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秘境列島(2005GW・トカラ列島)その6
「じゃ、そろそろ行きますかね。まずはドコに行きたい?」
「やっぱり、イマキラ岳の展望台!」
「うん。ソレがイイね」
我が家の3人を乗せて、民宿のオッチャンが運転する軽1BOXは走り出した。
険しい火山島であるトカラ北部の島々と違い、隆起珊瑚礁であるこの島の最高峰は、300m足らずのイマキラ岳。
そのテッペンまではクルマで行く事が出来、天気がよければトカラの島々はもちろん、奄美大島まで見えるというのだから、歩いてでも行くツモリだった場所なのだ。
ちなみに、中之島、平島、臥蛇島、諏訪之瀬島、悪石島、これらの火山島の最高峰は全て『御岳』という名前だったりする。
しかしその読み方は島によって異なり、「おんたけ(中之島)」だったり「おたけ(臥蛇島、諏訪之瀬島)」だったり「みたけ(悪石島)」だったり・・・・・
ますますヤヤコシく、どれがどれだかサッパリ判らなくなってなんだか楽しい。
「ちょっと、観音洞に寄ってから行こうか」
「いいですよ」
この島には至る所に鍾乳洞があり、その代表格である観音洞は、キャプテンキッドが宝物を隠した場所であるとのイイツタエがあるそうだ。
そういうマユツバな話はともかく、
「へぇ、コレか」
という程度の洞窟と、なんだかイナカのバス停のような観音堂にお参りしているうちに、2人のオネェチャンがやって来た。
「おお、どうだった? 水は冷たくなかっただろ?」
「ダイジョーブ。でも、さすがに少し寒くなってきたわね」
オネェチャン達は同じ民宿に泊まっている客で、この観音洞のすぐ下の、大間泊というあたりのリーフで泳いでいたらしい。
どうやらこの観光案内は、このオネェチャン達の回収も兼ねていたのだ。
「この人たちを連れてイマキラ岳に行くんだけど、アンタ達も行くだろ?」
「うん、いくいく」
なかなか効率の良い宿泊客のアツカイだけれど、すでに4人乗りの軽1BOXの座席は満杯なのだ。
しかしオッチャンは、そんな事を気にする素振りなど全く見せずに、荷台のドアを開けた。
「じゃあ、後に乗って」
オネェチャン達も、なんのためらいも無く、水着のままでドヤドヤと荷台に乗り込んできた。
イマキラ岳に登る細い一本道は、なんだかフシギなくらいに直線的だった。
それでも若干のコーナーはあり、その度に、そして荒れた路面の段差の度に、オネェチャン達は奇声をあげる。
まるで、アトラクションを楽しんでいる様子なのだ。
ほどなく、大きなアンテナ塔のある駐車場で、道は終点となった。
「ココから少し、階段を登るからね」
オッチャンが道路脇の草むらで何やらゴソゴソやっているかと思ったら、1.5mくらいの木の枝を手にして戻ってきた。
「ハブが出るからね。気をつけてよ」
この宝島、そして小宝島にはハブが生息しているというのだ。
ますます、気分は沖縄になってくる。
木の枝で階段脇の草むらを叩きながら、オッチャンを先頭に階段を登る。
続いてオネェチャン達が、水着のままで階段を登る。
水着と言っても、パレオとかいうスカートみたいなモノを腰に巻いているので、目の前にケツのワレメが迫って目のやり場に困るという事は無い。
しかし、水着のブラにカラフルなスカートというその姿が、沖縄を通り越し、なんだかハワイあたりの観光ガイドみたいで、ますますココがどこだか訳が判らなくなってきて面白いのだ。
そして到着した展望台は、これまたブッ飛びモノだった。
それは巨大なトカラ馬の形をしていて、その必然性の無さに、もう笑うしかない。
残念ながら海面には若干の霞みが出ていて、奄美大島はもちろん、まだまだ南に続くトカラ列島の上ノ根島や横当島を望む事は出来なかった。
しかし、それを差し引いても大迫力の展望であり、そんな眺めを与えてくれた巨大トカラ馬には感謝せねばならない。
そんな展望台を写真に収めようと、朱蘭さまがカメラを構えて少し後退すると
「うわぁ!!」
「勇気ありますねぇ」
オネェチャン達が口々に叫んだ。
そのあたりは草むらという程の草も生えていないのだけど、とにかくハブがアブナイというのだ。
なんだかんだ言って、所詮オネェチャン達は怖がりだなぁ・・・・・
だいいち、そんな簡単に出てくるワケが無いじゃん。たぶん・・・・・・
などと思ったら、それはマチガイであると後に気付く事になった。
下り道はオトコ2人、オトォチャンとオコチャマが荷台に乗る事になった。
オネェチャン達ばかりを不安定な場所に座らせ、揺れたハズミでポロッと出ちゃったら問題だし、オコチャマの希望でもあったのだ。
段差の度にはしゃぐオコチャマに安心したのか、オッチャンは益々スピードをあげ、なかなかジェットコースター気分。
ヘタにしゃべったら舌を噛みそうで、誰もが無言のまま狭い道を走り抜け・・・・・・
坂を下りきったあたりで、オネェチャンの1人がオッチャンに聞いた。
「昨日のハブ、あれからどうしたんですか?」
「ああ、学校の裏で見つけたヤツかい」
なんと言うことだ。
学校というのは、宿のすぐ裏ではないか。
「アイツは、ブッたたいてヤブの中に捨てちゃった」
「へぇ、こわぁい」
オッチャンは、程なくして、何も無い道端でクルマを停めた。
まさかと思ったら・・・・・
「ホレ、このあたりだよ、捨てたのは」
そしてわざわざクルマを降り、そのあたりのヤブを突っついて見せる。
それどころか、なんとオネェチャン達までクルマを降りてしまった。
「いないわねぇ」
「逃げちゃったのかしら」
ワタクシは、全くクルマから降りる気にはならなかった。
オネェチャン達こそ勇気があり、所詮オトォチャンは怖がりだったのだ。
再びクルマを走らせたオッチャンは、前方を歩いている農作業風のオバチャンの姿を見つけると、クルマを並びかけて停めた。
「このオバチャンはなあ、もう3回も噛まれてるんだぞぉ。ついこないだも噛まれたんだよなぁ」
「ええっ?3回もですかぁ?」
「ダイジョーブだったんですかぁ?」
口々にインタビューを試みるオネェチャン達に対し、オバチャンは、
「ああ。おかげで3日も寝込んだわよ」
少し怒ったような表情を浮かべて吐き捨てるような口調でそう言うと、急に笑顔となった。
な・なんと言う事だ。
この島のハブは『トカラハブ』という小型のハブで、フツーのハブよりは毒性も弱いらしい。
しかし、3日寝込んだだけで復帰してしまうとは、なんたるタクマシサなのだ!
ハブに噛まれる→すぐに血清注射→そして然るべき施設までヘリで運ばれて入院・・・
そんな勝手に思い描いていた構図が、ガラガラと音をたてて崩れていった。
新しく出来たばかりの宝島港、
昔は砂漠地帯だったけれど、植林によって草むらになってしまったという、その名も「元砂丘」、
そしてただただ平らなアスファルトが敷かれているだけのヘリポート。
そんな所を一つ一つ回りながら、やがてクルマは宿に戻った。
「そろそろ温泉も入れる頃だから、行ってみな」
アリガタイ事に、この島には「友の花温泉」という立ち寄り温泉まであったのだ。
「それから、みんな好きみたいだから、夜になったらハブ探しに連れてってあげるよ」
それはヒジョーにアリガタく無い事で、ご辞退申し上げるのに全く迷いは無かった。
イギリス坂の上あたりにある「友の花温泉」は、ちょっとだけ古めの温泉センターといった感じだった。
週に3日、夕方から夜にかけてだけの営業であり、うまい具合に日程が合った事に感謝しなければならない。
ゴージャスな展望風呂とか露天風呂とかがある訳では無いけれど、とにかくキモチいいのだ。
言わば島の人々の銭湯のような雰囲気で、みんな自前の洗面器などを持参でやってくる。
実は、ココには備え付けの洗面器は存在しない。
しかし、まさかマイ洗面器を持ちいている旅行者はいるハズもなく、民宿で貸してくれるから大丈夫なのだ。
そんな訳で、洗面器を見れば島の人か旅行客かは一目でわかってしまう。
我が父子と入れ替わるように入浴客が出てしまい、遂には貸し切り状態になった。
それを良い事に、オトォチャンが体を洗う間にオコチャマをホッポリだしていたら・・・・・・
いつの間に入ってきたのか、中学生か高校生くらいのお兄ちゃんが、我がオコチャマの面倒を見てくれているのだ。
持参の洗面器で判別がつき、更に後から入ってきたオジサンとの会話の内容からしても、どうやら島のお兄ちゃんらしい。
風呂から出る時にお兄ちゃんに一言お礼を言っても、ただただハニカミ顔で会釈をするばかり。
そのさりげなさがサワヤカで、そして妙にカッコいいのだ。
ああ、この島は、ただただノーテンキさだけがウリの島ではなかった。
島民数120人余りのこの島では、優しさが無ければ人が生活する事は不可能なのだ。
夕食後、ホントにハブ探しツアーが決行され、宿のワカモノ達は一団となって夜の闇に消えた。
それに参加する気にはなれず、宿の屋上に昇ってみれば、凄まじいばかりの星空が広がっていた。
トカラからも、水平線ギリギリに南十字星が見えるらしい。
それがいつの季節なのか、また、ココはソレが見えるロケーションなのか、
全く判らないながらも、とにかく目を皿のようにして眺めてみる。
しかし、仮にソレが目に入っていたとしても、
まったくどれがどれやら判別すらつかないような、とにかく星だらけの夜だった。