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トロンプルイユ(2004GW・南大東島)その4
今日は南大東島での最終日であり、夕方の飛行機で島を去らねばならない。
それまでの間、レンタカーで島内観光を行うのだ。
「最終日になって観光とは、今まで何をしていやがった!」
などと怒られても困る。
オトォチャンとオコチャマは廃墟系探訪、オカァチャンはダイビング、そしてちょこっと港湾めぐりなんぞに明け暮れていたので、いわゆる本格的な観光地はロクに見ていなかったのは事実だ。
しかし、観光地巡りは一日あればオツリがくるほどで、要はソレを先にするか後にするかだけの問題だったのだ。
それを後に持ってきたのは、それなりの理由がある。
ダイビング後しばらくは通常よりも体内の窒素濃度が高く、その状態で周囲の気圧が低くなるとキケンなのだそうで、
「ダイビングしたら、24時間は飛行機に乗ってはダメ」
というオヤクソクがあり、ソレを避ける為に最終日を観光地巡りにしたのだ。
コレが、結果的に幸いした事が一つある。
それは、あのポンタとの関わり合いを避けるには都合が良いと言う事だ。
自らを旅の達人だと豪語するポンタ。
誰彼構わずノーガキをタレてくる割には内容がデタラメで、それを指摘されるとツバを飛ばしながら反論してくるウットーしいヤツなのだ。
ヤツは大東犬を探してレンタサイクルでウロつくハズなのだけれど、コチラがクルマならば、万が一遭遇しても相手にしないで済むではないか。
ニジり寄ってきたらブッちぎってしまえば良いのだ。
ちなみにポンタが異常にコダワる大東犬とは、この島に多くいると言う中型犬で、妙に足が短いのがウリなのだけれど・・・・・・
島という狭い空間で近親交配を繰り返した為に、似たような犬が増えちゃったと言うだけの事であって、生物学的にはただの雑種犬なのだそうだ。
まあ、この島独特の犬には違いないけれど、必要以上にムキになるポンタには呆れてしまう。
しかし、
「飛行場痕を見て喜ぶのとは五十歩百歩だ」
と言われれば、なにも反論が出来ないのだから仕方がない。
目指す観光スポットの一番手は、星野洞という鍾乳洞に決った。
この星野洞は、10時に行けば係員の解説付きなのだそうだ。
別に解説無しでも良いのだけれど、その時間を外せば、役場に行ってカギを借りなくては中に入れないというのだからメンドクサい。
「どうぞ、いつでもご自由にご覧ください」
という訳ではないのだ。
それならば10時に行くのが賢明なので、時間調整がてら少し寄り道をしようではないか。
寄り道先は昨日も立ち寄った南大東漁港で、再びココに来たのには訳がある。
昨日はダメだったけれど、今日こそは『漁船宙吊り』を見る事が出来るのだ。
それは9時半頃にダイビング船が出るハズで、一昨日・昨日と朱蘭さまも乗ったのだから間違い無い。
漁港に着くと、まだ人の姿は見えない。
岸壁の中央にデーンとクレーン車が停められていて、こちらも無人だ。
朱蘭さまが、そのクレーン車に並びかけて置かれている漁船の中の一隻を指差し、
「船が留まってるから、まだ出航してないよ」
などと言っているうちに、ダイビング機材を積み込んだリヤカーのようなモノを引っ張ったワンボックスカーが登場した。
ワンボックスカーから降りてきた連中は
「アラ、今日は潜らないの?」
「ヘェ、ソレがボーヤなんだ。コンニチワ」
なんて感じで、朱蘭さまとオコチャマに次々と声を掛けながら、イソイソと身支度を始めた。
初めて見たのだけれど、ウエットスーツを着ると言うのはタイヘンな作業なようで、皮ツナギを着るのよりもキツそうだ。
「ドライスーツに比べたら楽なモノよ」
などと言われても・・・・・・
なんだか『自分がデブってしまった事実を認めずに、体型より2インチも小さいGパンを大汗かいて履こうとして、店員を困らせているオバチャン』みたいに苦労している人までいる。
ウエットスーツを手に持ったまま岸壁から飛び込み、立ち泳ぎしながら着ているオネェチャンまでいて、慣れればソレも楽なのだそうだ。
海に飛び込んでしまった一人を除いたオネェチャンだけが岸壁上の船に乗り込み、いよいよ船にクレーンが掛けられた。
クレーン車には専属の係員がいる訳では無さそうで、各自で勝手に操作するキマリらしく、この漁船の船長らしいオッチャンがクレーンの操縦席に座っている。
やがて、スッという感じで船は1m程度宙に浮いただけで、そのまま横に移動して海の上に出ると、静かに海面に降ろされた。
考えてみれば、わざわざ遥か上空まで吊り上げる必要などはなく、ハタから見ている限りでは思ったほどの迫力ではなかった。
しかし実際に船に乗っている人から見れば、横移動した途端に2階の屋根くらいの高さの海上宙吊り状態を味わえる訳で、ぜひともソッチ側から経験してみたいモノだ。
オトコどもとクレーンの操作を終えた船長が岸壁の階段を降りて船に乗り込み、コレで宙吊りアトラクションは終わった。
先ほどまでされるがままに宙吊りになっていた船は、1人で海面を漂っていたオネェチャンを回収すると、本来のテリトリーである海面をキモチ良さげに走り去っていった。
そして今度こそ、星野洞なのだ。
クルマで走るぶんには小さな島なので、アッというまに星野洞の駐車場に着いてしまった。
集合時刻の10分前だと言うのに、プレハブ小屋の事務所には係りのオバチャンが1人いるだけで、他には誰の姿も見えない。
駐車場の片隅には高さ4〜5mほどの小山がポツンとあり、ソコに『星野洞』と書かれたアルミサッシが埋め込まれていて、どうやらソレが鍾乳洞の入り口らしいのだけれど・・・・・・
なんだか果てしなくチンケなのだ。
ほどなく、いかにも役場の事務員風のオッチャンが、懐中電灯を片手にやって来た。
「それでは入りましょうか」
どうやら我が家の貸切らしい。
ガチャガチャとアルミサッシを開けると、ズィィィィっと先まで下り坂のコンクリのトンネルが続いていて、その終点にもアルミサッシが見える。
坂が急なのを除けば、まるで「旧国鉄・D51不況型地下通路」といった風情だ。
そんな薄暗い廊下を下りきり、第二のアルミサッシを開けると・・・・・・
おおっ!!コレは!!

どうせ小さな島の鍾乳洞だし、チンチクリンなミミズ穴だとばかり思っていたのは大間違いだった。
後に、ココは日本でも1・2を争うキレイさを誇る鍾乳洞だと聞かされたが、ソレに異存は無い。
どんなにキレイかという事は、とても表現できない程なのだ。
上から下から張り出したオビタダしい数の純白の鍾乳石に、ただただオドロくばかりだった。
ひとつ言える事は、ココを見学するには気合が必要だ。
とにかく下に伸びている鍾乳洞なので、周囲に見とれてズンズンと下るぶんには問題ないのだけれど、当然ながら帰りは登りでヘバる事になる。
この鍾乳洞の登り下りには、なんだか妙にリッパな階段が設えてあり、コレも日本で1・2を争うに違いない。
案内のオッチャンによれば、懐かしの『竹下内閣・ふるさと創生1億円』が使われたそうだ。
こういう場所の階段にしてはちょっと豪華すぎる気がしないでもないけれど・・・・・・
ヘンな金塊を買い込み、しかもソレを盗まれちゃったアフォな自治体に比べれば、遥かに有意義な使い道だと言える。

見学を終えて、コンクリ急坂トンネルに戻るアルミサッシその2を開けると・・・・
遥か前方のアルミサッシその1が開き、ナニモノかがコチラに向かって小走りに降りて来るのが見えた。
地上から差し込む光のシルエットになりながら、妙な欽ちゃん走りで近寄ってくるその正体は!!!
「うげげげげ! ポンタだぁ!!」
何を考えたのか今頃になって、
「おそくなりましたぁ」
などとニンニク声を通路に響かせて、ポンタがやって来たのだ。
案内のオッチャンは、
「あなた方は、もう良いですね」
と我々に告げると、ココでUターンして、ポンタと共に鍾乳洞の中に向かって歩き始めた。
駐車場のスミッコに停められたポンタのレンタチャリを横目で見ながら、ポンタの大幅な遅刻に感謝した。
だって、ヤツと一緒に見学しないですんだのだ。
案内が二度手間になってしまった事に顔色ひとつ変えなかったオッチャンだけど・・・・・・
案内を終えて再びココに戻ってくる頃には、おそらくデコの血管が浮き上がっている事だろう。

次は、星野洞の近くにある、大池という名前の池に向かう。
島に点在する池の一つで、ココにはオヒルギという木の群落があり、いわゆるマングローブを形成しているのだ。
マングローブといえば西表島が有名で、海岸っぺりや河口などの海水と淡水が入り混じった場所に広がる水陸両用の林なのだけれど・・・・・・
なぜかココでは、ソレが海とは隔離された池に存在するのだ。
そのヒミツは、星野洞の案内のオッチャンが教えてくれた。
なんと、この島の池は、地底で海と繋がっていると言うのだ。
海の干満に合わせて池の水位も変動するので、マングローブにとっては河口に生息しているのと何ら変わりないのだろう。
ちなみに池の水は、比重の重い海水が底に沈んでいて、その上に真水が乗っかっている状態なのだそうだ。
従って上層の真水を汲み上げすぎると海水が出てきてしまう為、この島も水がフンダンに使えると言う訳では無かったのだ。
だからこそ畑の中のアチコチに人工の溜池が構築されていたし、温泉センターを造るどころでは無いのも納得せざるをえない。
ちなみに、この大池の北岸には、マングローブ観察塔が造られていたりするのだけれど・・・・・
やはり地上から見ただけでは、単なる水辺の林にしか見えなかった。

さて、ここらでひと泳ぎしようではないか。
何だかその名も勇ましい『海軍棒』という所に、人工の潮溜まりのプールがあるのだ。
一昨日に訪れた塩谷のプールと同じようなフンイキなのだけれど、海軍棒プールのほうが水深が深く、足が付かない程だ。
従って、温泉気分で浸かってるだけの塩谷のプールと違い、コチラはキッチリと泳ぐ事が出来る。
もちろん更衣室もシャワーも存在しなく、オトォチャンは岩陰で、オカァチャンは崖上のトイレで、オコチャマはソコイラで水着に着替えて、次々と飛び込む。
ワッセワッセと魚と共に泳いでいると、プールのフチの岩を乗り越えて、ときおりドドォォンと波が飛び込んでくるのが迫力満点なのだ。
なんだか判らないけれど
「う〜む。海軍だぜぇ!!」
なんて気分になり、妙に楽しい。
しかし、満潮時は波がキケンすぎて、泳ぐのはムリなのだそうだ。

スッキリしたところで、次なる目的地は『バリバリ岩』なのだ。
ココは星野洞の案内のオッチャンに教えて貰ったポイントで、ガイドブックなどには載っていない。
なんだかネーミングが幼稚っぽくて、お堅い役人顔のオッチャンが大マジメな表情で
「バリバリ岩」
なんて薦めてくれるので、その違和感に笑える。
この南大東島は、北大東島や沖大東島と共に、遥か南方のニューギニアあたりから浮き沈みを繰り返してココに辿り付いた島なのだそうだ。
今でも継続中である島の移動の影響で、この島は3つに分断されようとしていて、その境界の裂け目が『バリバリ岩』なのだ。

島の北側の畑の中に、その入り口があった。
いかにもオコチャマが作ったような看板で、バリバリ岩というネーミングに年齢層がマッチしている。
しかし、その実態は・・・・
オドロキの大迫力で、ちょっと死語っぽいけど
「んもぉバリバリ!」
だったのだ。

ソレは、まさに大地の裂け目だった。
両手を広げれば届いてしまう幅に、見上げんばかりの高さの垂直の岩壁が両側から迫り、そんな回廊が数百メートルもクネクネと続いているのだ。
空はギザギザの一本線にしか望めない薄暗い極狭空間で、なんだか屋根の取れちゃった鍾乳洞を歩いている気分になるけれど、部分的には実際にトンネル状になっている。
なんとも言えないオドロオドロしさが漂う。
大音響と共に両側の岩壁が迫ってきて、そして押しつぶされ、ココで人生が終わってしまいそうな気さえする。
明治時代に開拓されるまでは無人島だった南大東島だけれど・・・・・
もし、それ以前から未開の原住民が生息していたならば、ココでは如何なる伝説が創生され、そしてモットモらしく語り継がれてきた事だろうか。

最後に、大東神社をチラリと眺める。
琉球っぽさはミジンも無い超和風の神社で、個人的にはあまり興味が湧かない。
でも、ココにはココのウリがある。
この神社の森は、『ダイトウオオコウモリ』という巨大コウモリの巣窟なのだそうだ。
それは大東島だけに生息している貴重なイキモノで、天然記念物にも指定されている。
そういう意味では大東犬よりも遥かに格が上なのだけれど、残念ながら日中なので姿は見えない。
しかし、アリガタく無い形で、その生息地である事を認識できるのだ。
それは・・・・・
日本一の巨大コウモリの生命を支える糧となるべく、とにかくオビタダしい数の蚊!蚊!蚊!!
油断も隙もあったもんじゃなく、アッというまにボコボコにされてしまうのだっだ。
(注)
実際には、ダイトウオオコウモリのような大型のコウモリは蚊なんか食べず、果物を食うってんだからナマイキな。
コレで観光地は品切れである。
後はホテルに戻り、空港までの送迎を待つばかりだ。
何だかんだ言いながらも、とにかく大満足の島だった。
この島に来て良かったと、ココロの底から思う。
近年、西表島に代表される急速な観光開発の功罪が問題になっていて、
「なにも無い島でノンビリしたかったのに、再訪したらガッカリ・・・」
なんて話も聞かれる。
この南大東島でも、シュガートレインがトラックに変わるなどの、時代の流れによる変化は見られる。
アタリマエのように走り回っているトラクターだって、以前は牛だったのだろう。
それは通りがかりに見かけた、草に埋没してしまった闘牛場の痕からも想像できる。
しかし、島の生活を大きく変えてしまうような大規模な観光開発は、将来的にも有り得ないだろう。
なにしろココは『島民の、島民による、島民の為の島』なのだ。
観光客に対しては
「来たいならば来れば? あまりオカマイは出来ませんけれど」
なんてフンイキで、あまりアテにしているとは思えない。
そんな着飾らない島の姿が、オトナになってからは足が遠のいてしまったイナカの親戚を訪れるような懐かしさで、何ともキモチイイのだ。
しかし、何ともキモチワルい結末が待っていた。
それは荷物類をまとめて宿のロビーでくつろぎ、送迎のクルマを待っている時だった。
同じように荷物を抱えて、ポンタがやって来たのだ。
そしてロビーのイスにドカンと座ると、ノーガキ垂れる相手でも探しているのだろうか、人待ち顔のアフォヅラでキョロキョロしていやがる。
ま・まさかヤツも同じ飛行機に乗るのだろうか。
ヤツは、昨日の夕方に島に到着したばかりなのに。
ポンタは、さっそく宿のオネェチャンを捕まえると
「いやぁ、自転車で海軍棒を探したんだけど、見つからなかったんだよね」
などと、返答に困るような話を勝手にホザきはじめた。
おいおい、ソレが何時頃か判らないけれど、ヘタしたら我が家と遭遇していたって事かい。
しかし、行き違いになった事をホッとしている場合じゃなかった。
ヤツはオネェチャンに対し、脈絡も無く話題を変えたのだ。
「北大東島って、何がオススメでしょうかあ?」
ま・待ってくれ!!
北大東島は、これから我が家が向かう先なのだ。

空港への送迎車の中でも、相変わらずポンタが吠えまくっていた。
「日本最西端の島? ああ、何度か行った事あるよ。アワグニ島だよねえ」
何を言っていやがる。与那国島だろうが。
粟国島と間違えてるんだろうけれど、ソレだって読みは「アグニ島」だぜ。
たぶん、そんな間違えに気が付いているのだろうけれど、イケニエとなっている若いニィチャンは
「へえ、そうなんですか」
などと、訂正する事も無く受け流している。
北大東島までは直線距離で10kmも無く、国内線の定期路線では最も短い航路だそうだ。
そんなバス路線みたいな距離であっても、当然ながら搭乗手続きなどはフツーの路線と全く変わらない。
その際の機内持込荷物チェックのX線検査で、我が家の荷物が引っかかった。
実は、羽田でのチェックの際も、我が家の持込み荷物は引っかかっていたのだ。
その時に引っかかったのはセンヌキとカンキリがセットになったヤツで、それ以降ソレは手荷物に入れた。
それならば、いったい何が引っかかったのだろうか・・・・・・
検査係のオバチャンが、ひとつひとつ疑わしいモノを抜きながら、何度も検査を繰り返した結果・・・・
朱蘭さまのウエストバッグの奥の奥から、カッターナイフが出てきた。
しかし、なんとも腑に落ちないのは・・・・・
その状態で、羽田空港や那覇空港の検査ではパスしてしまった事だ。
一流の国際的な空港でさえ見落としたモノを、なんともチンチクリンな南大東空港は見逃さなかった。
いや、空港の規模は関係無いかもしれない。
何も考えなくてもピピッと反応する金属探知機と違い、検査員の能力に左右されるX線の検査なのだ。
手荷物の受け入れから検査からイロイロと掛け持ちでこなしている、キヨスクおばちゃん風の係員の眼力のタマモノと言えるのかもしれない。
問題のカッターナイフを『機長預かり』にする手続きを、テキパキとこなすオバチャン。
その姿に、ちょっとムリヤリだけど・・・・・
いや、かなりムリヤリだけど・・・・・・・
『島民の、島民による、島民の為の島』である南大東島の誇りと、そしてタクマシさを感じてしまったのだ。