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オリオン日記(2002夏・西表島)その3

ヨスジフエダイ(バラス付近?)

8/13(火)

またまた奇跡が起きた。
朝のオコチャマの体温は37.0度。
昨日の熱は何だったのだ。

それならばと、朱蘭さまは予定通りにダイビングに出発する事になった。
なんでも、西表のすぐ南側に仲ノ神島とかいう小さな無人島があり、そこの海底地形が絶景で、とにかく有名なダイビングスポットなのだそうだ。
朱蘭さまも前々から楽しみにしていた場所なのだけれど・・・・
そのポイントは激しい潮流だかの影響で、めったに潜れる訳ではないとの事。
そのチャンスは月に何日も無く、比較的安定していると言われるこの時期でさえ、一週間ほど滞在する覚悟が必要だとか。
世の中、簡単には思う様に行かないものだ。


オカァチャンの幸運を祈りつつ、取り残された父子はレンタカーでドライブに出掛ける事にする。
まずは『月ヶ浜』へ。
見事なまでに何も無い。
弓なりに延々と続く砂浜に人の姿すら見えず、ずっと浜辺に沿う木陰も気持ち良い。
しかし、せっかくの絶景を前にして、オコチャマは爆睡していやがる。

「出だしからそんな事ではイケん。ここは西表では必須のスポットなのですぞぉ!」

などと言い聞かせ、むりやり起こして渚に連れ出せば、ひたすらビィビィ泣き叫ぶ。
ひと月前に訪れた佐渡でもそうだったけど、どうやら波が怖いらしい。
こんな所で幼児虐待してると思われても困る。
これじゃどうにもならず、早々に退散するしかない。

さっそく海で大泣き(月ヶ浜)

それではオコチャマが起きるまで、島の偵察がてらドライブでもして過ごしませうか。
西表島には島を一周する道路は無く、ちょっとした枝道・小道などを除けば、海に沿って島を4分の3周する2車線道路があるだけだ。
その道は、島の南東の集落『大原』からスタートし、反時計回りに『船浦』、『上原』、島の北側の『星立』『祖納』と過ぎて、西側の『白浜』で終点となる。
そこから先の『船浮』などの集落へは、白浜から船で行く事になる。
我等が滞在する『いるもて荘』があるのは船浦で、そして現在地の月ケ浜は上原と星立の間にある。
特に目的など無いけれど、なんとなく道の終点の白浜を目指して走り出す。
道は快適で、めったに他のクルマを見掛ける事も無い。
たまぁに走ってるのは、どっかの宿の送迎車だったりする。
路線バスの本数が極めてヒサンなので、宿から港への送迎だけでなく、宿泊客を各観光スポットへ連れて行ったり回収に行ったり、そりゃゴクローなのだ。
そういう、道を判りきったクルマしか通らないからか、道案内の標識や観光スポットの看板といった類のものが殆ど無い。
まあ、良くも悪くもスッキリなのだ。
そんなアンバイだから、いきなり携帯に掛かってきたデンワで

「TW組の工藤です。明後日からの夏ミーティング、来れますか?長野県の大平でやるヤツに。」
「ゴメンなさい。今、別の所に来ちゃってるんでムリです」

なんて会話を交わしてたら、自分がどこに来るんだかサッパリ判らなくなって面白い。

とにかくノドカとしか言い様の無いドライブなのだ。
信号など一つも無く、言うまでも無く渋滞がある訳じゃない。
ノンビリと海に沿ったり小さな集落を除いて見たりするうちに、妙に真新しいトンネルをくぐれば、そこが終点の白浜だった。
んもぉアッというまである。
小さな港は岸壁があるだけで、この先の集落に向かう船の姿は見当たらない。
別に船に乗るツモリは無かったけれど、なんとなく便数とかの状況を見たくなり、ポツンと立ってる待合室のようなコンクリ小屋に向かってみると、その正体は公衆便所なのだ。
そしてこの先に行く連絡船の存在を示すものは何も無い。
やっぱり、お馴染み様しか乗らないような船には案内は不要という事なのだろうか。

すでに時刻は12時。
あいかわらずオコチャマは寝たままで、とにかくココに留まっててもやるべき事が無い。
せっかくだからトイレに入って足跡を残し、再び道を北上する。
目指すは『星砂の海岸』なのだ。
着いた頃にはオコチャマも起きる事を期待して、そのあたりでメシにでもしますかな。
なにしろ、メシといっても、まずはオコチャマに食わせねばなるまい。
とにかくオトナは後回しなのだ。


星砂の海岸には、民宿やレストハウスなどがあり、ちょっぴり観光地っぽい雰囲気。
キャンプ場もあり、ハーレーと多摩ナンバーのXLRなどが停まっていたりする。
週一便しかないフェリーで来たのだろうけれど、ロクに走る道も無いのにゴクロウな事である。
ここは、まっ平らな月ケ浜と違って、小さなガケからストンと落ちた所に浜辺がある。
砂は、その名のとおりの星の砂。
目の前には小さな島があったりして風光明媚なのは良いけれど、日陰を作るような木陰が無い。
キョーレツな日差しは、直射日光の下で長時間過ごす事を許してはくれない。
ちょっとした岩場の日陰は、すでに先着の海水浴客に占拠されている。
オコチャマを乗っけたベビーカーを押し、オコチャマ用品を詰め込んだそれなりにデカいバックを背負ってる我が姿、何気に場違い&ブキミなのだ。
そんな格好でビーチパラソルの合間を不審にウロウロと歩き回り、ガケの下にへばりつくような小さな日陰を何とか発見。
そこにオコチャマをセットし、オトーチャンはカンカン照りの下でミルク&ガキメシ作り。
たまらず売店でオリオンを買ってきて、グビグビやりながらガキメシを食わせる。
我ながら、なかなか見事な子連れバックパッカーの様相で、周囲の家族連れ海水浴客の雰囲気からは隔離された感がある。
いわゆる、浮きまくった状態だ。
見て見ぬフリをされているというよりは、存在を否定されているのだろうか。
家族連れの若いオカァチャンが、モロにコッチにおマタを向けて、水着のハミダシチェックなんかしたりする。
おいおい。
おもわず砂浜に手をかざし、自分の影を確かめたりするのであった。

食後のオサンポ(星砂の海岸)

まあ良い。
ガキメシが終わればコッチのもので、次はオトーチャンのメシなのだ。
呑むぞぉ!!食うぞぉ!!
と、上原港を目指す。

西表島から鳩間島までは毎日一往復の郵便船が行き来していて、その船が出るのが上原港である。
離島から更なる離島へ向かう波止場なのだ。
この船には観光客も乗る事が出来るのだけれど、鳩間島に着いたらトンボ帰りになる運行なので、鳩間島で泊まらなければ島内観光は不可能だとの事。
さすがにそれでは乗る訳にはいかない。
それでは何故、上原港に来たのかと言えば・・・・・
そこにあると言ふ、『はとば食堂』でメシを食う為なのだよ。
いるもてフリークの中村家のオススメなのだ。
安さとボリュームがウリだそうな。

その店は、小さな漁港の片隅の、防波堤に沿った細い路地に面した位置に、くすんだ看板を掲げていた。
沖縄風といった風情は全く無く、明治通沿い泪橋付近にでもありそうな、うらぶれた感じの古ぼったい店。
窓は全開で、クーラーなど存在しない事が一目瞭然である。
店を覗き込むと、小上がりのタタミには扇風機3台を一列に並べてフル稼働。
二つしかない土間のテーブルに、これぞ八重山といった感じのジィサマがひとりでふんぞり返って呆然と海を見ている。

はとば食堂よ!
なんともスバラシい光景じゃないか!!
こりはイヤミではなく、本心なのだ。
うすうす気がつき始めたのだけれども、ここは沖縄ではない。
あくまでも八重山なのだ。
ヘンに観光的に着飾っちゃイケんのだ。
事実として、ここいらのシトが那覇に行く用事があるときは

「ちょっと沖縄に行って来る」

と言うそうだ。
「めんそーれ」なんて揉み手でにじり寄って来るのは、沖縄か、せいぜい宮古島あたりまでに任せればよい。
いいぞぉ八重山!!気に入った。
早く、キッチリと八重山にハマった、この店に入りたい!
この雰囲気に浸りたい!
チャンプル食いたい!!
オリオンを、いや、どなんを飲みたい!!


「メシ?もう今日は売り切れだぁ」
土間のテーブルに座った、八重山じぃさんが諭すように呟く。
どうやら、じいさんは店の関係者らしい。
「そ・そんなぁ・・」
ちょっとノンビリしすぎた。
もうすでに2時を大きく回っていた。
呆然と立ち尽くすワタクシに、じいさんは海を見たままで聞いてくる。
「何人だぁ?」
「オ・オトナひとりとコレです」
じいさんは、ハコガメのようにゆっくりと厨房に顔を向け
「お〜い、一人分くらい何とかならないか?」
「ダメよぉ」
コリは、厨房のばぁさんの声。
「ダメだって。申し訳ないなぁ」

ここは八重山。
「なんだよ。ケッ」なんて気持ちなど沸いてこない。
「いいのよいいのよ」といった優しい気持ちで店を後にするものの・・・
新八食堂を始め、上原界隈の数少ない食堂は、みな「休憩中」の看板。
いくら多客期とはいえ、ずっと店を開けるほどの賑わいはないのだろう。
でも、それでいいのだ。
八重山なのだ。


結局、いざるように、またまたポケットハウスに。
キンキンにクーラーで冷えた近代的な店内は、はとば食堂とは別世界であった。
「あら、今日はオクサマは?」
「ダイビングですぅ」
「タイヘンですねぇ」
目の前には鳩間島、そして砂の島「バラス」。
そんなアンバイで、今日もまたココでオリオン漬けに陥るのであった。

クマノミ

一方の朱蘭さま、今日はお目当ての仲ノ神島はムリとの説明で、バラス周辺のスポットを二本ほど潜ったとの事である。
ダイビングにはライセンスが必要で、それが無いワタクシなどには潜ることが許されない。
どうしても潜りたければ、体験ダイビングなる方法がある。
ただしコレでは、たいした所には連れてってもらえず、潜る時間もライセンス保持者に比べたらちょこっとだけなのだそうな。
今日、朱蘭さまが乗った船にも、体験の連中が数名ほど乗っていたそうだ。
彼らは簡単なポイントで一本だけ潜る事が許され、フツーのダイビング組がもう一本潜りに行ってる間は、バラスに上陸させられて放置されていたとの事。
おおっ、あのバラスかいっ。
ポケットハウスからダラけて眺めていても、いくつかのショップのダイビングやシュノーケリングのツアーの船が、入れ替わり立ち代り訪れては去っていくのが見える。
なんだか上陸したら気持ちよさげなのだけれど・・・・・
果たして、半日も放置されていたらどんな感じなのだろうか。
なんたって、完全に砂しか無いのだ。
一コマ漫画の定番の無人島だって、ヤシかなんかの木が一本ぐらい生えてるってのに。
カンカン照りの中、ダイビングスーツに身を包んで体育座りで片寄せあって過ごす面々。
ん〜、ソリはソリで体験してみたい。
バラスに上陸!

遭難者どもを尻目に、「バラス東」とかいう有名ポイントを堪能してきた朱蘭さま、戻ってくるなり
「ねぇ!!明日あたり、仲ノ神島に行けるかも知れないんだって!!明日のダイビングも申し込んできちゃった!」
ホントに行けるのならラッキーなのだけれど・・・・
何気に、幼い頃の祭りの出店の、インチキルーレットもどきを思い出す。
そう、ちゃっちい作りの天秤棒みたいなのをグリグリ回し、糸でぶる下げられた針が止まったところの景品を貰える仕組みのヤツである。
フシギな事に必ずギリギリ外れ、そのたびにテキヤのオヤジは、ハズレの景品のガムを手渡しながら
「おしぃねぇ、ボウヤ。もう一回やれば上手くいくと思うなぁ」
なぁんて自ら悔しがって見せて、いたいけな子供を誘惑するのである。
そんなのと同じ事にならなければ良いのだが。

ダイビングには、陸に上がった後にも『ログづけ』なるオシゴトが待っているとの事。
その日の夜などに一緒に潜ったメンバーが集まり、それぞれが見た魚や何やらを報告しあうミーティングなのだそうな。
まあ、事務的な報告会というよりは親睦会みたいなもので、ログづけが終わると流れで宴会に突入し、ドンチャン騒ぎになっちゃう事もあるそうな。

「そろそろ始めますよぉ」
係りの兄ちゃんの呼びかけに、朱蘭さまもイソイソとダイビング小屋に出向いていく。
残された父子は、表に出て星空と語り合う。

ドッシリとしたサソリ座や御馴染みの北斗七星などの星座は、心なしか位置が違って見える。
南のサソリは高めに、北の北斗七星は低めに。
本土とは緯度が違うので、アタリマエといえばアタリマエだ。
でも、南十字星を見ることは出来ない。
もうちょっと南の波照間島まで行けば、ギリギリ水平線に見えるそうである。
しかし、季節が違うために見えないハズのオリオンは、玄関脇の自販機まで行けばバッチリと姿が見えるのだ。当然、ルービのオリオンの事である。
見るだけじゃ申し訳ないので、小銭まで入れちゃうのだ。
そしてプシュッってしちゃうのだ。
星空のルービ、なんてキモチが良いのだろう。

「なぁ、我が子よ。明日は何をやって、どこ行ってルービを飲もうか・・・」

ムチヤギ


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