境界にもキチンと並べられていたりする。
この道には歩道は無かったけれど、畑のフチの仕切りにも、そのカケラのような白いカタマリが使われているのだ。
そんな石での休憩を繰り返しながら、やがて大きな青い屋根が近付いてきた。
どうやらアレがスパーク南大東らしい。


予想どおり、ソコは温泉センターなどでは無かった。
なんだか体育館っぽいのだけれど、天井が低いので出来る競技も限られてしまいそうな、巨大な卓球場というのが相応しい感じなのだ。
「スパーク」の「スパ」は温泉の「スパ」ではなく、「スポーツパーク」を略した造語なのだろうか。
それにしても館内には人の姿が全く見えず、キッチリと施錠までされている。
コレは地方自治体にアリガチな『建設する事に意義がある』建物なのであって、完成と共に使命を終えてしまった公共施設なのかもしれない。

いやいや、そんなイヂワルに考えてはイケナい。
やはり閉まっている隣のビジターセンターには『本日休館日』との看板があり、スパークも同じ日程で休んでいるだけかも知れない。
とは言うものの・・・・・・・
それらの真向かいにたたずんでいる空港ターミナルビルの残骸の後を追うように、新米の廃墟として、共に朽ち果ててしまうのだろうか。
それではイケンイケン。
ターミナルビルには、島の玄関口としての栄光の時期があったのだ。
スパークよ!! キミはキッチリと働きなさい。

旧・南大東空港のターミナルビル さて、そのターミナルビルは・・・・・・
何年も放置されていただけに、確かに古めかしさは漂っている。
しかし崩壊している訳では無く、この位の現役のビルならばいくらでもあるだろう。
いまだに『南大東空港』との名前も掲げていて、なんだかリベンジを誓っている老ボクサーのような気合さえ感じる。
しかし、間違ってもソレは有るまい。
なにしろ、滑走路が酷すぎる状態なのだ。
廃止になったのは平成に入ってからで、もともとダートの滑走路だった訳でもあるまい。
それなのに舗装は全て剥がされ、例の真っ白い石が至る所にウズ高く積み上げられていて、まるで石灰岩の採石場のような状態なのだ。
これでは、懐かしの『Gメン75』ゴッコが出来ないではないか。
それがどんなゴッコかは、それなりのトシヨリには判って頂けると思われるので省略する。

滑走路の跡は、ただの農道風 その滑走路を、トボトボと歩いてみる。
ターミナルビルから東側はサトウキビ畑が広がっているだけで、滑走路の痕跡すらない。
ツブして畑にしてしまったフンイキではなく、ターミナルビルが滑走路の東端にあったと考えるほうが妥当だろう。
そこで、滑走路の左右を囲ったフェンスが延々と続いている西端を目指して進んだのだけれど、石灰岩の山とパワーショベルとが並ぶばかりの広い一本道で、なんだか建設中の高速道路を歩いている気分だ。


石灰岩置場と化した滑走路跡 1Km程度で辿り付いた終点には、ひときわ高い石灰岩の山が立ちはだかっていた。
それは2階建ての家くらいの高さの台形で、まるで天守閣痕の石垣のように見える。
そのテッペンまではブルトーザー道が作られていたので、さっそく登ってみる。
う〜む、さすがに眺めが良い。
ココは島のほぼ中心で、幕下(ハグシタ)の全てが一望できる感じなのだ。
点在する池を挟んで、はるか南には製糖工場のエントツと在所の集落が見える。
「そうか。帰りはアソコまで歩かなきゃいけないのか・・・・・・」
石灰岩に座って貪るようにジュースを飲むオコチャマよ!
もうひとフンバリですぞぉ!

終点は、積まれた石灰岩の山 宿に戻り、ヒルメシを食えば、オコチャマはオキマリのオヒルネ。
今日の午前中の歩行距離は約6Kmで、さすがに連日のシゴキに疲れたのか、オコチャマが目を覚ましたのは夕方の4時だった。
午後の部はどこを攻めようか検討する間もなく、ダイビングの朱蘭さまも戻って来てしまった。
それならば、せっかくだから今からレンタカーを借りる事にしようではないか。
南大東島を去るのは翌日の夕方なので、今から借りても明日の朝から借りても、同じ料金だと言う事に気が付いてしまったのだ。


この宿ではレンタカー屋も営んでいて、カウンターでクルマを借りたい旨を伝えると
「担当者が空港まで客を迎えに行っている。戻るまで待って欲しい」
との事。
なぁんにも急ぐ必要は無いので、ロビーで待つ事しばし・・・・
やがて戻ってきた送迎車から降りてきた客の中に、ソイツがいた。
ソイツは、まだ前の客が宿泊手続きをしている最中だと言うのに
「予約してるオンダでぇす」
などと騒ぎ立て、とにかく落ち着かない。
じっと待っているのが苦痛なのか、レンタカー手続きを待つワタクシに向かい、
「どこから来ましたかぁ?」
などと話しかけてきた。
まあ、話し好きなヤツなのかなぁとテキトーに応じたのだけれど、とにかく一方的に馴れ馴れしいのだ。
いわゆる、空気が読めないタイプのトッチャンコゾーなのだろう。

やっぱり狛犬風 自分の番になったポンタは、対応する「フロントマン」兼「送迎ドライバー」兼「レンタカー係り」の色黒オッチャンに、
「レンタサイクルは借りられますかぁ? オススメのスポットはどこですかぁ? 大東犬はどこにいますか?」
などと、そんな事は後で聞けと言いたくなるような質問を繰り返し、なかなか手続きが終わらない。
コチラはなぁんにも急ぐ必要は無いけれど、さすがにイラつき始めても・・・・
「荷物はどこに置けばいいんですかぁ? トイレは? シャワーは? 大東犬は?」
などと、ちったぁ自分で解決しろ的な質問まで続けやがる。
さすがに色黒オッチャンもウンザリしたのか、明らかにテキトーにアシラい始めても、留まる事を知らないポンタ。
そのうち
「ケツはどうやって拭けばいいんですかぁ?」
なんて事まで聞くに違いない。

やっとの事でコチラの番になり、レンタカーの手続きをしていると・・・・・・・
おおっ! ポンタが朱蘭さまを捕まえて、何やら延々と話し掛けていやがる。
まさかテキトーに仲良くなって、レンタカーに便乗するツモリではあるまいか。
フザケるな。キサマなんか乗せてたまるか。
とっとと部屋に入って寝てなさい。

島の南端、亀池港 レンタカーは、小笠原・母島式のヤミレンタカーではなく、正真正銘の『わ』ナンバーだった。
無事に我が家3人だけで乗り込み、晩飯までの一時間半ほどで港めぐりをしてみる事にする。
うまくすれば、例のクレーン宙吊りが見れるのではないかとの期待なのだ。
まずは、島の南端の亀池港に。

さすがにクルマは速い。
大汗かいて歩いた道を一気に走り抜け、アッというまに幕(ハグ)を乗り越え、海に向かって急坂を降りれば、ガケの切れ目にコンクリ製の岸壁が広がっていた。
海面からは異常に高い位置の岸壁で、5mはあるだろうか。
それでも、地元の子供たちがドボンドボンと海に飛び込んだりしている。
岸壁の脇に刻まれた階段から登って来るツモリなのだろうけれど・・・・・・・
防波堤も無く、ときおり岸壁の上まで駆け上がってくる程の波に揉まれた状態で、タクマしいとしか言い様が無い。
ウワサのクレーンの姿は見当たらないけれど、朱蘭さまによれば
「固定されたクレーンじゃなくって、クレーン車だった。漁港の場合だけど。」
なのだそうだ。
こちらはメインの西港
次に目指したのは西港で、ココが一番大きな港らしい。
確かに、何も無かった亀池港と違い、港湾関係の建物も並んでいる。
やはり固定されたクレーンは無く、大型のクレーン車がハジッコに停められていた。
ここの岸壁も海面から妙に高いのだけれど、なぜか3段になっていて、一番高い岸壁は10mくらいは有りそうだ。
そんな岸壁から一段高い所にはコギレイな公園が整備されていて、キャンプ場まである。
それは海に臨む広々とした芝のサイトで、さぞや夕日がキレイに見える事だろうけれど・・・・・
ブキミなほどにガラアキで、いかにもデイキャンプ風のバーベキューが一組と、住人の姿は見えない小ぶりのテントがひと張りのみ。
なんだか、殆ど利用されていないような状態なのだ。
夏には少しは賑わうのかもしれないけれど、荷物がかさばるダイバーや釣り客がキャンプをするとは考え辛く、果して・・・・・・・・・
ココも、人知れず廃墟になってしまわない事を祈らねばならない。

キャンプ場のトイレはコーモリ造り 当然ながら、パトカーはフツーでした

亀池港と同じように岸壁しかない北港をひと眺めし、最後の港である南大東漁港に。
ある意味、ココが一番豪快だった。
海に面したガケを激しく切り崩し、人工の入江が造られているのだ。
切り出された石灰岩は港に下りる道沿いに丁寧に積み上げられ、まるで万里の長城の様相を呈している。
この長城は、石が利用されるまでの一時的な置場に過ぎず、やがては無くなってしまうらしい。


あまり気合を入れて走り回っても、明日のオタノシミを奪う事になってしまうので、もう宿に帰ろうではないか。
幕下(ハグシタ)の平原地帯をキモチよく走れば、さすがにクルマは速すぎる。
大平原だとカンドーしていたのが恥ずかしくなるほどに、アッというまに走り抜けてしまった。
明日は南大東島で過ごす最終日ではあるけれど・・・・・
二足歩行の探検的な徘徊は今日で終り、いよいよオキラクな観光の始まりなのだ。

チカラワザで造られた、南大東漁港

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