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オリオン日記(2002夏・西表島)その2
8/12(月)
いよいよ西表島に上陸する朝を迎える。
すでに表はキョーレツな日差しで、ちょこっと歩けば汗が噴き出す。
でも、ウキウキワクワクな足取りで離島桟橋に。
八重山荘からは徒歩5分くらいだったろうか。
この桟橋からは、八重山の各島への連絡船がひっきりなしに発着していて妙に活気がある。
竹富島、小浜島、波照間島、黒島、与那国島、鳩間島・・・・
そして我らが西表島という事になる。
わくわく。
各島の間を縦横無尽に連絡線が行き来している訳ではなく、ごく一部を除いて、全ての航路がこの離島桟橋からの発着となっている。
たとえば西表島から与那国島へ、小浜島から武富島へ、などなどと隣の島に定期船で渡ろうと思っても、必ず石垣島の離島桟橋に来なければならない事になる。
つまりここは、独裁的な八重山の中央ターミナルなのだ。
とは言え、ゴリッパなターミナルビルが建っている訳ではなく、連絡船を運航する数社が、それぞれに土産物屋風のキップ売り場と待合室をバラバラに構えているだけなのだ。
西表島への航路も3社が入り乱れていて、うっかり違ったカイシャのキップを買っちゃたり、違う乗り場で船を待っちゃったりするとトンでもない事になる。
我らが乗る予定の船会社のキップを買い求め、それらしき場所で待つものの、もう出発5分前だと言うのに、船の姿が見当たらない。
沖合いから次々とやってくる連絡船は、みぃんなヨソのカイシャの船なのだ。
ついに出発時刻が過ぎる。
それでも船は姿を現さない。
うずたかく積まれた西表行きと思われる物資が残っているので、もう行っちゃった訳でもあるまい。
「コレがウワサの八重山時間ってヤツか・・・」
などと納得しながらも、なんとも落ち着かないひと時である。
10分遅れで出発した船は、とにかく速い船なのだ。
見た目は隅田川下りの平べったいゴキブリ観光船をチンケにしたヤツみたいだけれど、船体よりもデカい飛沫をあげながら、まるで怒り狂ったようにズンズンと進む。
石垣島を後にし、平らな竹富島、小浜島、黒島などがイッキに流れ去っていく。
それでも、ひときわ高い山を抱いた石垣島は、いつまでもその姿を後方に晒し、八重山の盟主としてのニラミをきかせている。
いくつもの島影を目にしながら、
「ああ、時間さえあれば、ひとつひとつを周ってみたいなぁ」
などと思ったりする。
そんな島々を眺めながら、ふいに考えてみたりする。
もし自分が、動力船も無く、地図も無く、それぞれの島の位置関係さえ定かではなかった原始の時代のニンゲンだったとしたら・・・・
自分の住んでる小さな島で一生を終えるのはイヤだ。
当然ながら海の向こうに見えている別の島へも行ってみたくなる事であろう。
石垣空港でカッパらってきた八重山無料観光マップによれば、与那国島からも西表島が見えるらしい。
だとしたら、与那国島に生まれた原始人のワタクシは、いつしか西表島を目指すだろう。
そこをしばらく探検したら、隣の小浜島、黒島などを探索し、やがて山がそびえる巨大な石垣島に上陸するに違いない。
そんな事を繰り返すうちに、遂には沖縄本島に到着し、
「ああ、石垣島などはチンケだったのだ。ココこそは世の中で 一番の巨大な陸地だ。安住の地だ」
などと思い知り、ブッたまげる事だろう。
やがて、チンケながらも目の前の与論島が気になりはじめ、思わず訪れてみれば、またまた次の島影が気になり・・・・・
気がつけば九州にたどり着いてしまうのではないのだろうか。
そしてそして、しまいにゃ北海道の大地に立つのかもしれない。
今のニポンじゃそこが終点だけれど、原始の時代には国境など無く、更にサハリンか国後に・・・・・・・
おおっロマンじゃぁ!!
素晴らしい!!
しかし、実物のワタクシが臆病者であるが故、原始人のワタクシだって同様であると思われる。
だとすれば、島影が見えなければ先に進まない可能性が極めて大きい。
それでは、どこが終点となってしまうのだろうか。
少なくとも、石垣島まで到着する事は確認できた。
朱蘭さまに聞いてみる。
「石垣島から宮古島って見えるかなぁ?」
「見えるわけ無いでしょ!」
「石垣島と宮古島の間って、なんか島がなかったっけ?」
「多良間島があるけど?」
「その島なら、石垣島から見えるだろうか?」
「ムリでしょう。なんでそんな事が気になるの?」
仕方なく、原始人のワタクシの行動計画を説明する。
「へぇ。でも、多良間島からも、たぶん宮古島は見えないし・・・」
どうやら原始人のワタクシは、八重山人で終わるしかないようだ。
朱蘭さまが追い討ちをかける。
「でもさぁ、それだったら何で台湾には渡らないの?」
「うっ!!そういえば・・・・・・」
「ソッチのほうが、大陸に続くじゃない」
「で・でも、島伝いに先に進むからこそロマンが・・・」
「ヘンなの」
与那国島と台湾の間は、たかだか125km程だそうな。
しかし、台湾が見える事は極めて稀だとの事。
年がら年中温暖な海水温であるが為に、海上は絶えず霞がかかり、朱蘭さまが与那国島に訪れた際も、全く見る事が出来なかったらしい。
その時に島の人に聞いたら
「台湾?う〜ん、もう長いこと見てないかなぁ」
なんて悩んじゃうぐらいだから、観光ガイドブックなどに
『運が良ければ台湾が見える、与那国島の西崎』
などと書いてあるけれど、そんな簡単なモノでは無さそうだ。
ところが、その『運が良ければ・・・』に遭遇すると、またまた島の人いわく
「こんな巨大なモノが、なんでいつもは見えないのだ!!」
などとノケぞっちゃう程の光景だとか。
そうまで言われりゃ見てみたい。
見えない時と見比べてみたい。
でも、今回はとても与那国島に渡る余裕が無いのが残念である。
次第に、石垣島に負けず劣らずの山々を並べた、西表島が接近してくる。
脇にチョコンと鳩間島を従えて、そして両島の間に浮かんでるのが小さな砂の島、バラスである。
海のど真ん中にふんわりと浮かんでいる純白の島、バラス。
なんだか間違って流れてきちゃった氷山にさえ見え、何気にイイカンジなのだ。
そしてこのバラスは、西表島に滞在中、やさしく慰め、見守ってくれるトモダチとして付き合う運命となる。
いよいよ、昼前に上陸。
船浦港は、ホントに何も無い、桟橋だけの港という感じだった。
西表島はガタイだけはデカいけれど、日本でも指折りの未開の島なんだそうであり、人口密度も極めて小さい。
島の住所も「八重山郡竹富町」となっていて、はるかに小さい竹富島の子分のようだ。
まぁ、その未開さを楽しみに来たのであって、妙に開発されてたり人々で賑やかだったりしたらかえって困る。
特に頼んだ訳でも無いのに、この島での宿となる、いるもて荘のクルマが迎えに来ている。
この船に乗ってた宿泊客は我が家だけだと言うのに、クソ暑い中、手際の良さがアリガタイ。
もっとも、一応は路線バスも走っているけれど、本数的には無いに等しい状況だから、迎えが無かったら困ってしまう。
ボロっちいワンボックスでちょろちょろっと走り、あっというまに、小高い丘の上の いるもて荘に到着。
どっちが本業なのかは判らないけれど、YHと宿の兼業で、我が家は宿のほうに泊まる事になる。
食堂やらYHのベッドルームやらがある母屋からちょっと離れた、コテージ風の建物に通され、そこが我が家の遠征基地なのだ。
それにしても、なんとも素晴らしい眺め!!
広々とした芝生の広場の先には、「これでもか!!」ってくらいに海が広がり、鳩間島やバラスが気持ち良さげに浮かんでるのが見える。
そりゃもう、
「お願い、ココに転がって!!ルービも飲んでぇ!!」
などと悩ましげににじり寄って来るような、最高の眺望なのだ。
ルービよ、オリオンよ、ちょっと待ってておくれ。
「まずは一息入れてメシでも食って、今日はノンビリするんだろう?」
などと考えているであろう西表島のウラをかき、ピナイサーラの滝あたりを先制奇襲攻撃し、我が家の機動力を思い知らせてやらねばなるまい。
ところが・・・・
オコチャマの様子がおかしい。
元気だけれど、妙にアッチンチンなのだ。
ああ、イヤな予感!!
信じたくは無い、一番恐れていた事が・・・
慌てて、荷物の中からミミッピを取り出す。
リゾート用品満載のバッグの中身で、一番先に必要となったのがオコチャマ用体温計になってしまった情けなさ。
案の定、見事なオーバーヒート状態で、「フリダシに戻る」の39.1度。
移動の疲れが出てしまったのか、
高速船のクーラー利き過ぎがマズかったのか、
南国の熱気にやられてしまったのか・・・・
とにかく、午後の攻撃はシオシオのパァとなる。
いずれにしても、昼飯を食わねばなるまい。
いるもて荘には昼飯の準備は無く、交通手段が無いので、必然的に、すぐ近所の『ポケットハウス』というレストランに行く事にする。
新しいシャレた造りの建物で、沖縄っぽさはミジンも無いけれど、ヘンにわざとらしく造られてるよりは良いのだ。
夜の営業が主流なのか、昼間の食事のメニューはちょっと貧弱で、定食が数種類あるだけだったりする。
しかし、大きく海に開けた窓からの眺めは快適で、オヤクソクの様に鳩間島、バラスが覗いている。
店内には、この店のオカミサンらしき人の小さなオコチャマが解き放たれていていて、何やら吠えまくっている。
この環境なら、子連れの我が家も気兼ねしないで済むのも有難い。
う〜む、居心地が良い。
とにかくここで、オリオン&チャンプル&いのしし料理のヤケ呑み食いでもしようじゃないか。
いや、するしかないのだ。
いるもて荘に戻れば、長いながぁい不毛な午後が待っていた。
元気一杯なんだけど発熱中のオコチャマを、ムリに引きずり回したところで、余計にマズい事が待っているのは必至である。
部屋の中で、意味も無く走り回ろうとするオコチャマをなだめたりすかしたりしながら、ひたすら時の流れに身を任せるしかないのだ。
トーチャンカーチャンがセットで引きこもっている必要もなかろうと、まずは朱蘭さまがレンタサイクルでお出かけ。
小一時間ほどで交代し、今度はオトーチャンの番だけれど、オトーチャンはチャリよりもオリオンを選ぶのであった。
広い芝生でゴロ寝し、オリオン片手にただただ海を見て過ごす。
同じ風景と言えども、先ほどまでのウキウキ感と、今の失望感。
それでも鳩間島もバラスも変わらぬ姿を浮かべ、
「ここは西表島ですねん」
などといった感じで、南国情緒を主張し続けている。
嗚呼、明日をも知れぬ我が家となれど、今はただ、オリオンを煽るのみ。