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貧乏クジの男

〜「愛のあかし」後日談〜

第1章第2章第3章(最終章)


第1章

 ブルマの第2子懐妊の噂は、チチを介して瞬く間に広まった。祝いと称して毎日のようにいろんな連中が電話をかけてくる。
 ブルマが電話をとった。どうせまた、くだらん祝いの電話だろう。ヒマなやつらだ。オレはリビングのソファにもたれて新聞を広げる。
「あらぁ、ヤムチャ。久しぶりね〜。元気だった?」

 ヤムチャだと!?

 オレは新聞を放り出し、ソファから跳ね起きた。ブルマは一瞬けげんそうにこちらを見やったが、すぐに会話に戻った。
「……うん、そうなのよ。もう嬉しくって〜。ありがと。……うん」

 言うなよ。言うなよ〜〜〜〜っ!!!

 オレは必死で念じた。情けない話だが、オレがこの女の行方を追ってあの野郎のところにまで乗り込んでいったなどと、死んでも知られるわけにはいかん。
「うん、わかったわ。じゃあね。バーイ」
 オレの祈りが届いたのか、何事もなく電話は終わった。体中を耳にしていたオレはホッと胸を撫で下ろし、何くわぬ顔でまた新聞を広げた。ブルマは少し膨らんできた腹でぽてぽてと歩き、部屋を出て行く前にオレを振り向いて笑った。
「ヤムチャがね、これからお祝いに来てくれるんだって」

 なんだと!?

「かあさーん、ご馳走の用意するから手伝って〜。ヤムチャがね〜……」
 真っ白になったオレの頭の中で、ブルマの声がフェードアウトした。


 ピンポーン。玄関のチャイムが鳴った。オレの心臓が跳ね上がる。応対に出たブルマの声がする。
「早かったわね。ヤムチャ。あら、プーアルは?」
「いやそれがその……ここに来るって言ったら怯え……いやその、た、体調がちょっと」
「ふーん、風邪かしら」

 ズドドドドドドドドドドドドドドドド……

 エレベーターに乗るのももどかしく、オレは階段を5段飛ばしで駆け下りた。目を丸くしてこっちを見ているブルマの顔はほとんど視界に入らない。オレの剣幕に驚いて、あんぐりと口を開けているヤムチャの野郎に、オレはつかみかからんばかりに飛びついた。

「よ、よく来たな。待っていたぜ」

 相手に答える隙を与えず、オレはやつの肩に腕を回――――そうとしたが、身長差があるのでそれはあきらめ、ほとんど抱きかかえるようにして、やつをブルマから出来るだけ遠くへと引き離した。
「ちょっとベジータ、なにすんのよ」
 腰に両手を当てて、ブルマが声を張り上げる。オレは怒鳴り返した。
「オレたちはこれから重力室でトレーニングだ。邪魔するな」
「えっ!?」
「そうだよなあぁ!?」

 オレが凄むと、ヤムチャのやつは気圧されたように、カクカクとうなずいた。
「えーっ、せっかくご馳走の用意したのに。後にしたら」
「うるさい。オレたちは今、たまらなくトレーニングがしたいんだ。そうだよな!?」
「は、はひ;」
「もう、しょうがないんだから」
 溜息混じりに言うブルマの声を背中で聞いて、オレはそのままヤムチャを重力室へ引っ張り込むと、みっちり5時間はしごいてやった。重力室から這い出た時のやつは、うまい具合に口もろくにきけないありさまだった。


「え〜、帰るの?」不満げなブルマの問いかけに、やつはぜえぜえと肩で息をしながらうなずいた。オレはやつを玄関まで抱えて降ろしてやると、ブルマが呼んでおいたタクシーに押し込み、精一杯の笑顔で言ってやった。

「また来い。いつでもしごいてやる」

 やつの顔に一瞬怯えたような表情がよぎった。これでいい。走り去るタクシーに向かって、オレは会心の笑みをもらした。


「いったいどうした風の吹き回し? ヤムチャじゃトレーニングの相手にならないでしょうに」
 リビングにもどったオレに、不思議そうにブルマが尋ねる。
「たまには目先を変えようと思ってな」
 オレはこれに懲りて当分やつの足が遠ざかることを確信した。

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