WIZARDRY RPG
− OutLaws Edition −
■サンプルシナリオ■
◇シナリオプラン 『八部衆』◇
<スクリプト集>
□セッション#1 南海の失楽園
前方に黄金の屋根が見えてきた。あれが南海の楽土と謳われていた王都ディヴァ=ナガラに違いない。埃っぽい街道を急ぐことにした。
すると街道沿いに点在するあばら家のひとつから、垢塗れで薄汚れた年のころ10歳前後と思われる子供が、いやに白い歯を剥きだしてにこやかに声を掛けてきた。
「ねえ、兄さんたちは外国の人? 王さまの布令を見て来たのかい? やっぱり、そうか」
「おいらはアイシュっていうんだ。王宮に行くなら道案内するよ。代わりに駄賃をくれよ。いいだろう?」
(駄賃として1GP以上を渡す)
「わあ、金貨だ! これ王国群のだろう? すげーや。どこから来たの? 王国群かぁ、海を渡ってきたの?」
「……わかったよ。ディヴァ=ナガラはあっちだよ!」
(駄賃を渡さない)
「ちぇっ。けち臭い奴だな。貧者には施すのが、旅人の功徳ってもんだぜ」
「ディヴァ=ナガラに向かうんだろう? こっちだよ!」
城塞都市の城門につくと槍を構えた衛兵に止められる。直ぐにアイシュは追い払われる。
「外国人だな? 鬼哭谷探索の志願者か?」
「そうか。この街で仕事をするつもりなら、賤民に関わるんじゃない。街角で声を掛けて小銭をせびってくる薄汚い人間はだいたい賤民だ。賤民は城壁の中には基本的に入れない。公には“いない存在”として見なされている」
「どうしてって? 賤民は穢れに関わる仕事しか許されないからだ。だから、言葉を交わすんじゃない」
「賤民は前世で過ちを犯した者だ。だから現世で賤民として生まれた。穢れに関わる仕事をまじめに全うして来世で高い身分に上がるしかない」
「鬼哭谷の探索に志願するなら王宮の登録所に行け。この大通りを真っすぐだ」
街角で托鉢しながら辻説法をしていた年老いた僧が、君たちの姿を認めると唐突にやってきた。
「おお! そなたちは外つ国の者だな。さては王の布令に応じて鬼哭谷の探索を志した者たちと見た。いかがか?」
「そうであろう。そうであろう。儂の見立てに狂いはない。そなたちには、何としてもこの国難を救ってもらいたいのだ」
「かつて、このフダラクの国は御仏と諸天の加護を受けた平和で美しい国だった。しかし、その加護の象徴である“如意宝珠”が安置されていた菩提寺に賊が侵入し、何ものかに持ち去られたのじゃ!」
「それからというもの、災厄がこの国を襲い、川は枯れ、作物は実りを付けなくなり、民はわずかな食糧を巡って相争うようになった。そして、白昼堂々と怪物が闊歩する荒れ果てた土地になってしまった……」
「王の夢枕に顕われた観世音菩薩の託宣によれば、“如意宝珠”は北の鬼哭谷に隠されたという」
「そなたたちは王宮へと向かい、その探索の許可を受けると良い」
「大丈夫じゃ。そなたたちならば、きっと“如意宝珠”を手にすることができよう」
「……なに? 儂が何者じゃと問うておるのか? 儂はモガリプッタという。見ての通り一介の僧じゃ!」
「御仏の導きがあらんことを祈っておるぞ!」
衛兵に言われたとおり大通りを真っすぐと向かうと、金色の屋根瓦に覆われた王宮が見えてきた。
王宮の前には武装した衛兵と、白い長衣を着て、頭にターバンを巻いた痩せた男が立っていた。
「外国人だな? 鬼哭谷探索の志願者か?」
「近頃、探索志願者を騙るゴロツキが増えていてな。遠路はるばる来ていただいて申し訳ないが、選別をさせてもらっている。それでも志願するか?」
「よろしい。では、城門から南に半由旬(約7.2km)ほど行くと古代の寺院遺跡がある。そこに隠された金のメダルを持ち帰ってもらいたい」
「中にはちょっとした仕掛けをさせてもらっているが、ちゃんと支度をして挑めば1日で探索できるだろう」
「メダルを無事に持ち帰ったなら、鬼哭谷の探索許可証を発行しよう」
(ゴールドメダリオンを持ち帰る)
「……ん。間違いない! 我々が隠しておいたメダルに相違ない。これで君たちは合格だ!」
「探索の許可証を発行する。無くさないように気を付けたまえ。これを提示すれば、街の施設が利用できる」 (ゴールドメダリオンを入手する)
「良い成果を期待しておるぞ」
□セッション#2 禽獣の棲む街
街角で托鉢しながら辻説法をしていた年老いた僧が、君たちの姿を認めると唐突にやってきた。
「やあ、やあ。そなたたち、王の試練に通ったようじゃな。いや重畳」
「これから鬼哭谷へと探索へ向かうのか? それも良いが……まずはこの国を護っておった八部衆の祠に参拝すると良かろう」
「八部衆とは、かつてこの国の建国王アソッカが御仏の功徳によって調伏して、この国を守護することになった八柱の鬼神のことじゃ」
「伝承では、建国王アソッカは八部衆から祝福を受け、5つの武具を授かったとされておる」
「あるいは、そなたたちにも何らかの加護を授けてくださるやもしれぬ」
かつては見事な彫刻が施された壮麗な石造りの祠だったであろうが、いまでは無残にも崩れ、石材が散乱している跡だけだった。
何とも言えない心持ちで、その遺構を眺めていると、どこからともなく笛の音が聞こえてきた……。
妙なる笛の調べとともに天より光が差したかと思うと、優美な青年の姿をした鬼神が現れた!
「……我は八部衆の一柱、五部浄ぞ。外つ国の者たちよ。よくぞこの地へ参った」
「我ら諸天は、建国王アソッカとの盟約によって永くこの地を護ってきた。しかし、残念ながらアソッカの末裔によって、その盟約は破られた。いまや、我々諸天はそなたたち人間の敵と成ったのだ」
「もし諸天の加護を取り戻したいのであれば、そなたたちは自ら護られるに値するものなのか、かつてアソッカがそうしたように証明せねばならない」
「人間の子たちよ。鬼哭谷へと向かい。盟約の印“如意宝珠”を取り戻すのだ」
「だが、心せよ。我を含めた諸天は、もはやそなたたちの敵と成った。我も次に遭うときは容赦せぬぞ?」
「せめて、そなたらの旅路に御仏の加護が有らんことを願っておる」
五部浄は妙なる笛の調べと共に虚空へと消えた……。
乾いた黄砂が風によって巻き上げられた砂塵の向こうから、人々の悲鳴が聞こえる!
急いで向かうと、あばら家が立ち並ぶ集落を騎馬の集団が襲っている。野盗の襲撃であろうか?
……いや、違う。騎兵たちはいずれも質の良さそうな甲冑で身を包み、手にしている長槍の先に掲げられた小旗にはフダラク王国の国章が描かれているではないか!
騎兵たちは巧みに馬を操りながら、逃げ惑う人々を威嚇しつつ、包囲するかのように輪をなして囲い込んでいる。その中心で狂ったように哄笑を上げながら、騎兵刀を振るう若い男が居た……。
(虐殺を止めようとする)
全身黒ずくめの衣装を着た男たちが唐突に前を遮り、低い声で警告した。
「控えよ! 見れば貴様ら宝珠の探索者だな?」
「あの御方は第二王子スシーマ殿下だ。そして、ここは不可触民の棲む場所だ。ここでは何も起きていない。良いな?」
「貴様らは外つ国の者ゆえに、この度の無礼は見逃そう。……だが、二度目は無いぞ。次におかしなマネをすれば、不敬罪として直ちに処刑する。気を付けることだ」
(様子を見ることにする)
往来を通っていた旅人と思われる者が、駆け寄ってくると君たちに警告した。
「ダメだ! 見るな!」
「……いいか。ここは不可触民の棲家だ。見るんじゃない」
「あんたらは外国の人間だね? いいかい。あいつらは人間じゃないんだ。見ただけで穢れが移るぞ。だから、ぼうっと突っ立って見ているんじゃない」
「あれはスシーマ王子殿下の人狩りだ。娯楽に飢えた殿下は、たまにああやってお忍びで領内をうろついては、不可触民どもを殺して楽しんでいる」
「不可触民なんぞを殺しても、何もならないのにな……。それならクナーラ王太子みたいに兵を連れて鬼哭谷を討伐すれば良いのに……」
「……おっと、口が滑った。今のは聞かなかったことにしてくれ。とにかく、この国に居るつもりなら、王族には必要以上に関わらないことだ」
※スシーマ王子の無軌道な乱行を止めるため、PCが彼の暗殺を謀ろうとするかもしれませんが、それは困難です。計画が露見した場合、PCたちは王族への反逆罪として極刑となります。また秘密裏にそれを謀ったとしても王子の側近による諜報網に掛かり、必ず露見します。それとなくPCに警告を行ってください。
実のところ、スシーマ王子の側近はシャンバラ亜大陸への進出を計画している東部教国の間諜(忍者)です。侵攻および征服後の統治を見据えて、フダラク王国の弱体化計画を密かに進めているのです。もちろんクナーラ王子の戦死やジャラウカ王子の出奔にも東部教国の陰謀が関わっています。
このシナリオの終結後、東部教国は闘争期の覇王タメルランの後裔である“虎(Babur)”と呼ばれた君主を後援し、シャンバラ亜大陸への遠征と新たな帝国(ヒンドゥスターン帝国)の建国を成功させることとなります。
街角で托鉢しながら辻説法をしていた年老いた僧が、君たちの姿を認めると唐突にやってきた。
「おお、戻ってきたな。どうじゃ、何かお告げはあったかな?」
(クナーラ王子について)
「ビンドゥサーラ王には4人の王子が居った。第一王子クナーラ、第二王子スシーマ、第三王子ジャラウカ、そして第四王子マヘンドラじゃ」
「王太子は正妃アサンディーミトラの子、クナーラ王子じゃった。じゃが、兵を率いて鬼哭谷に向かったきり、行方が分からなくなってしもうた。もはや生きてはおるまい」
「そして今の後嗣は第二王子のスシーマとされておるが……。お主らも見たようにあの有様じゃからな。もし王位を継いだとしたなら、ひどいことになるじゃろう」
「残念ながらジャラウカ王子もマヘンドラ王子も生母の身分が低い。それ故に王位を継ぐことができぬのじゃ」
「特にジャラウカ王子は優秀でな。文武に優れた資質を持っておったのじゃが……。母親の身分が奴隷でな。母妃が病死すると、王宮を出奔してしまった」
「マヘンドラ王子は好学の徒じゃ。仏法や法学を熱心に学んでおるが、気持ちが優しすぎる。為政者には向いておらぬのう」
「ビンドゥサーラ王は老いてしまった。もともと可もなく不可もなくといった治世ではあったが、この国難において有効な施策が行えておらぬ。特に次期王として嘱望されておったクナーラ王太子が戦死してから、めっきり衰えてしまった」
「王も後継者のことで頭を悩ませておる……」
(八部衆について)
「……そうか。そのようなことを申されたか……。是非もあるまい」
「しかし、まさか本当に五部浄が現れるとは……。やはり、そなたたちは儂が見込んだ者たちよ」
「そなたたちならば、いずれ必ずや“如意宝珠”を取り戻すことができよう。この国に平安を取り戻してくれ」
□セッション#3 鬼哭谷へ
音もなく、まるで影の中から染み出すかのように漆黒の肌をした鬼神が現れた。
「諸君に警告する。我は八部衆が一柱、夜叉なり」
「この国の民は、自ら我ら諸天の加護を棄てた。永らく山野に潜む怪物どもは我ら諸天が封じてきた。そして王国は富み栄えてきたが、現状はどうだ?」
「民たちは平和を貪り、堕落した。誰も国の危機に際しても自ら武器を取り、家族や国を護ろうとしない。もはや、護られるに値しない国だ。しかし、この国の民でもない君たちが、なぜ如意宝珠を捜そうとする?」
(探索の理由を説明する)
「よかろう。だが、心せよ。警告は一度だけだ」
「次に遭うときは戦となる。我らを斃し、諸天の加護にふさわしい存在であることを証明せよ!」
再び鬼神は、影の中に溶け込むようにして消えた……。
その玄室は埃が積り汚れていたが、不思議と清浄な気配に包まれていた。どうやら、永い間忘れ去られた御堂だったようだ。玄室の壁には石造りの観世音菩薩の彫像が祀られていた。
かつて僧が読経を捧げ、巡礼に訪れた大勢の信者が香を捧げ、熱心に祈っていたことであろう……。だが、石造りの観世音菩薩像は、今も変わらずあるかなしかの微笑を含んで静かに佇んでいる。
(祈りを捧げる)
……奇跡が起きた! 君たちの身体に活力が戻ってきた。 (PCたちのHPが全快し、状態異常も回復する)
君たちは改めて観世音菩薩像に感謝の祈りを捧げた。しかし、観世音菩薩像は変わることなく、ただ微笑を含んで佇んでいた。
※この観世音菩薩像は、何度訪れても祈りを捧げれば奇跡を起こしてPCたちを癒してくれます。
□セッション#4 夜叉の城塞
音もなく、まるで影の中から染み出すかのように漆黒の肌をした鬼神が現れた。
「よくぞここまで辿り着いた。護法善神の一柱として、君たちの実力を試させてもらおう!」
(夜叉と戦闘になる)
「よくぞ我を斃した。かつて建国王アソッカに貸し与えた天将の鎧を託そう。君たちに御仏の加護が有らんこと祈っている!」 (天将の鎧を入手する)
夜叉の姿は煙のように虚空へと消えた……。
□セッション#5 天女の誘惑
玄室の中央に祭壇があり、そこには交合している男女を模った淫靡な彫像が祀られていた。周囲には妙に甘く官能的な香りがする煙が充満していた。
その前に置かれた護摩壇には炎が燃えており、象の頭をした鬼神が一心に呪言を唱えながら、供物を火中に投じて、何やら妖しげな呪術を行っていた。
象頭の鬼神は、こちらに気が付いたようだ……。
「これは宝珠の探索者かな? わたしは歓喜天だ」
「何をしているかって? タントラの秘儀を行っていたのだ。君たちも俗世界のしがらみなぞに囚われておらず、快楽の赴くままに性を謳歌し、ともに解脱に至ろうではないか」
「ん? もしや、その手にしているのは曼荼羅の法具ではないか?」
「それを寄越し給え。それを元に供養曼荼羅を行えば、生きながら涅槃へと到達することができよう」
「意味が解っておらぬようだね。知ることなく彼岸の彼方へ往くがよい!」
(歓喜天と戦闘になる)
歓喜天の姿は煙のように虚空へと消え去った……。いつしか護摩壇の炎は消え失せ、妙に甘い残り香がまだ微かに漂っている……。
玄室には薄い霧が漂っていた。微かに風が吹き込んでその霧が晴れると、玄室の中央で薄い紗を身にまとった美しい女が静かに踊っていた。実に優美で、まるで神話で語られる天女のようだった。
思わず見とれていると、女はひとしきり踊った後にこちらに気付いて、向き直った。
「あら? 貴方たちは宝珠の探索者ね? 歓喜天を斃したのは、貴方たちかしら」
「そうよ。わたしは八部衆の一柱、緊那羅」
「どうして宝珠を探索しているの? そんなことより、今を愉しみましょうよ。人間の一生は短いものだわ」
「形あるものはいつか必ず滅ぶのが宿命というものよ。それに逆らって一時を永らえたとしても、運命を変えることは叶わないわ」
「例え如意宝珠を手にしたとしても、この国の運命は変わらないと言っているのよ。それでも、貴方たちは宝珠を求めるの?」
「……そう。ならば、護法善神の一柱として、貴方たちの実力を試させてもらいましょう!」
(緊那羅と戦闘になる)
「よくぞわたしを斃しました。かつて建国王アソッカに貸し与えた天将の楯を託しましょう。貴方たちに御仏の加護が有らんこと祈っています」 (天将の楯を入手する)
緊那羅の姿は煙のように虚空へと消えた……。
□セッション#6 生命の泉
王都ディヴァ=ナガラの城門の前で、人だかりができている。何事かと覗いてみると、垢じみて薄汚れた少年が血塗れの少女を抱えてうずくまっていたのだ。
少年が顔を上げると、その顔には見覚えがあった。
「あっ、兄さんたち! お願いだ。姉ちゃんを助けてくれ!」
「昨日、俺らの村が人狩りに襲われたんだ。父ちゃんと母ちゃんは俺たちを逃がすために殺された。姉ちゃんも俺を庇って奴らに捕まって……。なんでこんな酷いことをするんだよ」
「……姉ちゃんは必死に抵抗して、腕と脚を斬られた。顔もこんなに殴られて……。ひでぇよ。俺たちが何をしたっていうんだ」
「俺たちは寺院には入れないんだ。何とか助けてくれよ……。お願いだよ」
街角で托鉢しながら辻説法をしていた年老いた僧が、君たちの姿を認めると唐突にやってきた。
「しばらく姿を見せんかったが、どうした? ……その小僧と娘はどうした? 一体、何が起きたのじゃ!?」
「その小僧と娘は不可触民じゃな。……ふむ。儂の見立てによると、その娘の傷は相当に深いな。回復の呪文で傷は塞げるが、内臓に負った欠損は癒すことができん。気の毒だが、このままでは遠からず死ぬじゃろう」
「……じゃが、伝承に残された“生命の泉”が真であれば、その娘の身体を癒すことができるやもしれぬ」
「それは古い伝承じゃ。かつてこの地方では水と結びついた女神への信仰が盛んでな。今では名も忘れ去られた生命の水を司る女神の寺院が在った。その寺院の深部には、あらゆる病や怪我を癒す泉が湧いていたとされておる」
「その寺院は、この王都から西に1由旬(約14.4km)ほど行ったサラスワティ川沿いに在るという。娘の容体はいつ悪化するか判らん。気を付けて行くのじゃぞ?」
玄室の奥には、精巧な石造りの泉の遺構が残されていた。周囲には神話の情景を描いた彫像が随所に飾られ、かつては豊富な水を蓄えていた重要な泉であったのだろう思われた。
……しかし、今はすでに枯れて久しいようで、石畳の底が露出し、砂埃が積もっていた。
「……何か、お困りですかな?」
唐突に後ろから声を掛けられた。振り向くと、いつの間にかそこには白い法衣をまとった東方風の男が立っていた。男は慇懃に一礼した。
「わたしはこの泉の管理人、中陰童子と申します」
「せっかくお越しいただきましたが、ご覧の通り、この泉の水はすでに枯れて久しいのです」
「かつては豊富な水量を有しており、この地方の貴重な水源でございましたが、災厄の訪れとともに干上がってしまったのです」
「かの“如意宝珠”さえ有れば、この地に再び泉を湧かせることができるのですが……」
(如意宝珠を見せる)
「おお! “如意宝珠”ではありませんか! あなた方は宝珠の探索者だったのですね! 素晴らしい。それがあれば、この泉を再び湧かせることができます」
(如意宝珠を渡す)
「……素晴らしい! この地に女神の加護が蘇ることでしょう!」
中陰童子が如意宝珠を捧げ持つと、給水口から水が勢いよく吹き出し始め、見る見るうちに泉を水で満たしていった。
水を手で掬ってみると、冷たく清浄な水と思われる。
「さあ、その傷ついた娘に泉の水を飲ませ、怪我の個所に注ぎなさい」
中陰童子に促されるままに少女に水を飲ませ、怪我の上から水を注ぐと、水が泡立ちながら傷を癒していくではないか! まさに奇跡である!
少女の顔に朱がさし、顔色が劇的に良くなっていく。彼女は命を取り留めたようだ。
「……実に素晴らしい。あなた方の不可触民への分け隔てない慈悲の心が、彼女の命を救ったのです」
「そして、再び“如意宝珠”は失われる。……ご苦労様でした。この宝珠は、我が主の手元へと届けさせていただきます。さらば!」 (如意宝珠を失う)
中陰童子は転移の術によって、“如意宝珠”とともに消えた……。
※泉の水にはデイティティアーと同等の効果があります。しかし、生命の泉は如意宝珠の力によって涌いたため、如意宝珠が失われると再び枯れてしまいます。なお、この水を容器に保存しても効果は維持されません。この奇跡の力はこの地に残された神秘の力に拠るものだからです。
(如意宝珠を渡さない)
「ああ……。実に残念です」
「その傷ついた娘の生命の灯もあとわずかで消え失せるでしょう……」
「慈悲の心を失ったものに“如意宝珠”は相応しくない。わたくしがより相応しい者の元へと送り届けましょう」
中陰童子の手には、隠し持っていたはずの“如意宝珠”が握られていた。掏摸取られたのだ!
「そして、再び“如意宝珠”は失われる。……ご苦労様でした。この宝珠は、我が主の手元へと届けさせていただきます。さらば!」 (如意宝珠を失う)
中陰童子は転移の術によって、“如意宝珠”とともに消えた……。
そして間もなく、少女は息を引き取った……。
□セッション#7 楽士の独白
立派な重層門の前に、まるで漆黒の闇がわだかまっているかのように、頭に笠を被った黒装束の痩せた男が立っていた。
「そなたたちは宝珠の探索者か? 我は乾闥婆城の門を護るもの、死魔童子である」
「主に代わりて、そなたたちの実力を試させてもらおう!」
(死魔童子と戦闘になる)
「……見事だ。さあ行くがよい」
死魔童子の姿は煙のように虚空へと消えた……。足元には死魔童子の使っていた長剣が落ちていた……。 (タルワールを入手する)
門を潜ると、よりはっきりと琵琶の音色が聞こえてくる。優雅だが、どことなく哀愁を帯びた物悲しい音色だった……。
「……客人かな。こちらにおいでなさい」
「わたしは乾闥婆。八部衆の一柱である。……まあ、構えるのは分かるが、わたしは戦う心算はないよ」
「わたしは争いごとが嫌いなんだ。それよりも、このように楽を奏でる方がよほど良い」
(如意宝珠について)
「……さて、どこから話そうか。君たちも、この愚かな事態がどのように起きたのか、疑問に思っているのではないかな?」
「数百年に渡って、さまざまな外敵からこの王都ディヴァ=ナガラを護ってきた宝珠が、こうも容易く失われた。どうしてだと思う?」
「……そうだ。外敵に対して有効な防御も、内なる敵には効果を発揮しなかった。王都ディヴァ=ナガラから、宝珠を持ち出したのはこの王都にて生まれ育った者だ」
「その者の名は、ジャラウカ。……そうだ。ビンドゥサーラ王の第三王子ジャラウカだ」
「彼はもともと文武に通じ、英明な資質を備えていたが、母妃の身分が低かったこともあり、王位継承権を得ることが叶わなかった」
「それでも臣籍降下して、兄である王太子クナーラ王子を臣下として支える心算だった。だが、彼の才能を危険視した王妃の陰謀によって、母妃とともに毒を盛られた。……彼は何とか助かったが、母妃は命を落とした」
「王妃の陰謀によって命の危険を感じ、また王家に絶望した彼は、王国への復讐を決めた。そして、御仏への信仰を捨て、異教の徒となり、加護の源である“如意宝珠”を持ち出したのだ」
「“如意宝珠”の加護がなくなり、外つ国から邪な考えをもつ者も多く入り込んでいる。ジャラウカ王子を援けているのもそういった連中だ」
「異教徒となった王子の手元から“如意宝珠”が失われ、この鬼哭谷の曼荼羅檀に隠されたのだが……。そう。君たちによって持ち出され、また王子の手元に行ってしまった」
「彼はこの王国の滅亡を望んでいる。彼の手に“如意宝珠”がある限り、災厄は止まることはないだろう」
(天将の武具について)
「ああ。かつて建国王アソッカが用いていた武具がある。我々八部衆が管理していたものだ」
「君たちの手元に鎧と楯があるね。残りは剣と兜、そして小手だ。いずれも他の八部衆が持っている」
「いずれも神代に鍛えられた黄金造りの逸品だ。他の八部衆と戦って、ぜひ手に入れてくれ。必ずや戦いの役に立つだろう」
(八部衆について)
「八部衆とは仏法を守護する八柱の護法善神。つまり、御仏に帰依した鬼神だ」
「君たちが既に斃した夜叉、緊那羅。そして、わたし乾闥婆。残るは、沙羯羅、摩睺羅伽、迦楼羅、阿修羅、そして五部浄だ」
「……なかなか、先は険しく、そして遠いな」
(ジャラウカ王子について)
「彼は異教徒だが、建国王アソッカの子孫でもある。建国王アソッカの盟約は今なお有効で、我々八部衆は“如意宝珠”を手にした彼には逆らえない」
「……なぜわたしが君たちと敵対していないのかって? ……なぜだろうな。あるいは、わたしは彼の良心なのかもしれないな」
「さあ、話は終わりだ……。わたしもいつ何時気が変わって君たちと敵対するかもしれん。気を付けることだ」
玄室の中央に白い法衣をまとった東方風の男が立っていた。男はこちらに気付くなり身を翻して逃げようとする。
「ひぃぃ! 殺さないでくれ! わたしはあの男に使役されている哀れな鬼に過ぎない。何でもするから、殺さないで!」
(如意宝珠について)
「“如意宝珠”はすでにジャラウカ王子に献上した。そのあとのことは何も知らない。本当だよ……」
(ジャラウカ王子について)
「あの男は、我々鬼神たちをこの世へと呼び出した主だ。我々は盟約によって、彼に従わなくてはならない。だから、仕方がなかったんだ……。どうか赦してほしい」
(盟約について)
「遥かな古代、我々鬼神は御仏に帰依し、その眷属となった。この国の建国王アソッカは、八部衆を切り従え、その力を借りてこの地を平定した」
「それ以降、八部衆を始めとする鬼神は、アソッカ王との盟約に従って、この国を守護してきたのだ。その盟約はまだ続いている。ジャラウカ王子はアソッカ王の血を引いているからな……」
「これで知っていることは全部話した。見逃してくれ!」
(見逃す) 「ありがたい。あなたたちは正に仏の様だ……。油断したな愚か者! わたしが、貴様らなんぞに首を垂れると思ったか!」 (中陰童子と戦闘になる。敵側の不意打ちとなる)
(見逃さない) 「……貴様らこそ鬼のようだ! 地獄に落ちろ!」 (中陰童子と戦闘になる)
□セッション#8 龍王の宮殿
前方に立派な御殿が立っていた。屋根は瑠璃の化粧瓦で覆われ、壁は白漆喰で塗られており、朱塗りの柱が見る目に鮮やかに映る。
見上げるような重層門を潜ると、御殿の玄関にはワニの頭をした大柄な鬼神が立っていた。
「このような所にはるばるお越しとは、さぞお疲れでしょう。さあ、中で茶でもいかがかな?」
「わたしは宮毘羅と申す。ここ商いをやっております。何かご入用の品がありますかな? また、不要な物があれば引き取らせていただきますよ」
(商売について)
「わたしはこの鬼哭谷に詰めている鬼神やその麾下にある兵士たちの武具の仕入れ、修繕や消耗品の補充などの商い一切を任されております」
「……まあ、たまに来るあなた方のような旅人に、ほんの少しばかり便宜を図ることも、ありますかな」
(水路について)
「ここは沙羯羅龍王の棲む場所でしてね。ご覧の通り、天蓋山脈より流れてきた豊富な水に溢れております。ゆえに水は極低温ですので、間違っても水路の水に浸かろうと考えてはなりませんよ。あっという間に体温を奪われ、溺死しますぞ」
「この水路のいずこかに弁財天の社がございます。何か供物を捧げれば、あるいは援けになるものを授けてくれるやもしれません」
「そういえば、当店では供物の品々も扱っております。おひとついかがですかな?」
水路の先には小さな池があり、その中央に小さな御堂が建っていた。
御堂の中に入ると、石造りの弁財天像が祀られていた。
(供物としてインセンスを捧げる)
焚かれた香の薫りが、御堂の中に満ちていく……。煙の向こうに琵琶を手にした女神の姿がうっすらと見えてきた。
「……久しく供物を受けることがありませんでしたが、良き香を捧げてくれましたね。礼を言います。そなたたちの探索の援けとして、この靴を授けましょう」 (ウォーターウィングを入手する)
「そなたたちの行く末に、御仏の加護があらんことを祈っています」
滝の裏側には青銅の扉が隠されていた。扉を開くと、玄室に通じていた。
玄室の中央に見上げるほどの巨大な蛇がとぐろを巻いている。巨大な蛇は鎌首をもたげた。
「……来たな。宝珠の探索者たちよ。我は八部衆の一柱、沙羯羅である。では、汝らの力を見せてもらおう!」
(沙羯羅と戦闘になる)
「よくぞ我を斃した。かつて建国王アソッカに貸し与えた天将の剣を託そう。汝らに御仏の加護が有らんこと祈ろう」 (天将の剣を入手する)
沙羯羅の姿は煙のように虚空へと消えた……。
□セッション#9 暗渠の蛇神
前方に燐光を放ったおぼろげな姿が立っている……。
見れば、立派な象嵌を施された甲冑を身に着けているが、あちらこちらに血糊が付いており、恐らく戦死した武将の亡霊のようだ。
「……そなたたちは生きている人間か? この鬼哭谷に来ているということは……宝珠の探索者か?」
「そうか。わたしはビンドゥサーラ王の息子クナーラだ。鬼神たちの急襲を受けて、武運拙く敗れ、そして死んだ……。だが、未練が残っていて成仏できず、ここを彷徨っている」
「王国はどのような状況だろうか? 父上や弟たちは息災だろうか?」
「……そうか。まさか、“如意宝珠”を奪ったのが、ジャラウカだったとは……。しかも、その原因が我が母の陰謀だったとは……。なんとも、嘆かわしい。……民を導く責務を負った王族の欲望と憎悪によって、“如意宝珠”が失われたとは、偉大なる先祖に顔向けができない」
「そなたたち宝珠の探索者には、本当に頭が上がらない。この国のために、よくぞここまで来てくれた」
「……せめてもの礼にこれを授けよう。我が王家に代々伝わる宝剣だ。それとこの護符も。この先できっと役に立つはずだ」 (エメラルドシミターとローズガーランドを入手する)
「そなたたちの行く道に、御仏の導きがあらんことを祈っている。では、さらばだ……」
王子の亡霊は、薄くぼやけ闇の中に消えていった……。
暗闇の中から、煙のように何かが湧き上がってきた……。やがてそれは人の形となった。
「クックックッ……。見えるぞ。聞こえるぞ。貴様らが見て見ぬふりをして見捨ててきた者たちの恨めし気な貌が、怨嗟の声が……」
「ここは、最も黄泉の国に近き場所ぞ。……それ、貴様の前にも恨みを呑んだ亡者が居るぞ」
(アイシュ少年の姉を見殺しにしていた場合)
「ほれ……。王族に弄ばれ、命を奪われた娘が、呪わしげに貴様を睨んでおるぞ。さあ、無念を晴らすときじゃ!」 (煩悩魔入道およびチュレルと戦闘になる)
(アイシュ少年の姉を助けていた場合)
「ははっ! 忘れたか? 王族の人狩りをただ眺めていたときのことを! さあ、無念を晴らすときじゃ!」 (煩悩魔入道およびと毘陀羅と戦闘になる)
闇の中から影が染み出したかのように巨大な蛇が這い出してくると、鎌首をもたげた。
「……儂は八部衆の一柱、摩睺羅伽じゃ。そなたらの力を見せてもらおう!」
(摩睺羅伽と戦闘になる)
「よくぞ儂を斃した。かつて建国王アソッカに貸し与えた天将の兜を託そう。そなたらに御仏の加護が有らんこと祈っておるぞ」 (天将の兜を入手する)
摩睺羅伽の姿は煙のように虚空へと消えた……。
□セッション#10 天空の庭園
その高台にはコリント様式の石柱が立ち並び、中央にはまるで舞台のような石檀があつらえてあった。
(篳篥を使う)
篳篥を吹くと、それに合わせるようにどこからともなく美しい歌声が聞こえる……。ふと頭上を見上げると、薄い紗を身にまとった美しい女が歌い、舞い踊りながら降りてきた。
「……こんにちは。宝珠の探索者たちね。わたしは迦陵頻伽。御仏に歌を捧げるものです」
「楽を奏でたのはそなたですね。この天空庭園を備えなしで進むことは、さぞ難しいことでしょう。この鶴翼の靴を差し上げましょう」 (ウィングブーツを入手する)
「この靴を履けば、飛び石の参道を平坦な道を歩むかのように渡ることができるようになります」
「そなたたちのこれから進む道は険しく、困難を伴うことでしょう。心して進むのです。御仏の加護がありますように……」
参道を抜けると奥宮へと通じる扉が見えた。すると大きな羽音とともに天空から巨大な影が降ってきた。
「八部衆の一柱、迦楼羅が見参した! さあ、汝らの力を見せてもらおう!」
(迦楼羅と戦闘になる)
「よくぞ我を斃した。かつて建国王アソッカに貸し与えた天将の小手を託そう。汝らに御仏の加護が有らんこと祈っているぞ」 (天将の小手を入手する)
迦楼羅の姿は煙のように虚空へと消えた……。
□セッション#11 阿修羅の道
玄室の中央に巨大な影が屹立していた。三面六臂の異形の姿だが均整が取れており、鬼神とは思えない穏やかで憂いを含んだ表情をしていた。
「……さて、宝珠の探索者よ。余は八部衆の一柱、阿修羅である」
「そなたたちが“如意宝珠”を求めるのであれば、余はそなたたちを止めねばならぬ。いざ、戦を始めようか」
(阿修羅と戦闘になる)
「……この先に“如意宝珠”を手にした主が居る。心せよ……」
阿修羅の姿は煙のように虚空へと消えた……。
□セッション#12 復讐者の貌
水天宮の玉座に腰かけていたのは、中東風の装束に身を包んだ青年だった。その貌は、どことなくビンドゥサーラ王に面影が似ていた……。
「宝珠の探索者諸君よ……よくぞここまで辿り着いた。まったく賞賛に値するよ」
「俺はビンドゥサーラ王の第三王子ジャラウカだ」
「……父上やこの国の民には、心底呆れたよ。国の存亡を外国人である君たちに預けるとはね」
「……誠に残念だが、この国は亡ぶべきだ。自らの危機を自ら取り除くことのできない国は存続する価値がない」
「この国は道を誤ったのだ。建国王は御仏から如意宝珠を授かり、自ら切り従えた鬼神たちの加護をもって国を安らかにしたが、その永く続いた泰平の世がこの国を脆く、弱いものに変えてしまった」
「建国王が作り上げたこの揺り籠の中で、王族も民たちも古代からの規範を忠実に守り続け、その秩序に疑問を抱くことなく日常を送り続けてきた。延々とだ。だが、そんな日常ももう終わる。そう……審判の刻だ」
「……では、始めようか? 審判の刻を告げる天使よ! いざ、ラッパを吹き鳴らせ! 裁きの時は来たれり!」
(ジャラウカおよびアズライール、イスラフィールと戦闘になる)
□セッション#13 審判の刻
「……莫迦な。俺が、このような者たちに敗れるとは……」
「いや……まだだ。まだ終わらんぞ。……忌まわしい王族の血だが、まだ利用価値がある」
「八部衆よ! 血の盟約を果たせ! アソッカの血を対価として、この国を亡ぼせ! 出でよ、五部浄! 世界の浄化を果たせ!!」
最期の力を振り絞って、ジャラウカ王子は自らの首を掻き切って自害した。その血しぶきが如意宝珠を朱に染めた。
すると妙なる笛の調べとともに、天上から光が差し掛かり、優美な青年の姿をした鬼神――五部浄が出現した……。
「……血の盟約に従い、参上した。我が主よ。そなたの願い、確かに聞き届けた……」
「……さて、そなたたちと見えるのは久方ぶりだな。我らが加護を受けるに相応しいか、試さねばならん」
「もし我が加護を受けるに値せねば、主との盟約に従い、この国を滅ぼさねばなるまい」
「まえにも申したが、手加減はできぬ。……許せよ」
(五部浄と戦闘になる)
「見事なり! そなたたちは我らが試しを無事終えた。新たなる盟約の印として“如意宝珠”を持ち帰るが良かろう」 (如意宝珠を入手する)
「都の大菩提寺に戻すも良かろう。また、この奥にある次元の裂け目へと還すも良いだろう。そなたたちの選択に任せよう」
(菩提寺に戻す)「かつてのようにこの王国は御仏と八部衆の加護によって怪物どもが出現することもなく、この国に悪意をもつ者が立ち入ることはできなくなるであろう」
(次元の裂け目に還す)「加護は失われるだろう。だが、ジャラウカの召喚した怪物どもは消え失せ、彼の願った災いもまた消えるだろう。この地は普通の土地に戻るのだ」
「……では、さらばだ。そなたたちに御仏の加護があらんことを願おう」
五部浄は妙なる笛の調べと共に虚空へと消えた……。